インターフェロン(その他表記)interferon

翻訳|interferon

デジタル大辞泉 「インターフェロン」の意味・読み・例文・類語

インターフェロン(interferon)

ウイルスが感染した細胞や腫瘍しゅよう細胞で作られ、その増殖を抑制する特殊なたんぱく質制癌剤せいがんざいなどに利用される。ウイルス抑制因子。IF。IFN。

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精選版 日本国語大辞典 「インターフェロン」の意味・読み・例文・類語

インターフェロン

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] interferon ) 白血球などが分泌する抗ウイルス活性のある生理活性物質。抗がん作用も注目されている。α、β、γ型の三種類があり、バイオテクノロジーを応用して製造される。白血病、悪性黒色腫ウイルス感染症B型肝炎などに使用されてきたが、平成四年(一九九二)からはC型肝炎の特効薬として保険適用になった。

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改訂新版 世界大百科事典 「インターフェロン」の意味・わかりやすい解説

インターフェロン
interferon

IFまたはIFNと略記する。1954年,長野泰一小島保彦によって,動物細胞が産生する物質でウイルスの増殖を阻止する物質として発見され,〈ウイルス抑制因子〉と名づけられた。その後57年,アイザックスA.IssacsとリンデンマンJ.Lindenmannは別の実験系で同物質を見つけ,ウイルス干渉現象interferenceを起こすという意味でインターフェロンと名づけた。ウイルスをはじめとするいくつかの誘導物質によって,生体内,培養細胞(αインターフェロン),白血球細胞(βインターフェロン)などで産生あるいは誘導される。このようなα,βインターフェロンとは別に,感作リンパ球に特異抗原が作用したときに放出されるリンホカインの一つとして,免疫インターフェロン(γインターフェロン)がある。インターフェロンは通常,抑制を受けていたインターフェロン遺伝子がウイルス感染により直接あるいは間接に活性化を受け,メッセンジャーRNAmRNA)が転写され合成されると考えられている。

 インターフェロンは,培養中に培地に放出される物質で,微量で活性を有する。近年まで,その物質の性状ははっきりしていなかったが,最近になって,遺伝子工学的手法が導入され,ヒトやマウスの細胞でインターフェロン遺伝子のクローニング(遺伝子のクローンをつくること)が行われた。その結果,遺伝子の塩基配列から,ヒト繊維芽細胞インターフェロン(αインターフェロン)は165個,ヒト白血球インターフェロン(βインターフェロン)は166個のアミノ酸からなるタンパク質であることが同定された。

インターフェロンは,標的とする細胞にその特異的な受容体を介して結合することにより,その細胞に抗ウイルス活性を示すタンパク質や増殖制御に関係するタンパク質を誘導するが,最近の細胞内シグナル伝達機構の研究から,次のような作用機序であることがわかった。インターフェロンが細胞表面の特異的な受容体に結合すると,その受容体のプロテインキナーゼリン酸化酵素)が活性化し,JAKキナーゼ(Januskinase)と呼ばれる酵素をリン酸化することにより活性化し,活性化されたJAKは,細胞質内に局在していたSTAT(signal transducer and activators of transcription)と呼ばれる転写因子(DNA上の特異的配列に結合して,遺伝子の発現を制御するタンパク質)をリン酸化する。リン酸化されたSTATは2量体を形成し,細胞質から核へと移行するとともに,転写因子としての活性を発揮して,他の転写因子と共同して特異的な遺伝子の発現を誘導する。

 インターフェロンの研究から明らかにされたJAK-STATを介するシグナル伝達機構はインターフェロン以外のホルモンや増殖因子の受容体を介する経路においても利用されており,現在まで,JAKは4種類,STATは少なくとも7種類あることがわかっており,これらの組合せにより,どのような遺伝子が活性化されるかが決まると考えられている。

これまで,インターフェロンは培養細胞の上澄みなどから精製されていたが,クローン化した遺伝子を大腸菌のベクター(遺伝子工学において,切断した供与体DNAをつないで増殖させるために用いる小型のDNA分子)につないで,活性をもったインターフェロンを大腸菌で大量に生産できるようになり,医薬品として用いられるようになった。インターフェロンは,抗ウイルス作用のみならず,抗腫瘍作用,マクロファージの活性化作用,免疫反応抑制作用など,種々の生物学的活性があり,一方,種特異性,すなわちインターフェロンを産生した細胞と同種の動物の細胞にのみ作用するという特性もある。これらの種々の生物学的特性のうち,いままで〈特効薬〉のなかったウイルス感染症や悪性腫瘍に対する抗ウイルス作用,抗腫瘍作用が注目され,多様な効果をもつ〈医薬品〉として利用されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「インターフェロン」の意味・わかりやすい解説

