母乳(読み)ボニュウ(英語表記)breast milk
human milk

デジタル大辞泉 「母乳」の意味・読み・例文・類語

ぼ‐にゅう【母乳】

母親の乳。「母乳で育てる」
[類語]おっぱい生乳原乳

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「母乳」の意味・読み・例文・類語

ぼ‐にゅう【母乳】

  1. 〘 名詞 〙 母親の乳。
    1. [初出の実例]「生れたての未だ何も分からない赤児ながら、母乳(ボニウ)以上の母愛をも要求しないとは云へなかった」(出典:暗夜行路(1921‐37)〈志賀直哉〉三)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「母乳」の意味・わかりやすい解説

母乳 (ぼにゅう)
breast milk
human milk

出産した女性が分泌する人乳をいうが,小児科学上,狭義には母親が自分の子に与える乳をさす。母乳による栄養法は,育児用調製粉乳や牛乳,ヤギ乳など,種の異なる哺乳類の乳汁による栄養法よりも,栄養,免疫などの点からはるかに優れている。また狭義の母乳による保育は,母子関係に及ぼす心理的・精神的影響の面で有利であり,また授乳中は妊娠しにくいということから,とくに発展途上国では出生率の低下に寄与している。

人乳による栄養方法をいう。母乳栄養には,搾った母乳をいったん哺乳瓶にとり,子に与えるという方法も含まれる。この方法は,有職婦人が子と離れなければならないときや,乳児を収容している病・産院で利用されている。また搾った母乳を冷凍保存し,必要とする病児や未熟児などに供給するシステムを母乳銀行(母乳バンクともいう)というが,日本でも一部の医療機関で私的に設置されている。しかし搾母乳を哺乳瓶にとって与える方法は,母親の乳汁分泌機構や母児の愛情形成からみると,子が直接に母親の乳房,乳首から飲むという狭義の母乳栄養に比べ,不利はまぬかれない。一方,生母以外の女性による授乳は,乳母(うば)や里子の制度下で,あるいは〈もらい乳〉として,人工栄養法が発達する以前には各地で広く行われていた。

(1)母乳栄養の得失 狭義の(しかし本来の)母乳栄養は授乳という行為によって,母子間には自然に愛情が形成されるなど,単に栄養物を子に与えるということ以上の形而上的な利点をもつが,一方で,人工栄養に比べ次のような不利な点もいくつかある。(a)新生児期の黄疸(新生児特発性高ビリルビン血症)が長びきやすいこと この黄疸を母乳黄疸ともいい,生後1週以後10週ころまで,授乳を続けているかぎり持続することがある。しかし核黄疸のように重篤な症状を呈し,後遺症を残した例は報告されていず,母乳を中止しなければならないほどの黄疸になることはない。(b)乳児特発性ビタミンK欠乏症 ビタミンKの不足によって頭蓋内出血が起こる疾患で,生後2週以後10週ころまでにみられる。母乳栄養児に発生頻度が高く,日本の調査では,母乳栄養児1700例に1例の発生頻度であるという。死亡率が高く,重篤な後遺症を残すため,発生の予防がたいせつで,血中のビタミンK濃度を測定することによって,発症を予測する。予防にはビタミンK剤の注射や内服が有効である。(c)有害物質病原体の移行 母乳を介して有害物質や病原体が母から子に伝播することもある。かつて,含鉛白粉を使用した母親から母乳を介して鉛が移行し,子が鉛中毒になった例がある。PCBの伝播もよく知られた例で,B型肝炎ウイルスの伝播も否定されていない。

 しかしこれらの母乳栄養の不利益は,その発生機序を理解し,適切な対策を講じれば,母乳栄養のもつ大きな利益を損なうものではない。

(2)母乳分泌をよくする方法 人工栄養法が未発達な時代には,母乳栄養が子の生命を左右したから,母乳分泌をよくするためにいろいろな方法がとられた。乳の出をよくすると信じられた食物,薬草,薬物などが,どの民族にも伝承されている。しかしその多くは心理的効果はあっても,実効は疑わしい。医学的には,母乳分泌をよくする方法としては次のようなものがあげられる。(a)食物 授乳中の食物については諸説があり,現代でもなお,禁忌食品を設け,これを厳守するよう主張する説もある。しかし,日常摂取する食物のなかに,乳汁の分泌を阻害するものはないと考えてよい。厚生省が発表した栄養所要量(1979)によると,授乳中はエネルギーやタンパク質などを,ふだんの約35%増で摂取するよう計算されている。アレルギー学的見地からは,母親の食物アレルギーの原因となる食物は避けたほうがよいとされるが,それ以外は特定の食品に偏らないよう,配分に注意して摂取すればよい。(b)乳房マッサージ 母乳分泌と乳腺炎の予防に有効であり,乳房の過度の緊満(乳房がはること)による苦痛をまぬかれるためにも有効である。しかし子の吸啜に勝るものではなく,あくまでも補助手段にすぎない。(c)頻繁な授乳 母乳分泌をよくするために最も有効な方法である。乳首への吸引刺激が母乳分泌機構の引金になっているからである。したがって,母乳不足を感じたら授乳回数と時間を増すことがたいせつである。人工乳や果汁などへの切りかえは,その分,乳首への吸引刺激が減るため,乳汁の分泌が低下する。かつては,3時間あるいは4時間おきの規則授乳が奨励されたが,現在では,昼夜とも子が欲しがるときに自由に与える自律授乳が最善とされている。

