テラシギラタ(英語表記)terra sigillata

改訂新版 世界大百科事典 「テラシギラタ」の意味・わかりやすい解説

テラ・シギラタ
terra sigillata

ギリシア・ローマ考古学における陶器の一分野を指す言葉ではあるが,形式分類としての明確な概念規定はない。ただし,一般的には,前2世紀のヘレニズム陶器のうち,ペルガモン陶器のごとく,母型によって形成された装飾文を貼付した埦などに石英質の多いスリップ(クリーム状の陶土)をかけて焼成した陶器に起源をもつとされる。焼成温度はテラコッタと同じ800℃前後であるが,精製された粘土を使用するため薄く硬質な特徴を有していた。ローマ共和政末期から後4世紀まで地中海世界の各地で生産されたが,とくにアレッツォ(古名アレティウム),ポッツオリ(古名プテオリ),南フランスのものが多い。アレッツォ産のテラ・シギラタアレッツォ焼(アレッティーノ)として区別する場合もある。用途は一般食卓用であるが,表面の赤褐色もしくは暗褐色光沢,それに厳格な器形は金属器を模倣しようとする意図のあったことを示している。産地によって,器形,装飾モティーフ,スリップの色が異なり,繁栄した時代も違うため,出土地の通商圏,年代などを研究する際の貴重な考古資料である。また前1世紀後半以降のテラ・シギラタには窯の刻印が付されており,経済史の資料としても重要である。
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世界大百科事典(旧版)内のテラシギラタの言及

【アレッツォ焼】より

…アレッツォ焼は,ローマ帝政初期の工芸美術の重要な資料であるが,その限られた製作年代のゆえに,年代比定や交易圏を知るうえでも重要な資料なのである。アレッツォ焼とほとんど同じ技法によって作られた陶器をテラ・シギラタと呼び,ガリア,南イタリア,北アフリカなどで製作されたことが知られている。したがってアレッツォ焼は広義のテラ・シギラタに含められる。…

【陶磁器】より

… ローマの先史時代を飾るビラノーバ期からエトルリア時代の前10世紀~前5世紀にかけて,イタリア半島では人物をかたどった蔵骨壺や陶棺,ブッケロと呼ぶ黒色陶器などユニークな陶芸活動を展開した。またローマ時代は1世紀の前後のわずか数十年間,中部イタリアのアレッツォでテラ・シギラタと呼ばれる押型の浮彫のある赤色陶器が大量に生産され,それらはローマの属州であるアルプス以北まで運ばれ,ドイツのケルンやイギリスのカストールなどで模倣された。ローマ時代の陶器で他に大きな発展を遂げたのは鉛釉陶器である。…

※「テラシギラタ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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