ネオニコチノイド殺虫剤(読み)ねおにこちのいどさっちゅうざい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ネオニコチノイド殺虫剤」の意味・わかりやすい解説

ネオニコチノイド殺虫剤
ねおにこちのいどさっちゅうざい

殺虫剤を化学構造に基づいて区分したときの分類の一つ。毒性の高いニコチンを化学合成し、低毒性化させた殺虫剤の総称である。

 ニコチンは、1828年にタバコの植物体から初めて得られた、塩基性の強い3-ピリジルメチルアミンを基本構造とするピリジルアルカロイドの一種で、強い殺虫効力を有することから、天然殺虫剤として用いられている。タバコにはニコチンのほか、ノルニコチンおよびアナバシンとその他の微量類縁アルカロイドが含まれており、これらを総称してニコチノイドという。ニコチンの硫酸塩である硫酸ニコチンは、果樹アブラムシや軟体幼虫の接触毒として使用されるが、哺乳(ほにゅう)動物に対する急性毒性が高い。

 こうした、ニコチノイドの哺乳動物に対する高い毒性を低減するために化学合成されたものがネオニコチノイド殺虫剤である。まず1978年に高殺虫活性で低毒性のニトロメチレン系化合物ニチアジンが発見されたが、光に対し不安定であった。1992年にはニコチンの3-ピリジルメチル基をニチアジンに導入した構造的特徴を有するイミダクロプリドが開発された。その後、さらに構造改変され、5種類の類縁体が登場した。また、3-ピリジルメチル基を神経伝達物質のアセチルコリンの構造から導かれた塩素原子を含まない構造に置換したジノテフランが開発された。

 ネオニコチノイド殺虫剤の殺虫作用は、神経伝達物質アセチルコリンの受容体でありシナプス後膜に存在する昆虫のニコチン性アセチルコリン受容体への高活性に起因するが、ニコチンと異なり、哺乳動物の脳のニコチン性アセチルコリン受容体への親和性は低い。哺乳類に低毒性であり、魚毒性も低く、また、浸透移行性に優れているため、広範囲の昆虫のみならずハダニに対しても高い活性をもつ優れた殺虫剤であるが、ミツバチのニコチン性アセチルコリン受容体にも結合するためその影響が懸念されている。

 ニコチノイドおよびネオニコチノイド殺虫剤と化学構造は異なるが、環形動物イソメの毒性物質ネライストキシンは、ニコチン性アセチルコリン受容体に競合的に結合し、アセチルコリンによる神経伝達を阻害する。この化学構造を原型として、とくに、ニカメイチュウおよびイネドロオイムシに殺虫効果があるカルタップ、チオシクラムおよびベンスルタップが開発された。

[田村廣人]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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