パフォーマンス(読み)ぱふぉーまんす(英語表記)performance

翻訳|performance

日本大百科全書(ニッポニカ) 「パフォーマンス」の意味・わかりやすい解説

パフォーマンス
ぱふぉーまんす
performance

本来の語義は「完全に遂行すること」であり、心理学用語としては、潜在的な心的諸能力が現実の場面で発揮され、行為が「遂行」されるという意味で用いられ、言語学では言語能力に基づいて言語活動がなされる際の「言語運用」という意味をもつ。しかし現在一般的な用法は、20世紀の芸術において、諸ジャンルと横断的にかかわる独特の行為の芸術をさす。この場合、パフォーマンス・アートとよばれることも多い。ただし既成上演芸術(パフォーミング・アーツperforming arts)とは異なる。すなわち、行為が上演されるとはいえ、固有の演劇的世界のなかで、ある人物に扮(ふん)して演技が行われるのではなく、演技者自身が呈示されるし、劇的意味をもった行為ではなく、劇的形式をもたない、独立した身体的動作のみが呈示される。したがって劇的行為を含むオペラとも異なり、単に動作を伴った音響生産行為が呈示されることも多い。いずれの場合にも視覚聴覚・運動感覚に同時に働きかける点に大きな特徴がある。したがって、ポピュラー音楽の上演の際、単なる演奏だけでなく、レーザー光線や照明歌手や奏者の舞台への登場の仕方や動作などが演出された場合もパフォーマンスとよばれる。ただし狭義には、歌や演奏に伴うものではなく、それ自体独立した形態として行われるものをさす。

庄野 進]

概念の成立

1960年代に行われたハプニングhappeningやイベントeventもパフォーマンスに包摂されるが、パフォーマンスということば自体が包括概念として一般的に用いられるようになったのは、70年代末ごろからである。しかしその先駆形態は、20世紀初頭にまでさかのぼることができる。1910年代にイタリアやロシアの未来主義者たちは、自分たちの思想を効果的に表現するために、しばしば挑発的なデモンストレーションを行ったが、それらはもっとも早いパフォーマンスの実行であったと考えられる。続いて第一次世界大戦後のヨーロッパ各地で展開されたダダイストたちの激しい挑発的行動や、シュルレアリストたちの活動のなかにも同様の傾向がみられる。また、バウハウスのO・シュレンマーOskar Schlemmer(1888―1943)らは、音と光と色彩の抽象的な構成を上演する活動を行っていた。しかし、本格的な展開は、60年代のフルクサスFLUXUS・グループの活動による。70年代初めに 一時停滞期があるものの、80年代にかけては、L・アンダーソンLaurie Anderson(1947― )ら、ポピュラー音楽のシーンにもこの傾向が広がり、また、テクノロジーと結合するなど新たな展開をみせている。

[庄野 進]

『R・ゴールドバーグ著、中原佑介訳『パフォーマンス』(1982・リブロポート)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「パフォーマンス」の意味・わかりやすい解説

パフォーマンス
performance

本来は「上演」の意であるが,近年は演劇を中心に,美術・音楽・ダンス・映像などの諸分野にわたり,偶然性と表現の一回性を重んじる芸術活動をさす。その源流は,20世紀初頭の未来派,ダダイズムなど多岐にわたるが,その後モダン・ダンスの影響などを経て,アメリカでは 1950年代にハプニングが展開し,60年代にはリビング・シアターなどのオフ・ブロードウェー演劇が興隆した。

パフォーマンス[言語学]
パフォーマンス[げんごがく]

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