レディメード(その他表記)ready made

改訂新版 世界大百科事典 「レディメード」の意味・わかりやすい解説

レディ・メード
ready made

〈既製品〉の意味だが,ダダ時代のM.デュシャンが,一連の量産品に署名しただけのオブジェを〈レディ・メードのオブジェ〉と呼んだことに由来する。ダダやシュルレアリスムのオブジェは,セザンヌからキュビスムをへて20世紀美術に台頭した物体への意識がはっきりと即物的な面であらわれたもので,とくにシュルレアリストたちは,意識下の領域の象徴としてオブジェをとらえようとした。デュシャンの《泉》と題された便器が,レディ・メードの典型だが,ここに性的暗喩がこめられているのは事実としても,作家自身はこう書いている。〈マットMutt氏(デュシャンの偽名)が《泉》を自分の手でつくったか否か,はたいした問題ではない。彼がそれを“選んだ”のである。彼は生活の日常的な品物をとりあげ,新しい題名と新しい観点の下で,その有用な意味が消え去るように,それを陳列した。つまり,ある物体にたいする新しい思考をつくり出したのだ〉。かつてJ.J.ルソーが〈真理は物を判断する精神のなかにあるのではなく,物そのもののなかにある〉と書いた思想が,産業社会のレディ・メードの中でよみがえった,といえよう。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「レディメード」の意味・わかりやすい解説

レディメード

既製服」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のレディメードの言及

【オブジェ】より

…その先駆は,未来派の彫刻家ボッチョーニが,1911年,多様な素材を合成して〈生の強度〉に迫るべく,毛髪,石膏,ガラス,窓枠を組み合わせた作品をつくり,ピカソがキュビスムの〈パピエ・コレ(貼紙)〉の延長として,12年以後,椅子,コップ,ぼろきれ,針金を使った立体作品を試みたあたりにある。デュシャンは13年以後,量産の日用品を加工も変形もせず作品化する〈レディ・メード〉で,一品制作の手仕事による個性やオリジナリティの表現という,近代芸術の理念にアイロニカルな批判をつきつけ,ピカビアの〈無用な機械〉と名づけた立体や絵画も,機械のメカニズムをとおして人間や芸術を冷笑した。第1次大戦中におこったダダは,これらの実験を総合し,アルプやハウスマンの木片のレリーフ状オブジェや,シュウィッタースのがらくたを寄せ集めた〈メルツMerz〉,エルンストの額縁に入った金庫のようなレリーフ状作品などで知られる。…

【デュシャン】より

…上下に仕切られたガラスの上部に肉片のような〈花嫁〉を,下部に機械的な〈独身者〉を描いた《大ガラス》は,子どもを生む女=母=創造の象徴である〈花嫁〉と,自慰=不毛=味けない日常の象徴である〈独身者〉との,永遠に交わらない愛を暗示する神話的世界である。第1次大戦中,ニューヨークでマン・レイらと〈ニューヨーク・ダダ〉運動を起こし,パリではA.ブルトンのシュルレアリスム運動に参加,男性用便器や瓶掛け,自転車の車輪など,量産品に署名をしただけのレディ・メードオブジェを提示し,手仕事の特権性を嘲笑すると同時に,産業社会での素材や表現の新しい可能性を示唆した。デュシャンはまた,〈グリーン・ボックス〉や〈ホワイト・ボックス〉などに集められた数多くのメモを書きつづけ,独自な言葉遊びや晦渋な観念作用を,発生状態のままの言語として残し,〈網膜的〉な美術を,非網膜的な〈見えない〉世界にまで拡大した感がある。…

※「レディメード」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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