翻訳|installation
本来は「設置、架設」を意味するが、美術の領域では、画廊、もしくは屋外の任意の空間に彫刻や立体、あるいはそのほかの事物を据え付けることによって、重層的な「意味空間」を生み出す行為をさすことばとして用いられている。インスタレーションの萌芽(ほうが)として、既製品をほとんど手を加えずに展示した、マルセル・デュシャンのいわゆる「レディーメイド」の諸作品や、クルト・シュビッタースの「メルツバウ」をあげることは可能であろう。また荷造り用の箱のレプリカ(複製)をつくって展覧会場に積み重ね、画廊空間を商品倉庫に変えたポップ・アートのアンディ・ウォーホル、大地や砂漠、湖や山峡などの自然に直接働きかけて作品を生み出す、いわゆるアース・ワーク、さらに幾何学的な抽象を極限にまで推し進め、絵画や彫刻を本質的な要素に還元しようとしたミニマル・アート(とりわけ建築的なスケールを備えた彫刻)などにもインスタレーション的手法がすでにして明らかである。
1970年代後半から顕著になったこのインスタレーションの手法は、事物とその周囲の環境との相互作用によって、ひとつの作品では生み出しえない、ある「メッセージ性を帯びた」全体をつくりだすことを目ざすものといえようが、その代表者としては、ビデオの映像装置を操るナム・ジュン・パイク、ロシアのアパートの居室や廃校を再現したイリヤ・カバコフ、アリゾナの砂漠地帯にトンネルを掘り続けるジェイムズ・タレル、記録写真によって公文書保管庫(アーカイブ)のごとき作品を生み出すクリスチャン・ボルタンスキー、街なかや橋の下に建築資材や廃材を組み立てて作品を構成する川俣正(かわまたただし)といった作家の名前を逸することはできない。
匿名の人間のさまざまな記憶と結びついた生の痕跡(こんせき)とよぶべきものを喚起させる、こうしたインスタレーションの手法の大きな特色は、濃密な物語性を秘めた三次元的イメージが一定の空間を満たし、かつ、さまざまなメディア(絵画、彫刻、写真、ビデオ、音響など)を自由に横断するという、その際だった「異種交配」ぶりにある。さらに、任意の空間に任意の事物を据え付けるというインスタレーションの方法は、自らの創作の現場を閉ざされた私的なアトリエから開かれた公共空間に置き換えようとする作者たちの意図を如実に示すものともいえよう。インスタレーションの作者たちの芸術的意思は、まさに設置という「行為」によって初めて実現されるからである。この点で、インスタレーションは本来的な語義である「設置」という行為を不可欠の基礎としており、しかも、不可避的に「撤去」を伴う営為なのである。
[村田 宏]
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(山盛英司 朝日新聞記者 / 2007年)
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… 現代,コンピューターを用いて作られたアートは大きく次の三つに分類できるだろう。静止画やアニメーション,SFXを駆使した映像的な作品,空間や装置を使った展示・体験型作品(インスタレーション),そしてインターネット上のアートやCD-ROMのようにデスクトップ上で見ることができるマルチメディア作品である。アプローチ方法によって,ディジタルアート,メディアアート,サイバーアートと呼ばれる場合もある。…
※「インスタレーション」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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