スピン-格子緩和(読み)スピンコウシカンワ

化学辞典 第2版 「スピン-格子緩和」の解説

スピン-格子緩和
スピンコウシカンワ
spin-lattice relaxation

外部磁場のもとで平衡状態にあるスピン系は,磁場に平行向きに分極した磁化を示す.いま,この平衡状態の磁化をなんらかの方法で非平衡状態にすると,スピン系以外(格子系という)とエネルギーを交換して平衡状態に戻る.この過程をスピン-格子緩和という.緩和過程は指数関数で記述される.緩和の速さを表す時定数をスピン-格子緩和時間といい,通常,T1 で表す.外部磁場方向への回復であるため,縦緩和ともいい,T1 のことを縦緩和時間ともいう.スピン系の非平衡状態は,外部磁場を変化させたり,スピン系の共鳴周波数をもつ電磁波をパルス的に照射したりすることによってつくりだすことができる.後者では,平衡状態の磁化を反転させたり,飽和させて0にしたりしてから,外部磁場方向に回復してくる磁化の大きさを時間とともに観測することによって T1測定する.それぞれ,反転回復法,飽和回復法という.電子スピンの場合,T1 は非常に短いが,核スピンの場合はスピンのおかれた環境によってマイクロ秒から数千秒にわたる広い範囲で変化する.核スピンの緩和機構としては,原子分子の運動,伝導電子,常磁性不純物上の電子スピンなどがあり,T1 の温度変化の測定によってそれらに関する情報が得られる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報