アセチルコリン(読み)あせちるこりん(英語表記)acetylcholine

翻訳|acetylcholine

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アセチルコリン」の意味・わかりやすい解説

アセチルコリン
あせちるこりん
acetylcholine

動植物に広くみいだされる塩基性物質CH3COOCH2CH2N+(CH3)3で、コリン酢酸エステルである。とくに脊椎(せきつい)動物の副交感神経や運動神経で、刺激を伝達する物質として重要である。交感神経ではノルアドレナリンが同様の伝達物質として作用する。神経細胞の接合部(シナプス)において、刺激は方向性をもって、一つの神経細胞末端(シナプス前節)から、他の神経細胞(または刺激伝達の標的となる筋肉細胞)の表面(シナプス後膜)へと伝達される。これを媒介する物質がアセチルコリンである。すなわち、シナプス前節で合成、貯蔵されていたアセチルコリンは、刺激によって細胞外へと分泌される。シナプス後膜にはアセチルコリン受容体アセチルコリンエステラーゼがあり、前者は分泌されたアセチルコリンを新たな刺激へと変換(たとえば筋肉細胞におけるナトリウムイオンの流入と、これに伴うカルシウムイオンの筋小胞体からの放出によって、筋収縮がおこる)し、後者はアセチルコリンを加水分解する。これら一連の過程は、正常な神経系では瞬間的におこり、細胞外のアセチルコリンはただちに消失するが、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤化学構造類似した毒ガス殺虫剤などの有機リン剤)が存在すると、アセチルコリンは分泌されたまま蓄積して、異常な興奮状態が持続することとなり、動物を死に至らしめる。これらの有機リン剤が神経毒であるゆえんである。

[若木高善]

『宇井理生編『受容体と情報伝達』(1986・東京化学同人)』『勝部幸輝ほか編『タンパク質2 構造と機能編』(1988・東京化学同人)』『葛西道生ほか編『神経情報伝達――脳機能の分子レベルでの理解をめざして』(1988・培風館)』『永津俊治ほか編『脳のレセプターと運動』(1990・平凡社)』『ルドルフ・ニューヴェンフィス著、新井康允ほか訳『脳の化学組成』(1991・シュプリンガー・フェアラーク東京)』『マックス・ペルツ著、林利彦・今村保忠訳『生命の第二の秘密――タンパク質の協同現象とアロステリック制御の分子機構』(1991・マグロウヒル出版)』『川合述史著『分子から見た脳』(1994・講談社)』『ディビッド・G・ニコルス著、青島均訳『神経情報伝達のメカニズム』(1997・シュプリンガー・フェアラーク東京)』『山口徹ほか編『KEY WORD 心臓病』(2001・先端医学社)』『梅田悦生著『奇跡の新薬開発プロジェクト』(講談社プラスアルファ新書)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アセチルコリン」の意味・わかりやすい解説

アセチルコリン
acetylcholine

コリン作動性神経や神経筋接合部における神経伝導の化学伝達物質。神経興奮時に神経終末から遊離し,シナプス後膜に作用する。化学伝達物質にはほかにノルアドレナリンがあり,自律神経系を機能的にコリン作動性神経とアドレナリン作動性神経に分類することができる。アセチルコリンはコリンと酢酸から生成される。コリンエステラーゼによりすぐに分解されるので,作用が一過性であり,治療薬としてはあまり用いられない。抗コリンエステラーゼ剤を用いれば,作用は増強し,延長する。類似の化合物で作用が長く持続するメサコリン (メコリール) ,カルバコール (カルコリン) ,ベタネコール (ベサコリン) が,末梢血管の循環障害,手術後の腸管麻痺,膀胱麻痺による排尿障害などの治療に用いられる。 (→副交感神経遮断剤 )  

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