(1)私法上は,一定の事実を認めることをいう。意思表示ではなく,〈観念の通知〉の意味で用いられることが多い。例えば,時効の中断事由としての承認(民法147条3号)は,時効が完成すれば義務を免れることになる義務者の側から権利者に対して一定の事実の認識を表示することであり,また,嫡出子たることの承認(776条)は,子が嫡出子である事実を認めることであって,いずれも〈観念の通知〉である。これに対して,相続の承認(915条以下)は,相続人が単純相続または限定相続をする旨の意思表示である。(2)公法上では,一般に,国の機関相互の間における事前または事後の同意を承認というが,その内容・性質は場合によって異なる。日本国憲法は,天皇の国事行為には内閣の助言と承認を必要とする旨を定めている(3条,7条)が,この場合の内閣の助言と承認は,天皇の国事行為が内閣の意思に基づいて行われるべきことを意味する。また,内閣が条約を締結する際の国会による事前または事後の承認(73条3号)は,条約の成立要件である。法律においては,例えば,地方自治法上,国の地方行政機関(いわゆる出先機関)は国会の承認を経なければ設置できない旨が定められている(地方自治法156条6項)が,これに対して,地方公共団体の長が議会不成立などの場合に行う専決処分に対する議会の事後の承認(179条3項)は,承認が得られない場合でも,専決処分の効力には影響はなく,長の政治的責任が残るにとどまるとされている。なお,公法上の承認としては,そのほかに,国以外の者が国の機関の承認を得ることを要するものとされている場合がある。これは,国の特別の監督下にある法人の予算・決算等の財務に対する国の関与の一形態として,国の機関の承認を受けるべきことが定められている例が多い(日本銀行法38条,放送法37条2項等)が,これとは異なって,国の行政処分たる許可・認可等と同義で承認の語が用いられたこともある(旧〈外国為替及び外国貿易管理法〉11条)。
執筆者:中島 茂樹
〈国家の承認〉〈政府の承認〉および〈交戦団体の承認〉がある。国家の承認は,既存の国家が新たに成立した国家に国際法上の国家としての地位を認める行為である。政府の承認は,革命等により政府の変更が生じた場合に新政府に当該国家を代表する地位を認める行為である。交戦団体の承認は,内乱等の場合,一部の地域を支配している団体に一定の範囲で国際法上の権利義務の主体となることを認める行為である。承認は伝統的な国際法上の概念であるが,最近政府承認については,革命の過程で非人道的な行為を行ったような政府を承認することが,本来の承認の意味を離れて,新政府の過去の非人道的行為を是認するとの意味あいで受けとられることになるおそれがあることなどから,伝統的な政府承認の制度をとどめ,新政府との実際上の接触の問題として処理しようとする国が増える傾向がみられる。
国家承認は,対象となる国家が国家として確立していることが必要である。すなわち,領土,国民およびこれらを実効的に支配する政府が存在することが必要である。政府承認は国家が存続しているときに政府の変更が生じた場合に問題となるものであるが,この場合には新政府がその国の領域一般を実効的に支配していることが必要であり,さらに,新政府が国際法を遵守する意思と能力を有しているかどうかも考慮される。また交戦団体の承認は,その団体が一定の地域を支配し,そこで事実上政府としての実質を有していることが必要である。これらの要件を充足しているか否かは,承認を行う個々の国が判断することであるが,要件を満たさないのに承認することは〈尚早の承認〉といわれ国際法上無効とされ,本国政府に対する干渉行為となる。他方,要件を満たす場合には承認しなければならないかということについては学説が分かれるが,承認の義務はないとするのが通説と考えられている。
承認は一方的な行為であり,相手国あるいは相手政府との合意によるものではない。その方法は,明示の承認と黙示の承認がある。明示の承認は,承認する旨を宣言したり通報したりすることにより明示的に行う場合である。黙示の承認は承認の意思が一定の行為により黙示的に表示される場合である。二国間条約の締結,外交関係の開設,領事認可状の付与等がこのような行為とされている。
国家承認の効果は,被承認国に国際法上の国家としての地位が認められることにあり,政府承認の場合には,被承認政府にその国を代表する地位が認められるということにある。もっとも,承認によってはじめて国家としての地位が生じるのか,あるいは,被承認国にはすでに国家としての地位は生じており,承認は単にこれを確認するにすぎないものであるのかということについては説が分かれる。前者の考え方を〈創設的効果説〉といい,後者を〈宣言的効果説〉という。
このような承認の効果は,承認国と被承認国または被承認政府との間でのみ生じるという意味で相対的である。すなわち,新たに成立した国が,ある国により承認されたからといって第三国もその新独立国に国家としての地位を認めなければならないということにはならない。また逆に,新独立国は,このような第三国から国家としての義務を負わされることもない。
国家承認が行われると,同時に,あるいはその後の早い時期に外交関係が開設されることが多い。しかし,外交関係の開設は,それ自体1個の法律上の行為であり,承認の効果として当然に外交関係が開設されるわけではない。
