双方向芸術。作品と観客との関係が一方的な発信、受信にとどまることなく、両者の対話や作品に対する観客の積極的な参加によって成立・完成する芸術作品の総称。表現媒体や対話の形態としてはさまざまな事例が考えられるが、高度なコンピュータ・テクノロジーを活用したメディア・アートの一種と位置づけられる。本来芸術作品とは必ず観客の感情移入を伴うものであり、芸術作品のそのような相互作用のあり方を問う試みは、未来派(未来主義)によるダイナミズムの称揚、キネティック・アートによる運動力学の重視、アラン・カプローらによる環境芸術、さらには1960年代以降のハプニング、パフォーマンスやコンセプチュアル・アートなど、さまざまな形態の表現を通じて問われてきた。また理論的にも、60年代の終わりには既にイタリアの美学者ウンベルト・エーコが、「『開かれた芸術作品』は『開かれていること』と『閉じていること』の相互作用に基づく」とインタラクティブ・アートの本質を指摘する先駆的な議論を展開している。にもかかわらず、インタラクティブ・アートの可能性がもっぱらコンピュータ・テクノロジーと結びつけて考えられるようになったのは、ハンドル、キーボード、タッチパネルなどのインターフェースの発展による平易かつ高度な操作性の実現、人間の五感に直接作用する運動・光・音を使ったフィードバック性、バーチャルリアリティ(VR)やアーティフィシャルリアリティ(AR)を通じた仮想的な身体感覚を導入したことなどが重要な背景として挙げられる。なかでも、実際には存在しないものをあたかも存在したかのように感じさせるVRやARの導入は、人間に従来とは異なった知覚をもたらすインタラクティブ・アートの画期的な性格を物語っている。
コンピュータを活用したインタラクティブ・アートがアート・シーンで注目を集めるようになったのは70年代後半、メディア・アートの国際展であるアルス・エレクトロニカ(オーストリア、リンツ)が開催されるようになってからのことであり、80年代以降は、ジェフリー・ショーJeffrey Shaw(1944― )、カールステン・ニコライといった国際的に注目を集める作家が続々と出現した。日本の藤幡正樹や岩井俊雄らの作品が国際的な評価を受けている。また大掛かりな仕掛けを伴うメディア・アートは通常の美術館、ギャラリーの空間になじまないことが多いので、その特殊性に対応した、ドイツのZKMやオーストリアのアルス・エレクトロニカ・センター、東京のNTTインターコミュニケーション・センターのような専用展示施設が出現した。
コンピュータが爆発的に普及し、数多くのインタラクティブ・アート作品がつくられているが、多くはゲームのような作品で、また歴史が浅いこともあって一般の観客にはなじみがなく、まだ明解な評価基準が確立されていない。だが、インタラクティブ・アートの出現は、長く特権的・閉鎖的なシステムに守られていたアートの制度に風穴をあけ、芸術家が同時に技術者でもあった古代ギリシアへの郷愁を呼び起こす側面を持っている。
[暮沢剛巳]
『伊藤俊治著『電子美術論』(1999・NTT出版)』▽『三井秀樹著『芸術とメディア』(集英社新書)』
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