18世紀末以後 20世紀までヨーロッパにおいて福音書を主たる資料として行われたイエス伝構成の試みをいう。一般に合理主義的,実証主義的立場に立ち,史的批判的方法によって人間イエスの生涯とその特徴を描くことに努め,教会の伝統的なキリスト観に対抗ないしこれを批判するものが多かった。 H.S.ライマールス,D.F.シュトラウス,E.ルナン,J.ワイスなど多くの有力な学者,思想家が,それぞれの新約研究をふまえて独自のイエス伝を発表したが,歴史的,客観的という主張にもかかわらず,いずれも時代思潮や主観的前提の影響から脱することができず,永続的な承認をかちとることができなかった。この間の事情を詳説して,イエス伝研究に破産宣告を下したのが A.シュバイツァーの『イエス伝研究史』 Geschichte der Leben-Jesu-Forschung (1906) である。イエス伝研究の資料としては『マルコによる福音書』が一般に最も信頼できるものとされたが,20世紀になって様式史的研究の台頭により福音書には歴史的資料として大きな制約があることが知られるにいたって,イエスの生涯を伝記として構成することの可能性はいよいよ疑問視されている。