改訂新版 世界大百科事典 「乳つけ」の意味・わかりやすい解説
乳つけ (ちつけ)
生児に初めて乳をつけること。古くは生後初めて授乳する前に,胎毒おろしといって,マクリ(海人草),フキの根,甘草などを煎じたものを飲ませる風があった。またカニババ(胎便)が出るまでは授乳せず,砂糖水,番茶などを綿にふくませて吸わせた。最初の母乳はアラチチ(新乳)といって,よくないとして与えず,また母乳の出も悪いので,生後2日間くらいは他人の乳を用いる風習が昭和10年ころまでひろく行われていた。生児が男なら女児をもつ人,女なら男児をもつ人にたのむ場合が多く,チアワセ(乳合せ),アイチチなどとよんでいる。チアワセをするとじょうぶに育つ,縁組が早いなどという。こうして初めての授乳を縁として結ばれる人を乳つけ親,乳親,チチンバ,チアンマなどといい,乳親と生児とは仮の親子の関係(親子成り)をもって終生つきあう。乳つけによって生児の生命に活力を与えるという一種の呪術的儀礼とも考えられる。
執筆者:大藤 ゆき
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報