日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
レオンチェフ・パラドックス
れおんちぇふぱらどっくす
Leontief Paradox
ヘクシャー‐オリーンの定理によれば、資本の豊富な国は資本集約的な産業に比較優位をもち、資本集約的な財を輸出するであろう。しかし、世界でもっとも資本が豊富な国であると考えられた1947年当時のアメリカ経済について、ヘクシャー‐オリーンの定理を検証しようとしてW・レオンチェフが産業連関分析に基づいて行った研究では、アメリカの100万ドル相当の輸出品の生産に要した労働は、1人の労働者の年間労働時間で表して約182人分、資本額は255万ドルであり、一方、輸入品をアメリカ国内で100万ドル生産するとした場合に必要となる労働は約170人、資本額は約309万ドルとなって、アメリカの輸出産業は輸入産業に比べて労働集約的であることが明らかになったのである。ヘクシャー‐オリーンの定理とは相反するこのような逆説的な結果を、レオンチェフ・パラドックス(逆説)という。このような逆説的な結果については、種々の解釈がなされている。レオンチェフ自身は、アメリカの労働が外国に比べて質が高く約3倍の能率をもつから、それを換算すればアメリカは労働が豊富であると考えた。そのほかには、労働と資本だけでなく土地という生産要素を考慮すべきだとする説、生産技術水準は国際間で同一ではないからそれを考慮すべきだとする説、資本集約度は生産要素価格の変化に伴って逆転することもあるとする説などがある。
[志田 明]