久米栄左衛門(読み)くめ・えいざえもん

朝日日本歴史人物事典 「久米栄左衛門」の解説

久米栄左衛門

没年:天保12.5.7(1841.6.25)
生年:安永9(1780)
江戸時代後期の科学者,造兵家。讃岐国(香川県)の坂出大浜塩田の開発者。諱 は通賢。讃岐引田郷馬宿村(香川県引田町)の船舵作り職人の子として生まれる。7歳で時計の分解修理をしてその才覚をあらわす。19歳のころに大坂に出て間重富数学および天文学を学ぶ。測量器を製作し,また観測技術にもたけ,高松藩の天文測量方となる。文化5(1808)年,伊能忠敬が全国測量の一環として讃岐を訪れた際には,その案内役を務め,測量の一部を担当した。 坂出東・西大浜115町歩,付随の畑110町歩の干拓工事は,その的確な測量,設計技術によって一挙に4年間で行われ,文政12(1829)年に完成した。財源は親戚などの援助を受けた。『高松藩記』によれば「入費総計二万余両,釜屋七十軒,産塩三十万俵余,諸上納金千八百両余,畑九十七町余此貢米三百九十七石余,一ケ年総収納高平均三千両,内千両許年中諸入費,其余二千両余御益金」,また塩は質もよく,多く尾州廻船により江戸へ回送したとある。<著作>『経済元録』(坂出町・鎌田博物館蔵)<参考文献>香川県女子師範学校編『塩田研究』廣山堯道 一方,文化4年のロシアの択捉島侵攻などに刺激されて海防問題に関心を持つようになり,火器を備えた軍艦の設計と海上戦術を述べた「戦船作積覚」を発表しており,また銃砲の研究に力を入れ,従来の火縄銃に代えて連続火花によって点火する鋼輪仕掛けの輪燧佩銃をはじめドンドロ付け木(マッチ)にヒントを得た雷管式の生火銃,鎗間銃などを考案したほか,蓄気式の空気銃まで製作している。晩年には牛を動力とする揚水機精米機を工夫したりもしている。坂出塩田の基礎を確立して,郷里の産業振興に大きな功績を残した。<参考文献>岡田唯吉『讃岐偉人久米栄左衛門』,豊沢豊雄他『久米栄左衛門』

(所荘吉)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「久米栄左衛門」の意味・わかりやすい解説

久米栄左衛門
くめえいざえもん
(1780―1841)

幕末の技術者。讃岐国(さぬきのくに)(香川県)大内郡引田郷(ひけたごう)(東かがわ市)馬宿(うまやど)の船乗り兼農家に生まれる。大坂の間重富(はざましげとみ)に数理、天文、測量などを学んだ。帰郷後も天文観測を続け、また伊能忠敬(いのうただたか)の来藩の際にはその接伴案内をした。1809年(文化6)高松藩天文測量方御用となり、のち士分に取り立てられ久米姓を名のった。ぜんまいと火打(ひうち)石を組み合わせて連続して火花をおこす鋼輪(こうりん)仕掛けの輪燧佩銃(りんすいはいじゅう)、生火銃・鎗間銃(そうかんじゅう)(雷管銃)、風砲(空気銃)など銃砲の改良や発明に尽くした。また農業用揚水機をくふうして畜力利用の「養老滝」を考案。殖産興業に努力し、塩田の築造、鉱山の排水、港湾や河川の改修などに従事した。とくに坂出(さかいで)に131町歩(約130ヘクタール)の塩田を開発した業績は大きかった。

[菊池俊彦]

『岡田唯吉編『讃岐偉人久米栄左衛門翁』(1964・鎌田共済会)』


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「久米栄左衛門」の解説

久米栄左衛門 くめ-えいざえもん

久米通賢(くめ-みちかた)

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の久米栄左衛門の言及

【久米通賢】より

…江戸時代後期の技術者で,高松藩の財政改革にも功績をのこす。通称栄左衛門。讃岐国高松藩の舵師で農業を兼ねた家に生まれる。1798年(寛政10)暦学者間重富に入門。1802年(享和2)帰国し家を継ぐ。06年(文化3)藩命で領内の海岸と街道の測量を行い,09年士分(天文測量方)に取り立てられ,久米姓を名のる。銃砲発射機構の改良に努力し,12年輪燧佩銃(りんついはいじゆう)(歯車式撃発銃)を,24年(文政7)には風砲(ふうほう)(空気銃)を,39年(天保10)には〈ドンドロ付木〉(オランダ製マッチ)の製造に成功,39年以降これを発火装置に応用した多くの雷管式銃などを製作して,近江国の鉄砲鍛冶国友藤兵衛(国友)とならび称せられた。…

※「久米栄左衛門」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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