デジタル大辞泉 「パフォーマンス」の意味・読み・例文・類語
パフォーマンス(performance)
2 身体を媒介とした芸術表現。演劇などのほか、特に現代美術での表現をさしていう。「前衛書道家による
3 人目を引くためにする行為。「街頭宣伝の
4 性能。機能。また、効率。「旧型でも
翻訳|performance
〈演奏〉〈上演〉〈実行〉〈性能〉などの通常の意味とは別に,既存のジャンルや枠組みから外れた芸術や社会行為を指す非常に幅広い概念。〈パフォーミング・アーツ〉(舞台芸術,上演芸術)から区別された意味での〈パフォーマンス・アート〉は,1950~60年代の〈ハプニング〉や〈イベント〉の延長線上にあり,今日ではこれらを含めて〈パフォーマンス〉ないしは〈パフォーマンス・アート〉と呼ぶことが多い。ハプニングやイベントは,既成の様式やジャンルを解体する〈反芸術〉であり,1910年代のイタリアの未来派やダダの影響を受けている。そこでは,まず,演劇,音楽,美術といった固定したジャンルが成立せず,〈芸術〉と〈非芸術〉(日常)との間に引かれていた一線も撤去される。パフォーマンスを事実上基礎づけることになったジョン・ケージに例をとれば,彼の活動を単に音楽の分野(偶然性の音楽)に区分けすることはできない。それは,ときには〈演劇〉的であり,〈日常行為〉的であり,また〈宗教〉的ですらある。《4分33秒》(ニューヨーク州ウッドストック,1952)は,〈無音〉から成る〈音楽作品〉で,そのパフォーマーは,3回腕を動かすだけであり,観客は自分が耳にしたすべての音を〈音楽〉として受け取ることになる。また,ケージの僚友マース・カニンガムMerce Cunninghamも,歩いたり,立ったり,跳んだりする日常的な身体アクションのすべてを〈舞踏〉とみなすことを提唱し,実践した。〈作者〉やパフォーマーと〈観客〉との間の区別が超えられたのもハプニングにおいてであった。ジャーナリズムの反響によって一躍〈ハプニング〉という言葉を広めることになったアラン・カプローの《六つの部分から成る18のハプニング》(1959)では,ニューヨークのルーベン画廊にしつらえられた三つの部屋を,招かれた〈観客〉が歩き回ったり,着席したりすることが重要部分を占めていた。
〈脱領域〉的な性格のほかにパフォーマンスがハプニングやイベントから引き継いだもののうち,最も重要なものは,一回性や偶然性の尊重である。作品=オブジェとして固定されたり,記録されたりすることは,パフォーマンスにとって第二次的なことであり,70年代後半になってビデオが普及して,パフォーマンスの記録が容易になり,それまで限られた〈観客〉にしか触れることができなかったパフォーマンスがビデオを通じて一般化したとき,パフォーマンスの一回性に執着する人々のなかには〈パフォーマンスの死〉を語る者もいた。一回性や偶然性への執着は,身体的なアクションの重視へ赴かせる。パフォーマンスには,ダンス的なものや身体が直接かかわるものが多いのもこのためで,その極端な例としては,生命を賭けたパフォーマンスも出現する。クリス・バーデンChris Burden(1946- )の《シューティング・ピース》(カリフォルニア州ベニス,1971)では,バーデン自身が友人に銃で自分の腕を撃たせ,《デッドマン》(ロサンゼルス,1972)では,彼は南京袋にくるまって車道に寝転び,車にひかれる危険に身をさらした。
ダダがそうであったように,1960年代のパフォーマンスは,芸術家たちの非常に柔軟な相互関係によって成り立っていた。パフォーマンスを行うグループや場所は流動的であり,61年にジョージ・マチューナスGeorge Maciunasがパフォーマンスの専門誌を作るために考え出した〈フルクサスFluxus〉(雑誌は実現しなかった)は,やがて当時のパフォーマーを横断的に結びつける国際的な組織の名になったが,ラテン語で〈流れ〉を意味するfluxusと英語のflux us(われわれを融合する)とをかけたこの語は,当時のパフォーマーの流動的な関係にふさわしいものであった。このことは,ニューヨーク美術界の刺激を受けて活気づいていた〈読売アンデパンダン展〉(日本アンデパンダン展)出品作家たちの活動と,ケージに学んだ一柳慧(いちやなぎとし)や小野洋子らの媒介でしだいに日本にも形成されはじめたさまざまな芸術グループにもあてはまる。ともに1960年創立の〈グループ音楽〉(小杉武久,刀根康尚,塩見千枝子ほか),〈ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ〉(篠原有司男(うしお),吉村益信,風倉省作ほか),62年10月の車中パフォーマンス《山手線事件》や63年5月の街頭パフォーマンス《第一次ミキサー計画》のメンバーによる〈ハイレッド・センター〉(赤瀬川原平,中西夏之,高松次郎ほか)などは,互いに相互関係をもっただけではなく,〈暗黒舞踏〉の土方巽(ひじかたたつみ)や実験映画グループ〈ヴァン映画科学研究所〉(足立正生ほか)などとも,また海外の〈フルクサス〉とも横断的な関係をもった。
