アメリカのビデオ・アーティスト。ニューヨーク生まれ。1970年代初めから精力的にビデオ・アート、ビデオ・インスタレーションを制作し、ビデオ・アートの表現の可能性を広げた。
1973年にシラキュース大学を卒業。1972~1974年エバーソン美術館(ニューヨーク)におけるビデオ展示助手としてナム・ジュン・パイク、ピーター・キャンパスPeter Campus(1937― )を補佐。1973年に音楽家デビッド・テュードアのワークショップで学び、多大な影響を受ける。1974~1976年フィレンツェにあるヨーロッパ最初のアート・ビデオ制作スタジオ「アート/テープス/22」に勤務する。この間、ジュリオ・パオリーニGiulio Paolini(1940― )、ビト・アコンチ、ヤニス・クーネリスJanis Kounellis(1936―2017)らの制作に参加。1976~1977年ソロモン諸島、ジャワ島、バリ島を訪れ、伝統芸能を記録する。1980(昭和55)~1981年、日本アメリカ創造芸術奨学金を得て日本に住み、禅を学ぶかたわら、アーティスト・イン・レジデンスの制度を利用してソニーの厚木研究所で制作活動を行い、メディア・アーティスト中谷芙二子(なかやふじこ)(1933― )とのコラボレーションによるサウンド・パフォーマンス・イベント『山からの調律』(1980)を行う。その後、フランスのナント美術館の依頼により、17世紀につくられたチャペルに設置されるインスタレーション『ナント・トリプティック』(1992)、作曲家エドガー・バレーズの曲『砂漠』(1950?~1954)を視覚化した同名のフィルム(1994)、イギリスのダーラム大聖堂の依頼によるビデオ・インスタレーション『メッセンジャー』(1996)などを制作する。
ビオラの関心は、一貫して知覚体験を掘り下げることにあった。ビデオ作品での極端なスローモーションや複数のスクリーンへのビデオ・プロジェクション、映像と実際の器物を組み合わせたインスタレーションは、観客を知覚体験の主体として包みこみ、意識を日常の外へと誘導し、宙づりにするために、緻密(ちみつ)に設計されている。1976年の『彼は君のために泣く』では、暗い部屋のなかで蛇口の水滴にカメラが向けられ、その膨張から落下までの過程が拡大映像として後の壁に映し出された。水滴がレンズの役割をし、向き合う観客の姿を映し出す。観客は、自らの鏡像ができごとの中心的見せ物となり、突然消滅する過程を体験する。
またビオラは、古代や中世のキリスト教の神秘思想、禅、イスラムのスーフィズムを研究し、東西の枠組みを超えた普遍的な死生観や意識の拡大についての知識を観客に体感させようと試みた。作品では、生と死やその間を移動する人間の歩みを暗示するために、光と闇、新生児と死にゆく人物、水と火などが対比された。さらに彼は、中世やルネサンスの祭壇画、壁画、寓意(ぐうい)的絵画の構図やその心理的機能を自身の装置にとりこんだ。
そうした哲学的思考の空間化・体験化は、1977~1980年の短編ビデオ作品集『反映する池――1977~1980年の仕事』The Reflecting Pool; Collected Work 1977-1980に始まり、その後20年にわたり、さまざまな作品を通じて行われた。トリプティック(キリスト教の三連の祭壇画)の瞑想(めいそう)を促す機能を土台に、安らかな自然の風景と火事による都市の崩壊の画像の間に市議会の映像を挟んだ1989年の3チャンネル・ビデオ・インスタレーション『人間の都市』、2002年にドイチェ・グッゲンハイム美術館(ベルリン)の依頼により制作された、ジョットの壁画をヒントに人間の誕生、死、再生の周期を表現した5種類のビデオ・プロジェクションによるインスタレーション『日毎の前進』は、いくつかの作品で試みられた実験を統合した記念碑的作品である。
1993年ZKMとジーメンス・カルチャー・プログラム合同のメディア・アート賞受賞。1977年ドクメンタ6(ドイツ、カッセル)、1975~1987年と1993年ホイットニー・バイエニアル(ニューヨーク)、1986年と1995年ベネチア・ビエンナーレ、1992年ドクメンタ9など多数の重要な国内、国際展に参加。1997年にホイットニー・アメリカ美術館によって企画された回顧展はアメリカ、ヨーロッパを2年にわたり巡回した。
[松井みどり]
『Lewis Hyde, Kira Perov, David A. Ross, Bill ViolaBill Viola (catalog, 1997, Whitney Museum of American Art, New York)』
バイオリン族の中音楽器。バイオリンとほぼ同形であるが、1/7ほど大きく、胴の標準サイズは42.5センチメートル。共鳴の点からは約53センチメートルが理想的であるが、演奏の容易さと共鳴との妥協によって現在のような大きさになった。4本の弦はバイオリンより5度低くA4-D4-G3-C3と調弦され、音域はC3-A5。構え方と奏法はバイオリンとほぼ同じであるが、楽器が大きいためその技術的制約は大きい。
