インフルエンザ菌およびその他のヘモフィルス感染症

内科学 第10版の解説

インフルエンザ菌およびその他のヘモフィルス感染症(Gram 陰性悍菌感染症)

(16)インフルエンザ菌およびその他のヘモフィルス感染症
定義・概念
 インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)はヘモフィルス属のGram陰性通性嫌気性桿菌である.1890年にPfeifferと北里柴三郎によりインフルエンザの患者からはじめて分離され,当初インフルエンザの原因菌であると考えたためインフルエンザ菌と名づけられた.ヒトの気道にいる常在菌の1種である.莢膜を有し,莢膜血清型によりa~fの6種類の血清型に分類される莢膜株と,莢膜をもたず血清型の同定ができない非莢膜株がある.本菌によるおもな感染症としては,結膜炎,中耳炎,副鼻腔炎,喉頭蓋炎,肺炎,膿胸,化膿性関節炎,蜂窩織炎,敗血症,髄膜炎などがあるが,喉頭蓋炎,化膿性関節炎,敗血症,髄膜炎などの侵襲性感染症は莢膜株のうち血清型b型(Hib)による場合がほとんどである.これらのインフルエンザ菌感染症は基本的には5歳未満の小児に多いが,成人では慢性気道感染症の急性増悪に非莢膜株が二次感染の形で関与している場合が多い.
 インフルエンザ菌には,β-ラクタマーゼ産生によるアンピシリン耐性菌(β-lactamase producing ampicillin resistant:BLPAR),ペニシリン結合蛋白(PBP)の変異による薬剤親和性低下によるアンピシリン耐性菌(β-lactamase non-producing ampicillin resistant: BLNAR),および両者の耐性機序を併せもつ耐性菌(β-lactamase producing ampicillin/clavulanic acid resistant:BLPACR)が存在する.わが国においては,近年BLNAR,BLPACRの増加が認められている.
病理・病態生理
 気道感染症の場合は,上気道に常在するインフルエンザ菌が,ウイルスなどによる気道感染に引き続き,中耳腔や副鼻腔,下気道に侵入,増殖して発症する.侵襲性感染症の場合は,上気道に定着した菌(多くの場合Hib)が粘膜から侵入し,血行性に感染を起こして発症する.
臨床症状
 各感染症に対応した臨床症状を呈する.
診断
 感染部位からのインフルエンザ菌の分離・培養により診断する.血液,髄液,胸水,関節液,鼓室穿刺液などの通常無菌部位からの本菌の検出は病因診断としてきわめて有用であるが,痰や上気道粘液からの検出は,本菌が上気道の常在菌であることを考慮し,起炎性について慎重に判定されるべきである.
治療
 BLPAR,BLNAR,BLPACRのすべての耐性菌に強い抗菌活性を有する抗菌薬は,新世代セフェム系薬,メロペネム,ニューキノロン系薬である.アンピシリンはアンピシリン感性菌に対して,ピペラシリンはアンピシリン感性菌およびBLNARに対して,β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬はアンピシリン感性菌およびBLPARに対して,それぞれ抗菌活性を有する.
予防
 Hibによる侵襲性感染症に対しては生後2カ月以降の乳幼児を対象としたHibワクチンの有効性が確認され,WHOからも接種勧告が出されている.わが国においても2008年12月から接種が開始された.[岩田 敏]
■文献
Barenkamp SJ: Haemophilus influenzae. In: Textbook of Pediatric infectious Diseases, 6th ed (Feigin RD, Cherry JD, et al eds), pp1734-1756, WB Saunders, Philadelphia, 2009.
Murphy TF: Haemophilus species (Including H.influenzae and Chancroid). In: Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed (Mandell GL, Bennett JE, et al eds), pp2911-2919, Churchill Livingstone, New York, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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