1960年代の日本のパフォーマンス活動が与えた影響には計り知れないものがあり,その遺産を演劇や映画に活用した芸術家の一人として寺山修司がいる。70年代の日本のパフォーマンス活動そのものは,田中泯(みん)らの〈舞踏〉を除くと,全体として活気に乏しかったが,84年にナムジュン・パイクNam Jun Paik(1932-2006)とヨゼフ・ボイス(いずれも〈フルクサス〉のメンバー),より若い世代のローリー・アンダーソンLaurie Anderson(1947- )が来日し,〈パフォーマンス・ブーム〉が再燃しはじめ,ビデオやコンピューターの電子テクノロジーを駆使した新しいパフォーマンスも試みられるようになった。電子テクノロジーによって身体環境が攻囲され,身体的な一回性や偶然性が〈プログラム〉化されかねない状況のなかで,80年代のパフォーマンスが電子テクノロジーを用いながらそうした一回性を再活性化できるかどうかは,まさに今後の課題である。
→前衛劇 →ハプニング
執筆者:粉川 哲夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
本来の語義は「完全に遂行すること」であり、心理学用語としては、潜在的な心的諸能力が現実の場面で発揮され、行為が「遂行」されるという意味で用いられ、言語学では言語能力に基づいて言語活動がなされる際の「言語運用」という意味をもつ。しかし現在一般的な用法は、20世紀の芸術において、諸ジャンルと横断的にかかわる独特の行為の芸術をさす。この場合、パフォーマンス・アートとよばれることも多い。ただし既成の上演芸術(パフォーミング・アーツperforming arts)とは異なる。すなわち、行為が上演されるとはいえ、固有の演劇的世界のなかで、ある人物に扮(ふん)して演技が行われるのではなく、演技者自身が呈示されるし、劇的意味をもった行為ではなく、劇的形式をもたない、独立した身体的動作のみが呈示される。したがって劇的行為を含むオペラとも異なり、単に動作を伴った音響生産行為が呈示されることも多い。いずれの場合にも視覚・聴覚・運動感覚に同時に働きかける点に大きな特徴がある。したがって、ポピュラー音楽の上演の際、単なる演奏だけでなく、レーザー光線や照明、歌手や奏者の舞台への登場の仕方や動作などが演出された場合もパフォーマンスとよばれる。ただし狭義には、歌や演奏に伴うものではなく、それ自体独立した形態として行われるものをさす。
[庄野 進]
1960年代に行われたハプニングhappeningやイベントeventもパフォーマンスに包摂されるが、パフォーマンスということば自体が包括概念として一般的に用いられるようになったのは、70年代末ごろからである。しかしその先駆形態は、20世紀初頭にまでさかのぼることができる。1910年代にイタリアやロシアの未来主義者たちは、自分たちの思想を効果的に表現するために、しばしば挑発的なデモンストレーションを行ったが、それらはもっとも早いパフォーマンスの実行であったと考えられる。続いて第一次世界大戦後のヨーロッパ各地で展開されたダダイストたちの激しい挑発的行動や、シュルレアリストたちの活動のなかにも同様の傾向がみられる。また、バウハウスのO・シュレンマーOskar Schlemmer(1888―1943)らは、音と光と色彩の抽象的な構成を上演する活動を行っていた。しかし、本格的な展開は、60年代のフルクサスFLUXUS・グループの活動による。70年代初めに 一時停滞期があるものの、80年代にかけては、L・アンダーソンLaurie Anderson(1947― )ら、ポピュラー音楽のシーンにもこの傾向が広がり、また、テクノロジーと結合するなど新たな展開をみせている。
[庄野 進]
『R・ゴールドバーグ著、中原佑介訳『パフォーマンス』(1982・リブロポート)』
(扇田昭彦 演劇評論家 / 2007年)
(山盛英司 朝日新聞記者 / 2007年)
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…〈聖なる結婚〉の意で,男神と女神の結婚,あるいは神と人間との結婚のこと。ギリシア語のヒエロス・ガモスhieros gamos,それに由来する英語ヒエロガミーhierogamyなどの訳語であり,〈神婚〉ともいう。神話や伝説に多数語られており,儀礼を伴っていることも少なくない。ギリシア神話の主神ゼウスとその正妻ヘラとの結婚は,古代ギリシアでは特別に重要視され,各地で祭式として繰り返し記念され,結婚の神聖と意義を強調する機能を果たした。…
…宗教学的には,大地の豊穣を確実にするための象徴儀礼であり,その背後には,地母神に対する崇拝が存在していた。聖婚儀礼は,小アジアから東部地中海沿岸一帯に広く分布していたが,その中心地はキプロス島の南西端のパフォスPaphosにあるアスタルテ(ギリシアのアフロディテと同一視された)の神殿であった。この地域に住む未婚女性は,結婚前に神殿に詣で,一夜パフォスの王の前に聖なる花嫁として処女を捧げる習俗に従っていた。…
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