リンパ(読み)りんぱ(英語表記)lymph

翻訳|lymph

日本大百科全書(ニッポニカ) 「リンパ」の意味・わかりやすい解説

リンパ
りんぱ
lymph

脊椎(せきつい)動物の血液の血漿(けっしょう)が毛細血管壁から組織中に浸出し、組織内の毛細リンパ管に入ったもので、リンパ液ともいう。毛細リンパ管は集合してリンパ管となり、リンパ管は爬虫(はちゅう)類以上では胸管となって大静脈に合流する。リンパは血液とともに組織細胞を取り囲む「内部環境」を形成して組織の環境の恒常性の維持に重要であり、また細胞成分としてリンパ球を含んでいて免疫反応にも関与する。リンパの成分は血漿と似ていて、少量のアルブミングロブリン、糖、無機塩などを含む無色ないし淡黄色の液体である。ただし、小腸に分布するリンパ管中のリンパは腸で吸収された脂肪がリポタンパク質粒子(カイロミクロン)として含まれるために乳白色を呈し、とくに乳糜(にゅうび)とよばれる。

[八杉貞雄]

人間のリンパ系

人間のリンパ系はリンパ(液)とリンパ球で構成されている。リンパ液は体中を流れている組織液が、全身に分布している毛細リンパ管に流入したもので、この流入リンパ液はしだいに合流して太いリンパ管に流れ、胸管および右リンパ本管に合流して、最終的に静脈に流入する。リンパ液は透明な淡黄色の液体で、その組成は血漿とほぼ同じであるが、血漿に比べてタンパク質の量が少なく、また弱アルカリ性である。要するに組織液がリンパ管に流入したものがリンパ液である。体外に出ると血液のように凝固する。リンパ管のところどころには静脈のように半月弁があり、リンパ液が逆流するのを防いでいるが、骨格筋やリンパ管壁の収縮運動によって一方向に押し流されるようになっている。リンパ管は全身のほとんどの組織や器官に分布しているが、骨組織、眼球、神経系、内耳、脳下垂体、松果体などには欠如している。

[市河三太・嶋井和世]

リンパ液の循環

血管系は全体が閉じられた管系で、内部を流れる血液は心臓の収縮活動によって全身の諸臓器に輸送されるが、リンパ系は解放されている循環系といえる。リンパ管は組織細胞の間隙(かんげき)にある袋状の盲端から毛細リンパ管として始まり、徐々に集合して太くなり、諸所で集合リンパ管になり、最後には2本の太いリンパ管、すなわち、胸管と右リンパ本管(右胸管)となり、それぞれが左右の鎖骨下静脈静脈角)につながる。

 胸管(直径3~5ミリメートル)は第1~第2腰椎の前側にある袋状の膨大部(乳糜槽)から始まる左リンパ本幹に相当し、下半身全部と左上半身のリンパ管を集めている。腹大動脈に沿ってその後方を上行して左静脈角に開口する。

 右リンパ本幹は右上半身のリンパ液を集める。右側の胸郭、右上肢、右側頭頸(とうけい)部のリンパ液は右頸リンパ本幹と右鎖骨下リンパ本幹の両方に注ぎ、両幹が合して右リンパ本幹となり、右リンパ本幹は右静脈角に入る。

 リンパ管の構造は毛細血管、細静脈あるいは小静脈程度の構造で、管の最内壁を構成する内皮細胞は毛細血管の内皮細胞と異なり細胞間隙が広いので、リンパ管の内外の物質(直径8マイクロメートル程度の物質)の往来が容易にできる。

[市河三太・嶋井和世]

リンパ節とリンパ球の構造およびそれらの作用

全身のリンパ管のところどころには2~30ミリメートルほどの大きさのリンパ節リンパ腺(せん))が存在している。リンパ節は厚い結合組織の被膜に包まれているが、リンパ節内部は細網組織で構成されている。この細網組織の網目の中にはリンパ球が充満している。このリンパ節内部実質では外側部(皮質)には多数のリンパ小節が存在し、大型と中型のリンパ球を生産している。中心部は髄質とよび、Bリンパ球と形質細胞が含まれている。皮質と髄質との中間部(傍皮質(ぼうひしつ))にはTリンパ球が存在している。リンパ管は走行経過途中でかならずリンパ節に入り(輸入リンパ管)、別のリンパ管(輸出リンパ管)からリンパ液を送り出す。輸入リンパ管のほうが輸出リンパ管より数が多い。リンパ節は細菌などの体外異物をとらえ、異物は大食細胞によって処理(食作用)される。

