ビデオ・アート(読み)びでおあーと(英語表記)video art

翻訳|video art

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビデオ・アート」の意味・わかりやすい解説

ビデオ・アート
びでおあーと
video art

ビデオ映像、モニターを応用するテクノロジー・アートテクノロジカル・アート)の一種。1958年にフォステルWolf Vostell(1932―1998)が白黒テレビの画像を加工したのが最初ともいわれるが、一般には1963年にナム・ジュン・パイク(白南準(ペクナムジュン))がテレビ受像機を用いた個展を開催、1965年ニューヨークでビデオを上映したのが、ビデオ・アートの始まりとされる。

 映画とは異なり、容易に収録、編集、変換ができることから、ブラウン管上の映像表現に限らず、リアルタイム(即時)性を生かしたビデオ・パフォーマンスモニターを空間的に配置するビデオ・インスタレーション、ビデオ彫刻、遠隔地との同時交信映像によるビデオ・テレコミュニケーションなどの表現手法があり、いずれにおいてもナム・ジュン・パイクが先駆的役割を果たしてきた。

 今日では、ビデオ・カメラの高性能化・小形化、モニターの大形化・液晶化、ビデオ・プロジェクター普及に伴い、テープ作品のみならず多様な展開がなされている。コンピュータを利用した映像をいち早く手がけたエムシュワイラーEd Emschwiller(1925―1990)、審美的な映像のビオラBill Viola(1951― )、額縁に入れた小形液晶モニターに動くポートレートを表示するセント・ジェームズMarty St. James(1954― )、複数のモニターを用い日常をコミカルに表示するソランPierrick Sorin(1960― )、縫いぐるみの顔にプロジェクターで奇妙な表情を映し出すアウスラーTony Oursler(1957― )らが、それぞれの特性を生かした独自な作品で知られている。

 日本では、1972年(昭和47)に結成されたグループ「ビデオひろば」に加わった山口勝弘が大規模なインスタレーションを展開し、また1978年の「東京国際ビデオアート」展(東京・銀座ソニービル)で中心的な役割を果たした。初期に活動した中谷芙二子(なかやふじこ)(1933― )はビデオギャラリー「SCAN」を主宰し、1985年にビデオ・パフォーマンスの山本圭吾(けいご)(1936― )は「ふくい国際ビデオ・フェスティバル」を立ち上げた。ほか前衛映画実験映画)から転じた松本俊夫(1932―2017)はコンピュータ制御による合成装置を用いた変換画像で、飯村隆彦(いいむらたかひこ)(1937―2022)はコンセプチュアルな作品で、アメリカ在住の久保田成子(しげこ)(1937―2015)はインスタレーションで知られている。

 映像機器のデジタル化に伴い、ビデオによる実写映像とコンピュータ生成画像との融合も進みつつある。

[三田村畯右]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「ビデオ・アート」の意味・わかりやすい解説

ビデオ・アート

ビデオを表現手段として用いる芸術。先駆的アーティスト,ナムジュン・パイクは,1960年代からテレビのモニターを取り入れたパフォーマンスや複数のモニターを積み上げたり並置するインスタレーションを行ってきた。持ち運び可能なカセットの開発に伴って1970年代から1980年代にかけて表現手段として急速に広まっていったが,純粋に作品としての映像を広範囲に流通させるには至らなかった。ビル・ビオラやゲイリー・ヒルといったパイク以降の世代のアーティストには,モニターと他の要素を組み合わせインスタレーションとして空間を構成する傾向が強い。また,ミュージシャンのプロモーション・ビデオを手掛けたロバート・ロンゴのように,創作活動の一環としてビデオ制作に取り組む作家も登場してきている。→インタラクティブ・アートテクノロジー・アートメディア・アート

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ビデオ・アート」の意味・わかりやすい解説

ビデオ・アート
video art

ビデオ装置を活用した芸術。ビデオとは「見る」というラテン語からきた言葉で,主としてテレビジョン・システムによって伝達される画像と音声,もしくは画像のみを指す。ただし,画像や音響を記録する磁気テープそのものをこう呼ぶこともある。 1963年,韓国生まれのナム・ジュン・パイクは,テレビ画面を磁気的なゆがみで操作する『変形する受像機』を発表,ビデオ・アートの先駆けを成したが,本格的な幕開けは,画像と音声を磁気テープ上に記録するビデオ装置が市販されるようになってからである。 60年代後半以降,美術や映画,コンピュータなどに携わっていた人々がこの分野に参入,実験的な作品を生み出した。フィルムに比べ,収録・編集・変換が容易にできるビデオには,新しい表現の可能性が秘められている。表現形態は多彩で,1台のモニタに映像作品を映すものばかりではない。環境装置としてモニタを配置するビデオ・インスタレーションや,遠隔地と映像交信するテレ・コミュニケーションなど,さまざまな試みが発表されている。近年では,作家の個展やビデオ・フェスティバルも開かれるようになってきた。

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