血液中の血球以外の成分をいう。その91%ほどが水分であり、残りは種々の電解質とタンパク質を主体とした有機成分からなる。おもな電解質は、ナトリウム、塩素(クロール)、炭酸水素イオンであり、とくにナトリウムは総陽イオンの約93%を占める。陰イオンは全体の約3分の2を塩素、約5分の1を炭酸水素イオンが占める。血漿の浸透圧は約300ミリオスモルであるが、その96%までが電解質によっている(ミリオスモルmOsmとは、溶液1リットル中に浸透圧に活性な溶質1ミリモルを含むときの浸透圧を表す)。
血漿タンパク質は、血漿中に6.5~8.0%の割合で含まれている。血漿に硫酸アンモニウムを加え、その半飽和で沈殿するものをグロブリン、飽和濃度で沈殿するものをアルブミンとよび、ともに血漿タンパク質の主要成分である。この方法(塩析)による両者の比(A比)は、1.5~2.2である。比の低下は、肝臓の疾患などにおける重要な指標の一つとされる。血漿タンパク質は、さらにその荷電の程度によって泳動速度が違うことに着目した分類法(チゼリウスの電気泳動法)が開発され、アルブミン、α1-グロブリン、α2-グロブリン、β-グロブリン、γ-グロブリンの各画分などに分画された。これら各タンパク成分の分子量、形、性状には、それぞれ差がある。血漿タンパク質の生理的な働きは次のように集約できる。
(1)栄養源 成人の全血漿中には約200グラムのタンパク質が含まれる。これらは必要に応じて細網内被系の細胞でアミノ酸に分解され、各種組織細胞の栄養源となる。
(2)運搬機能 鉄、銅、ステロイドホルモンなどの脂肪溶解物質を甲状腺(こうじょうせん)ホルモンなどと結合して運搬する。
(3)膠質(こうしつ)浸透圧 血液と組織液間の液体量のバランスを保つ働きをもつ。その75~80%はアルブミンによっている。
(4)緩衝作用 血液の水素イオン濃度(pH)の安定に関係する物理化学的緩衝価の約10%くらいを担っている。
(5)血液凝固 フィブリノゲン、プロトロンビンをはじめとする多数の血液凝固因子が血漿タンパクに含まれる。
(6)免疫 γ-グロブリン画分中には諸種の免疫抗体が含まれ、免疫グロブリン(Ig)と総称される。Igは物理化学的・免疫学的性質から、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEに分類される。
[本田良行]
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血液から赤血球,白血球,血小板,そのほかの細胞成分を遠心により取り除いた液体を血漿という.生体に必要なイオン,無機および有機化合物を組織に運搬するとともに,不必要になった物質を腎臓に送る重要な役割を果たしている.採血後,ただちに血液凝固阻止剤(クエン酸塩,ヘパリンあるいはエチレンジアミン四酢酸(EDTA))を加え,有形成分を除去して得られる淡黄色の液体で,粘ちゅう度が高い.ヒトの血漿は pH 7.35~7.45,1.027である.正常人では全血の50~60%(容積)が血漿で,そのうち90~92% が水,7~8% が血漿タンパク質,0.9% が無機塩,そのほかはタンパク質以外の有機物である.ヒト血漿成分を表に示す.血漿タンパク質は血管内血液の浸透圧の調節をつかさどるとともに,pH 変化に対する緩衝能を示し,アルブミン,グロブリン,フィブリノーゲンなどの分画に分類される.それぞれのタンパク質は抗体,血液凝固因子,補体,および低分子物質と結合してその運搬をつかさどるものなど,特殊な生理機能を有するものが多い.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
血液から赤血球,白血球,血小板の有形成分を除いた液体成分をいう。血液の約半分(55%)の容積を占める,黄色みをおびた液体で,ヒトの血漿の比重は1.03,pHは7.4±0.05である。血漿を採取するには,ヘパリンなどの抗凝固剤を少量いれた注射器で採血し,得られた血液を遠心分離する。この上澄みが血漿である。抗凝固剤なしに採血し放置すると凝血塊(血餅)から黄色の液体が分離してくる。この液体が血清と呼ばれるもので,フィブリノーゲンその他の凝固因子の大部分が失われている点が血漿と異なる。血漿は循環する細胞外液であり,間質液とほぼ同じ組成で塩化ナトリウムを主体とする各種電解質,ブドウ糖,脂質,アミノ酸,ホルモンその他多くの物質を含んでいる。なお血漿がタンパク質を約7%含んでいるのに対し,間質液のタンパク濃度は約2%である。これは,高分子のタンパク質のうち毛細管孔を通って細胞間質にもれ出る量がわずかであるうえに,もれ出たタンパク質がリンパ流でふたたび血液に回収されているためである。
→血液
執筆者:星 猛+日向 正義
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…血球は,それぞれ独立した機能を有し,生命現象に欠かせない働きをしている。血球
[血漿と血清]
血液から血球を除いた液体部分を血漿blood plasmaといい,全量は体重のほぼ5%(体重70kgのヒトで3500ml)を占めている。アルブミンやグロブリンなどのタンパク質,ブドウ糖,中性脂肪やコレステロールなどの脂質のほかに,ナトリウム,カリウムなどの電解質,ホルモン,ビタミンを含む特殊な体液である。…
…一般に血液は有形成分と無形成分に区別される。前者は細胞成分,すなわち血球であり,後者は細胞成分を除いた液体成分,すなわち血漿(けつしよう)成分である。下等無脊椎動物の血液は,組織液と同じく無色透明なものが一般であるが,呼吸色素をもつ細胞(赤血球)や血漿内にある呼吸色素の色により,青色あるいは赤色を呈する。…
…このような方法で調べた血液量に対する赤血球量の割合をヘマトクリットhematocrit値といい,貧血の診断の一つの指標として用いる。上層の約55%は淡黄色の血漿(けつしよう)であり,赤血球層に連続して血漿層との境界に黄白色の薄い細胞層がみられる。これを淡黄層とよび,赤血球よりも比重の軽い白血球と血小板が集まっている。…
…ヒトや脊椎動物の血液中の主要液体部分を指す。なお,開放血管系をもつ無脊椎動物のこれに相当するものは血リンパ液といい,血清,血漿などの名称は使わない。
[血清と血漿]
ヒトや動物の血液を試験管等に採り放置すると,やがて固まり(凝固),フィブリノーゲンが変化してできた網状構造をなすフィブリンに血液成分がとりこまれた血餅(けつぺい)ができる。…
…体液の約1/3を占める細胞外液はさらに二つに分けられる。細胞間隙(かんげき)(間質)にあって直接細胞に接している間質液(細胞外液の約3/4)と,血管内にあって全身を循環する血漿(けつしよう)(細胞外液の約1/4)である。間質液と血漿は毛細血管壁を通じて溶質の交換を行い,これによって間質液の性状,組成はほぼ一定に保たれ,細胞の活動に必要な適正な生活環境(内部環境)が維持される。…
※「血漿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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