日本大百科全書(ニッポニカ) 「アブドゥッラー物語」の意味・わかりやすい解説
アブドゥッラー物語
あぶどぅっらーものがたり
Hikayat Abdullah
東南アジア、マラッカ生まれのアブドゥッラー・ムンシ(アブドゥッラー・ビン・アブドゥル・カディル・ムンシAbdullah bin Abdul Kadir Munshi、1797―1854)の生涯の物語。自叙伝。1849年刊。著者は敬虔(けいけん)なイスラム教徒で、イギリスのマレー半島植民地支配が着々と進んだ時代に、ラッフルズらイギリス人官僚のマレー語・文化の教師として生きた。交遊、見聞、印象、思索を内容とする。従来の宮廷中心であったマレー文学に初めてリアリズムの分野を開き、近代マレー文学の先駆となる。文学的な価値と同時に、鋭い観察力をもって正確に記述された本書は、19世紀のマレー半島の貴重な歴史の証言でもある。
[佐々木信子]
『中原道子訳『アブドゥッラー物語』(平凡社・東洋文庫)』