インターフェロン
いんたーふぇろん
interferon

ウイルス抑制因子virus-inhibiting factorともいう。1957年アイザックスAlick Isaacs(1921―1967)とリンデンマンJean Lindenmann(1924―2015)がバイラル・インターフェアランスviral interference(ウイルスの抑制)をおこす物質として命名。略称IFN。インターフェロンはウイルスの増生(増殖)を阻害する不溶性小型タンパク質または糖タンパク質である。そして宿主(しゅくしゅ)(ウイルスの寄生対象となる生物)のウイルス性疾患に対する防御作用の一つとして有効である。

 ウイルスや不活性ウイルスによって感染がおこると、ほとんどすべての動物細胞、とくに骨髄(こつずい)細胞、脾(ひ)細胞、細網内皮系の細胞ではインターフェロンの合成や分泌が誘導される。インターフェロンは合成を誘導した同じタイプのウイルスだけでなく、ほかのウイルスの増生を阻止し、特異性を示すことが少ない。しかし、宿主動物の種が異なれば、同種の動物細胞よりは阻止効果が低下するため、動物の種には特異性があるといえる。動物細胞のインターフェロン合成は2本鎖RNA(リボ核酸)によって誘導され、その他の型の核酸では誘導されない。多くのRNAウイルスは複製の間に2本鎖中間体をつくるので、これによって合成誘導能をもつことになる。一方、DNA(デオキシリボ核酸)ウイルスも感染細胞内において、2本鎖RNAをつくることがあり、これが宿主にインターフェロン合成を誘導する。しかし、インターフェロンはウイルスの増生に対して直接の阻害作用をもつわけではない。抗ウイルスタンパク酵素を誘導することによって間接的に阻害をするのである。このことはインターフェロンが一次的に合成される細胞内だけでなく、周囲の細胞へも抗ウイルスタンパク酵素の合成を誘導し、作用範囲が広がることで証明される。現在、この酵素には3種が知られている。

(1)2',5'-オリゴアデニル酸合成酵素(2',5'-Aシンセターゼ) 2本鎖RNAとATP(アデノシン三リン酸)の存在により活性化され、2',5'-オリゴアデニル酸(2',5'-A)が生産され、これによりウイルス由来のmRNA(メッセンジャーRNA)を切断する。

(2)タンパク質リン酸化酵素 2本鎖RNAとATPの存在により、酵素が活性化されポリペプチド鎖開始因子がリン酸化され、ウイルスのタンパク質合成を阻止する。

(3)2'-フォスフォジエステラーゼ この酵素によって、tRNA(転移RNA)末端が切断され、ウイルスのタンパク質の合成を阻止する。

 インターフェロンは産生する細胞により、IFN-α(アルファ)、IFN-β(ベータ)、IFN-γ(ガンマ)、IFN-ω(オメガ)の4種類が知られている。IFN-αは、好中球やマクロファージなど由来で、約14種がある。これはウイルスの核酸や細菌内毒素より誘発されつくられる。抗ウイルス作用のほか腫瘍(しゅよう)増殖抑制作用などがあるといわれる。IFN-ωは、IFN-αとほぼ相同である、1種類が知られている。IFN-βは繊維芽細胞や上皮細胞などでつくられ、抗ウイルス効果や抗腫瘍効果などがあり、1種類だけ知られている。IFN-γはTリンパ球(T細胞やNK細胞)でつくられ、抗原細胞やサイトカイシンなどにより誘発され産生される。マクロファージを活性化するなど免疫学的制御因子として働くが、抗ウイルス作用は弱い。1種類が知られている。

 インターフェロンは抗ウイルス作用を通じて各種ウイルス疾患の予防や治療に使用する万能性が考えられている。現在は大量生産するために、遺伝子工学を利用した大腸菌を使い、さらに、ヒトインターフェロンの大量生産に向けて研究が進められている。

[曽根田正己]

『高久史麿・北村聖編著『最新インターフェロン療法』(1994・中外医学社)』『岸田綱太郎総監修、今西二郎編『インターフェロン――その研究の歩みと臨床応用への可能性』(1998・ライフ・サイエンス)』『カリ・カンテル著、岸田綱太郎監訳『インターフェロン物語――研究にかけたある科学者の人生』(2000・ミネルヴァ書房)』

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百科事典マイペディア 「インターフェロン」の意味・わかりやすい解説