執筆者:野村 一成
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一般的には他人の行為に対して肯定的意志を表示すること。しかし、法律的には次のように使われている。
承認には種々の態様があるが、代表的なのは国家承認、政府承認および交戦団体の承認である。
〔1〕国家承認 新国家が成立(合併、併合、分離独立等により)した場合、既存の個々の国家が新国家の国家性を認定し、もって新国家を国際団体に加入させ、国際法の主体として認める行為を国家承認という。(a)国家承認は一定の要件の下に行われる。第一に独立の政府が一定の領土および人民に対し実効的権力を確立していること、第二に国際法を遵守する意思と能力があることである。要件が充足されない状況下で承認を行えば、尚早の承認となり、実際はともかく理論的には無効というべく、本国より分離独立する場合には本国に対する干渉となり、違法とされている。(b)方式には、まず明示的承認と黙示的承認の別がある。前者は通告、宣言、条約等により承認の意思を明示することであり、後者は同盟条約など重要な二国間条約の締結、正式の外交関係の樹立等によって承認の意思が間接に推定されることである。さらに、法律上の承認と事実上の承認の別がある。前者は要件の充足を前提として行われるのに対し、後者は要件の充足に疑念がもたれる際に行われる暫定的承認であって(前者と異なり、撤回可能)、限定的実務関係をもたらすにすぎないことがある。(c)効果は、国家は事実上成立した段階で一定の重要な権利義務を享有すると考えられるが、承認によって承認国との間に一般国際法上の関係が全面的に形成される。しかし、承認が個別的に行われる結果、その効果は承認国と被承認国間のみにかかわり、その意味で相対的である。
〔2〕政府承認 一国内で政府が革命やクーデターにより非合法的に交替する場合に、新政府に旧政府にかわって当該国を代表する資格を認める行為を政府承認という。政府が非合法的に変革しても、領土および人民は依然新政府の基礎をなすので、国家としては同一性を保つというのが伝統的国際法の立場である。(a)要件は、第一に新政府が領域一般および住民に対し実効的支配を確立していること、第二に新政府が国家を代表する意思と能力があること、とくに旧政府の条約上の権利義務を継承することである。(b)方式は国家承認の場合と変わらない。(c)効果は、被承認政府が承認国との関係で国家を正式に代表する資格を認められることである。また、被承認政府との間に一般国際法上の関係がもたらされ、革命またはクーデターによって適用停止状態に置かれた旧政府締結条約も承認に伴い効力を復活する。
〔3〕交戦団体の承認 反乱団体が一国から分離しまたは一国の政府を転覆する目的をもって一定の地域を占拠し、地方的事実上の政府を樹立するまでに内乱が拡大した段階で、第三国または正統政府が当該反乱団体に一定の国際法主体としての地位を認める行為。その場合、第三国は自国民の権益保護のために、正統政府は内乱の残虐化防止のために交戦団体の承認を行うことが多い。(a)要件は、反乱団体が一定地域を実効的に占拠し、地方的政府を樹立していること、反乱団体が戦争法規を遵守する意思と能力があること。第三国が行う場合には、単なる同情や激励でなく承認が自国の権益保護など必要な関係にあることである。(b)方式は明示的にも行われるが、第三国は中立宣言により、正統政府は交戦法規の適用により黙示的に行うことが少なくない。(c)効果は、第三国が行う場合には正統政府および交戦団体双方に対し中立義務を負う。他方で、交戦団体は第三国の権益保護義務を負う。正統政府が行う場合には、交戦団体との間に交戦法規が適用され、正統政府は第三国の権益保護の責任から免れる。
[内田久司]
国・地方公共団体の機関が、一定の行為を行うについて、他の権限ある機関から与えられる同意に承認または承諾の語が用いられる。
〔1〕天皇が国事行為を行うにあたっては、内閣の助言と承認がなければならず(憲法7条)、これがなければ、天皇は行為をできない。条約に対する国会の承認(憲法73条3項)は条約の成立要件である。
〔2〕内閣総理大臣による緊急事態の布告には国会の承認が必要である(警察法74条)などがある。
[高橋康之・野澤正充]
一定の事実を認めること。時効中断事由としての債務の承認(民法147条3項・156条)、嫡出子の承認(同法776条)などのように単なる「観念の通知」である場合が多い。つまり、一定の事実を認めることにより、法が一定の効果を付与する(時効の中断、嫡出を否認する権利の喪失など)ものである。
しかし、相続の承認(同法915条以下)は、家庭裁判所に対する申述(しんじゅつ)という方法を伴う法律行為である。
[高橋康之・野澤正充]
『田畑茂二郎著『国際法における承認の理論』(『法律学体系 第2部 法学理論篇13』所収・1955・日本評論社)』▽『広瀬善男著『国家・政府の承認と内戦』上下(2005・信山社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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