母乳(読み)ぼにゅう

精選版 日本国語大辞典 「母乳」の意味・読み・例文・類語

ぼ‐にゅう【母乳】

〘名〙 母親の乳。
暗夜行路(1921‐37)〈志賀直哉〉三「生れたての未だ何も分からない赤児ながら、母乳(ボニウ)以上の母愛をも要求しないとは云へなかった」

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デジタル大辞泉 「母乳」の意味・読み・例文・類語

ぼ‐にゅう【母乳】

母親の乳。「母乳で育てる」
[類語]おっぱい生乳原乳

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「母乳」の意味・わかりやすい解説

母乳
ぼにゅう

「母親の乳」の意。人類が地球上に誕生して以来今日に至るまで、ほとんどの人間は母乳を基礎としてはぐくまれてきた。母乳は初乳、移行乳、成熟乳に分類される。初乳は分娩(ぶんべん)後1週間にわたって分泌され、数日間の移行期(移行乳)を経て、成熟乳(永久乳)になる。初乳は濃厚で粘稠(ねんちゅう)な淡黄色の乳汁で、成熟乳と比較してタンパク質量、とくにラクトアルブミングロブリンが多く、乳糖と脂肪が少ない。また初乳には各種の免疫抗体が含まれており、新生児にとって抗体獲得のうえで重要な意味をもっている。母乳栄養長所として、疫学的には、消化不良症、感冒気管支炎肺炎などの感染症の罹患(りかん)率が少ないことが指摘されている。母乳組成分は、乳児発育に必要なものがもっとも適切な配分で含まれており、栄養生理や発育面にとっても、人工栄養より優れている。また母乳が病原体に対する抵抗性をもつことが明らかとなり、とくに免疫グロブリンが初乳中に高濃度に含まれていることが明らかにされている。

 母乳栄養には、過剰授乳の心配はない。これは、母乳分泌量の調節と、哺乳(ほにゅう)のときの、乳児の筋肉の疲労に伴う自然な歯止め作用によるものである。また母乳栄養は、生後24時間以内に、ごく自然な母子間の愛情交流をスタートできるという、かけがえのないよい影響を生じ、母親にとっては精神的充足感を生み出し、乳児にとっても心地よいスキンシップの機会を豊かに提供することになる。母乳栄養の問題点としては、母親の摂取したほとんどの物質が、母乳を介して乳児に移行することがあげられる。そして、アルコール、たばこ、コーヒーなどの嗜好(しこう)品、あるいは薬物、公害による母乳汚染などが乳児の健康を害する可能性があることである。このように母乳栄養の際には、母親の栄養および健康管理がきわめて重要な意味をもつことを忘れてはならない。

 母乳の分泌は神経内分泌系(視床下部~下垂体前葉、プロラクチン)を介して行われ、その分泌期間には個体差が大きい。しかし母乳栄養の期間としては、通常8~10か月ころまでとし、離乳食が3回食となるころには牛乳に切り替えることが望ましい。というのは、このころになると、母乳自体の栄養価が下がり、一方では乳児の生理機能も発達し、母乳に依存する必要性がなくなるためである。

[帆足英一]

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世界大百科事典 第2版 「母乳」の意味・わかりやすい解説

ぼにゅう【母乳 breast milk】

出産した女性が分泌する人乳をいうが,小児科学上,狭義には母親が自分の子に与える乳をさす。母乳による栄養法は,育児用調製粉乳や牛乳,ヤギ乳など,種の異なる哺乳類の乳汁による栄養法よりも,栄養,免疫などの点からはるかに優れている。また狭義の母乳による保育は,母子関係に及ぼす心理的・精神的影響の面で有利であり,また授乳中は妊娠しにくいということから,とくに発展途上国では出生率の低下に寄与している。
[母乳栄養breast feeding]
 人乳による栄養方法をいう。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「母乳」の意味・わかりやすい解説

母乳
ぼにゅう

分娩後,母体の乳腺から分泌される乳汁。乳児に理想的な栄養食品で,その成分は最も消化,吸収されやすく,代謝に有利な組成をもつ。したがって母乳を十分に与えられている乳児は,病気に対して抵抗力があり,栄養状態が良好といえる。また,授乳することによって,母子の愛情の交流も行われる。

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デジタル大辞泉プラス 「母乳」の解説

母乳

山本高治郎による著作。1983年刊行。同年、第37回毎日出版文化賞(家庭・保育)受賞。

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栄養・生化学辞典 「母乳」の解説

母乳

 母親が分泌する乳.

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世界大百科事典内の母乳の言及

【育児】より

…歩行,言語,識字,計算など心身の機能の発達状態の評価についても,正常な発達パターンを知ることがまず必要である(生理学)。 母乳栄養に始まり,その補助手段である人工乳汁栄養,乳汁から固形食への移行(離乳),消化管の機能が成熟するまでの間の食事(幼児食)など,小児に必要な栄養の種類,質・量についての知識(栄養学)も育児に欠くことができない。かつて小児の生命を脅かした肺炎,下痢・腸炎のような感染症,あるいはその他さまざまな疾患を予防し治療するための学問,すなわち病理学,診断学,治療学も育児を支える学問である。…

【新生児】より

…異常があったら沐浴をしてはならない。
[新生児の栄養]
 (1)母乳栄養 新生児および乳児の栄養には母乳が最も優れていることはいうまでもない。母乳栄養ができるかどうかは新生児期の栄養法に大きく関係するので,新生児の栄養でたいせつなことは母乳栄養の確立に努力することである。…

【乳つけ】より

…またカニババ(胎便)が出るまでは授乳せず,砂糖水,番茶などを綿にふくませて吸わせた。最初の母乳はアラチチ(新乳)といって,よくないとして与えず,また母乳の出も悪いので,生後2日間くらいは他人の乳を用いる風習が昭和10年ころまでひろく行われていた。生児が男なら女児をもつ人,女なら男児をもつ人にたのむ場合が多く,チアワセ(乳合せ),アイチチなどとよんでいる。…

【乳汁分泌不全症】より

…分娩がすみ,新生児に母乳を与える段階になっても,乳汁分泌量が不十分な状態をいう。正常な1回哺乳量は,生後1週間くらいで30~60ml,2週間で60~90ml,3週間で90~120mlとされている。…

※「母乳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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