インターフェロン

サイトカインの一種。ウイルス,異種RNA,ある種の糖の侵入により動物細胞がつくる物質。あるウイルスに感染した細胞が他のウイルスの感染を阻止する干渉現象から長野泰一(1954年),A.アイザックス(1957年)らが発見。α,β,γ型の3種がある。細胞がこの物質を受け取ると,ウイルス核酸の遺伝情報が読まれずにウイルスの増殖が阻害される。この性質を利用して,ウイルス病や癌の治療にインターフェロンを応用する研究が進められている。一つは直接インターフェロンを投与する方法で,他は誘起剤を投与し生体内にインターフェロンを産生させる方法である。前者はヒト細胞由来のものでなければならない点に,後者は一般的に副作用が強くて連続投与できない点に難点があるが,近年はヒト白血球,ヒト胎児繊維芽細胞などを用いた量産法とともに,遺伝子工学を応用した量産により医薬品として用いられている。
→関連項目ウイルスC型肝炎腎癌

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「インターフェロン」の意味・わかりやすい解説

インターフェロン
interferon

種々のウイルス,その他の誘発剤の刺激によって細胞が産生する蛋白質。産生された細胞と同種の細胞に作用して,多くのウイルスの増殖を抑制する働きをするが,ウイルス粒子に対する直接作用ではなく,ウイルスの宿主となる細胞にウイルス抵抗性を与えると考えられている。さらに,抗ウイルス作用に加えてさまざまな活性をもつことが,次第に明らかにされてきた。その一つに細胞増殖の抑制作用があり,注目されている。現在,ヒトインターフェロンは抗原性その他の性質の差からα,β,γの3種類に分類されている。α型は主としてヒトリンパ球,β型はヒト線維芽細胞からつくられるが,両種とも遺伝子工学の手法により,インターフェロン遺伝子を組込まれたプラスミド (染色体外性遺伝子) をもつ大腸菌からも,大量生産が可能となった。ヒトインターフェロンはウイルス病の治療薬として期待されているが,さらに抗癌剤としての効力も検討されている。

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化学辞典 第2版 「インターフェロン」の解説

インターフェロン
インターフェロン
interferon

略称IFN.抗ウイルス作用を有するタンパク質で,IFNα,IFNβ,IFNγのサブタイプがある.1個の細胞にウイルスを同時に2種類感染させようとすると,その2種類のウイルスが共生的に細胞内で増殖する場合と,一方のウイルス増殖がほかのウイルスによって阻止される場合とがある.この感染阻止作用をもつ物質はウイルス粒子そのものではないことが明らかになり,これをインターフェロンとよんだ.感染阻止は特異的な免疫とは関係なく,ウイルス,またはその断片や増殖力のないウイルスとの接触によっても,またトキソイド,核酸,リケッチャ,細菌,抗生物質ばかりでなく,物理的刺激でも誘発される.Ⅰ型に分類されるIFNα(白血球由来)とIFNβ(繊維芽細胞由来)は比較的似ており,Ⅱ型に分類されるIFNγはこれらと少し異なる.C型肝炎の治療に効果があることから一時注目された.[CAS 9008-11-1]

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栄養・生化学辞典 「インターフェロン」の解説

インターフェロン

 ウイルスが感染した細胞が産生するウイルス増殖抑制物質.α, β, γがある.細胞増殖抑制,免疫反応修飾,抗がん作用などがある.

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世界大百科事典(旧版)内のインターフェロンの言及

【癌】より

…ナチュラルキラー細胞やマクロファージを活性化する試みも行われている。 抗ウイルス作用のあるインターフェロンが,骨肉腫等の癌に効くというので一時注目された。遺伝子工学的手法でインターフェロンが大量に使用できるようになってきたが,その後の臨床実験の結果は,あまり期待に添うものが得られていない。…

【制癌薬】より

…また種々のサイトカイン類(マクロファージまたはリンパ球が抗体刺激を受けて出す糖タンパク質)も,制癌薬として研究されているものが多い。たとえば,インターフェロン(α,βおよびγ型)や腫瘍壊死因子(TNF)と呼ばれるものなどがある。このうち,インターフェロンβ型は悪性黒色腫や脳腫瘍,白血病,乳癌などに有効性がみられたとの報告もある。…

【免疫療法】より

…(3)免疫調節・強化療法で用いられる製剤は,生物学的製剤と化学的製剤とに分けられる。生物学的製剤にはBCGおよび細胞壁骨格成分(CWS),嫌気性コリネ,ノカルジア,溶連菌製剤(商品名ピシバニール),レンチナンなどの細菌あるいは植物由来の物質と,インターフェロン(IF),インターロイキン‐2(IL‐2)などの白血球,リンパ球由来の物質に分けられ,前者はアジュバントadjuvant(免疫助剤)やマクロファージ(大食細胞)に対する作用を有するものが多く,主として癌患者に対する手術療法や化学療法の補助療法として使用される。インターフェロンは肝炎ウイルスなどの難治性ウイルス性疾患に試用されているが,IL‐2は他のリンパ球由来の可溶性因子と同様,まだ実験段階である。…

※「インターフェロン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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