ビオラは、1535年ごろにビオール族の一種がバイオリンの影響を受けて発展したもので、17世紀まで主として音響面からアルト、テナーなどさまざまな大きさのものがつくられた。ストラディバリの現存する11の名器やダ・サロらの名器にはかなり大きいものもある。18世紀初めには大きさもほぼ統一されるが、演奏上、音響上の難点からその後も種々の改良が試みられる。リッターのビオラ・アルタ(1876製作)はその一例であり、現在では名奏者ターティスLionel Tertis(1876―1975)のモデル(1937年製作)に倣う製作者も多い。
ビオラは、鼻にかかったようなじみな音色と技術的な困難さから、長く独奏楽器とは認められず、主として合奏の中声部を受け持つ楽器として用いられた。合奏のなかで重要な地位を占めるようになったのはバロック以降で、コレッリ、ビバルディ、ジェミニアーニの合奏協奏曲、バッハ、ヘンデルの宗教曲、管弦楽曲などにみられる。協奏曲はテレマン、C・シュターミッツが最初であり、モーツァルトの協奏交響曲(1779)における独奏ビオラの用法は特筆に値する。古典派に入ると合奏のなかでの重要性も飛躍的に高まる。とりわけハイドン、モーツァルト、べートーベンの弦楽四重奏曲では、各声部を均等に用いる声部書法によって、独奏的といえるほど表現力が引き上げられた。その傾向はロマン派でさらに発展され、シューマン、ブルックナー、スメタナ、ブラームス、ドボルザーク、マーラー、バルトークらの交響曲、弦楽四重奏曲にその好例がみられる。協奏的作品としてはベルリオーズの交響曲『イタリアのハロルド』(1834)があげられる。20世紀に入ると、バルトーク、ウォルトンらの協奏曲や、ミヨー、ブロッホ、ピストンらの独奏曲などをはじめとして多くの作曲家がこの楽器の独奏的資質に関心を抱くようになる。なかでもヒンデミットは名ビオラ奏者でもあり、協奏曲、独奏曲を数多く残した。
なおビオラviola(イタリア語)、バイオルviol(英語)はビオール族など中世ヨーロッパのリュート属擦弦楽器の総称としても用いられる。
[横原千史]
『マルク・パンシェルル著、山本省・小松敬明訳『ヴァイオリン族の楽器』(白水社・文庫クセジュ)』
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弦楽器の一種。バイオリン属の中音楽器。ドイツ語ではブラーチェBratsche,フランス語ではアルトaltoという。バイオリンより完全5度低く調弦され,奏法は基本的にほぼバイオリンと同じである。楽器の大きさは胴長38cmから45cmくらいで,一般に独奏者は小さめ,オーケストラ奏者は大きめのものを用いることが多い。弦楽器の合奏においては中音域を受け持ち,内声の和音の充実に欠かせない楽器である。プリムローズが世に出て以来,独奏楽器としても脚光を浴びるようになり,彼のために作られたバルトークの《ビオラ協奏曲》はとくに有名。またこの楽器はJ.S.バッハ,ベートーベン,ドボルジャークをはじめ多数の大作曲家がたしなんだことから,〈作曲家の楽器〉ともいわれている。なおビオラ,ビオル(フランス語),バイオル(英語)は,ヨーロッパの中世から18世紀の弓奏の弦楽器の総称としても用いられる。
→ビオル
執筆者:浅妻 文樹
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…日本へは江戸時代末に,オランダの船によって渡来したといわれ,胡蝶菫(こちようすみれ)とか遊蝶花(ゆうちようか),あるいは人面草(じんめんそう)などと呼ばれていたが,その当時は,まだヨーロッパで改良品種がつくり出されたばかりで,これがすでに渡来していたことになる。
[園芸品種,栽培]
系統品種がきわめて多いが,V.tricolorから発達した大輪のガーデン・パンジーGarden Pansy系と,V.cornutaから発達した小輪のタフテッド・パンジーTufted Pansy系とに分けられ,後者は一般にはビオラ(イラスト)の名で呼ばれている。ガーデン・パンジー系では巨大輪のマジェスティック・ジャイアントMajestic Giantやインペリアル・ジャイアントImperial Giant(いずれも国産一代交配種),大輪系ではスイス・ジャイアントSwiss Giant,中輪系では20世紀シリーズ系やベッダー系が代表的で,近年の著名種はほとんどが国産品種である。…
※「ビオラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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