日本大百科全書(ニッポニカ) 「アブラムシ」の意味・わかりやすい解説
アブラムシ
あぶらむし / 蚜虫
油虫
aphids
plantlice
昆虫綱半翅(はんし)目に属するアブラムシ科Aphididae、タマワタムシ科Pemphigidae、カサアブラムシ科Adelgidae、フィロキセラ科Phylloxeridaeの昆虫の総称。別名アリマキ。植物体に群生。体は小さく、1~4ミリメートル。紡錘形から球形のものが多く、柔らかい体をしている。腹部背面の後方に1対の突出した角状管をもつ。形態的には多型で、いろいろな変異がみられる。はねは無翅、長翅、短翅型がみられ、色彩にも個体変異が大きい。全世界で3000種以上、日本に700種以上が知られている。多くの植物に寄生し、汁液を吸収して生活する。生活史は複雑で、典型的なものは1年の大半を胎生する雌(幹母)だけで繁殖し、秋になって両性生殖をする個体が出現し、受精卵で越冬する。また季節的に寄生植物をかえる移住型の種類が多い。たとえばモモアカアブラムシは、モモやウメなどの樹木に卵で越冬し、春に孵化(ふか)して寄生ののち、有翅虫が出てナスやキャベツなど野菜類へ移り、秋まで繁殖を続け、秋の有翅虫がモモへ戻って産卵する。種によっては、有翅虫は風にのって上空を数百キロメートル以上も長距離飛行することが可能である。アブラムシは農業や園芸上の害虫となるものが多い。直接的な害は、吸汁されることにより葉や茎の成長が止まり、やがて黄変して枯死する。なかには、その寄生によって虫こぶを形成する種がある。また間接的な害としては植物ウイルス病を媒介し、作物を全滅させることもある。アブラムシの排出物には好んでスス病菌が発生し、葉などを黒く汚す。アブラムシの出す甘露はアリ類に好まれ、アリ類により保護を受けて共生するものが多い。別名のアリマキ(アリの牧場の意)はそれに由来する。個体群の増減は急激で、天敵にテントウムシ、ヒラタアブ、クサカゲロウなどの捕食性昆虫や、アブラムシヤドリコバチ類などの寄生性昆虫が知られるが、とくに春はアブラムシより天敵の発生が遅れるので、防除にはエストックス乳剤などを使う。なお、ゴキブリ類をアブラムシとよぶ地方もあるが、これはまったく別の種類である。
[立川周二]