 胎内のおもなリンパ節としては、腋窩(えきか)リンパ節、鼠径(そけい)リンパ節、大動脈周囲リンパ節、腹部内臓のリンパ節、ビルヒョウVirchowのリンパ節などがある。腋窩リンパ節は上肢や胸壁のリンパ管を集めるが、腋窩の皮下や鎖骨下静脈の周囲に多数存在し、皮下からもふれることができる。鼠径リンパ節も鼠径部皮下に多数存在し、浅部リンパ系と深部リンパ系で構成されている。ビルヒョウのリンパ節は胸管が静脈に流入する開口部付近に存在し、内臓がんなどの転移部として知られている。ほかのがん細胞もリンパ管を通過してリンパ節を腫脹(しゅちょう)させるので、手術の際は病症部分に関係のあるリンパ節も切除してがん細胞の転移を防ぐようにする。つまり、リンパ節は生体防御の役割を担っているわけである。

 リンパ液中には細胞が流れているが、その90%以上はリンパ球である。リンパ球は骨髄内のリンパ芽球の分化によってつくられるが、そのなかで、B細胞は骨髄で成熟し、T細胞は骨髄を出て胸腺で成熟した後、リンパ節に定着する。B細胞はすべての血球細胞と同様に造血幹細胞から分化し骨髄で成長し、末梢(まっしょう)へと移行し、脾臓(ひぞう)で成熟B細胞になる。B細胞は抗体産生細胞であるが、1個のB細胞は自分の抗体に対応する1種類の抗体しか生産しない。たとえばある細菌に対して抗体をつくるB細胞は別の種類の抗体をつくらない。このように自分にあった抗原の存在下で抗体を産生するのがB細胞であるが、最終的には形質細胞(プラズマ細胞)に分化する。B細胞のBは鳥類のファブリキウス嚢(のう)bursa of Fabricius、哺乳動物の骨髄bone marrowのbをあてたものである。T細胞のTは胸腺thymusからとっている。T細胞、B細胞はともに免疫に関与している細胞であるが、T細胞についてはまだ十分な機能の解明がされているわけではなく、機能的に差異のあるいくつかの亜集団が問題となっている。T細胞の代表的なものは、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、サプレッサーT細胞などである。ヘルパーT細胞はサイトカインという物質を分泌し、B細胞やほかのT細胞の活性化や機能行使などにかかわる。サイトカイン産生のパターンによって3集団のヘルパーT細胞にわけられている。キラーT細胞はT細胞やB細胞のどれにも属さないリンパ球で、ウイルスに感染した細胞やがん細胞をみつけ、リンホカインの作用を受けて、それらの細胞を破壊する。殺傷力、破壊力が強く、この名前がつけられた。キラーT細胞は形態的には大型顆粒(かりゅう)リンパ球で豊富な細胞質をもち、末梢血管や、脾臓、肺上皮、腸管上皮、肝臓、胎盤などの組織中に存在し、独自に体内を循環して、体に対する傷害細胞を破壊している。キラーT細胞については、近年、その生化学的な多くの研究がなされている。

[市河三太・嶋井和世]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リンパ」の意味・わかりやすい解説

リンパ
lymph

リンパ管を流れる液をいう。血漿は一部が毛細血管から組織中に滲出して組織液となるが,その一部がリンパ管に入ってリンパとなる。人体では全身の毛細血管で1日にろ過される量は約 20lで,このうち 16~18lが吸収され,残りの2~4lが1日のリンパ生成量となる。黄色味を帯びた透明なアルカリ性の液体で,化学組成は静脈血血漿とよく似ているが,蛋白質の量に大差がある。蛋白質含有量は肝臓のリンパで最も多く5%,心臓,肺,腸などがこれに次ぎ,四肢や皮膚のリンパでは 0.5~2%にすぎない。また器官の特殊な物質の運搬にあずかり,甲状腺,副腎皮質などのホルモンを血中に運ぶ。リンパ節を通るときにはリンパ球が加わり,胸管リンパには 1mm3あたり1万~4万個のリンパ球が含まれている。

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栄養・生化学辞典 「リンパ」の解説

リンパ

 →リンパ液

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世界大百科事典(旧版)内のリンパの言及

【体液】より

…細胞外液ともいう。血液,リンパ液,細胞間液,体腔液などの区別がある。脊椎動物の循環系は閉鎖型であって,これらの区分がはっきりしており,血液は血管内を,リンパ液はリンパ管内を流れるが,開放循環系をもつ節足動物や軟体動物,そのほか一般に無脊椎動物では,血液とリンパ液と細胞間液ははっきり区別できず,体液は血リンパと呼ばれることがある。…

【リンパ液】より

…リンパ(淋巴)ともいう。リンパ液とはリンパ管を流れる無色ないし淡黄色の透明な液体で,その99.9%以上は毛細血管から漏出し,組織間隙腔(間質腔)内を移動した液体が毛細リンパ管に入ったものである。…

※「リンパ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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