 なお,適度の休息と精神的,身体的な他者の援助も,母乳の分泌をよくするために必要であることはいうまでもない。

(3)母乳不足の指標 親が主観的に母乳不足を心配して混合栄養や人工栄養に移行することが多いが,その判断は慎重に行われなければならない。母乳不足の指標としては,子の体重増加状況と排尿回数がある。体重は,母子健康手帳などに掲載されている身体発育標準曲線に平行して増加していればよく,排尿回数は,おしめを1日6~7回取り替える必要があれば,水分摂取量すなわち母乳摂取量は足りていると判断できる。授乳回数や時間は子の発育状態によって変動するし,排便回数も母乳不足の指標としては適当ではない。また乳房のはりも母乳分泌の良否の目安にはならない。一方,授乳開始時に乳首のまわりに感じられる痛みに似た感覚は,オキシトシンによる射乳反射が正常に起こっていることの表れで,この感覚の有無のほうが乳房のはりよりも重要。

 なお,母乳の成分などについては〈〉の項目を参照されたい。
混合栄養 →授乳 →人工栄養
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「母乳」の意味・わかりやすい解説

母乳
ぼにゅう

「母親の乳」の意。人類が地球上に誕生して以来今日に至るまで、ほとんどの人間は母乳を基礎としてはぐくまれてきた。母乳は初乳、移行乳、成熟乳に分類される。初乳は分娩(ぶんべん)後1週間にわたって分泌され、数日間の移行期(移行乳)を経て、成熟乳(永久乳)になる。初乳は濃厚で粘稠(ねんちゅう)な淡黄色の乳汁で、成熟乳と比較してタンパク質量、とくにラクトアルブミン、グロブリンが多く、乳糖と脂肪が少ない。また初乳には各種の免疫抗体が含まれており、新生児にとって抗体獲得のうえで重要な意味をもっている。母乳栄養の長所として、疫学的には、消化不良症、感冒、気管支炎、肺炎などの感染症の罹患(りかん)率が少ないことが指摘されている。母乳組成分は、乳児の発育に必要なものがもっとも適切な配分で含まれており、栄養生理や発育面にとっても、人工栄養より優れている。また母乳が病原体に対する抵抗性をもつことが明らかとなり、とくに免疫グロブリンが初乳中に高濃度に含まれていることが明らかにされている。

 母乳栄養には、過剰授乳の心配はない。これは、母乳分泌量の調節と、哺乳(ほにゅう)のときの、乳児の筋肉の疲労に伴う自然な歯止め作用によるものである。また母乳栄養は、生後24時間以内に、ごく自然な母子間の愛情交流をスタートできるという、かけがえのないよい影響を生じ、母親にとっては精神的充足感を生み出し、乳児にとっても心地よいスキンシップの機会を豊かに提供することになる。母乳栄養の問題点としては、母親の摂取したほとんどの物質が、母乳を介して乳児に移行することがあげられる。そして、アルコール、たばこ、コーヒーなどの嗜好(しこう)品、あるいは薬物、公害による母乳汚染などが乳児の健康を害する可能性があることである。このように母乳栄養の際には、母親の栄養および健康管理がきわめて重要な意味をもつことを忘れてはならない。

 母乳の分泌は神経内分泌系(視床下部~下垂体前葉、プロラクチン)を介して行われ、その分泌期間には個体差が大きい。しかし母乳栄養の期間としては、通常8~10か月ころまでとし、離乳食が3回食となるころには牛乳に切り替えることが望ましい。というのは、このころになると、母乳自体の栄養価が下がり、一方では乳児の生理機能も発達し、母乳に依存する必要性がなくなるためである。

[帆足英一]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「母乳」の意味・わかりやすい解説

母乳
ぼにゅう

分娩後,母体の乳腺から分泌される乳汁。乳児に理想的な栄養食品で,その成分は最も消化,吸収されやすく,代謝に有利な組成をもつ。したがって母乳を十分に与えられている乳児は,病気に対して抵抗力があり,栄養状態が良好といえる。また,授乳することによって,母子の愛情の交流も行われる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

デジタル大辞泉プラス 「母乳」の解説

母乳

山本高治郎による著作。1983年刊行。同年、第37回毎日出版文化賞(家庭・保育)受賞。

出典 小学館デジタル大辞泉プラスについて 情報

栄養・生化学辞典 「母乳」の解説

母乳

 母親が分泌する乳.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の母乳の言及

【育児】より

…歩行,言語,識字,計算など心身の機能の発達状態の評価についても,正常な発達パターンを知ることがまず必要である(生理学)。 母乳栄養に始まり,その補助手段である人工乳汁栄養,乳汁から固形食への移行(離乳),消化管の機能が成熟するまでの間の食事(幼児食)など,小児に必要な栄養の種類,質・量についての知識(栄養学)も育児に欠くことができない。かつて小児の生命を脅かした肺炎,下痢・腸炎のような感染症,あるいはその他さまざまな疾患を予防し治療するための学問,すなわち病理学,診断学,治療学も育児を支える学問である。…

【新生児】より

…異常があったら沐浴をしてはならない。
[新生児の栄養]
 (1)母乳栄養 新生児および乳児の栄養には母乳が最も優れていることはいうまでもない。母乳栄養ができるかどうかは新生児期の栄養法に大きく関係するので,新生児の栄養でたいせつなことは母乳栄養の確立に努力することである。…

【乳つけ】より

…またカニババ(胎便)が出るまでは授乳せず,砂糖水,番茶などを綿にふくませて吸わせた。最初の母乳はアラチチ(新乳)といって,よくないとして与えず,また母乳の出も悪いので,生後2日間くらいは他人の乳を用いる風習が昭和10年ころまでひろく行われていた。生児が男なら女児をもつ人,女なら男児をもつ人にたのむ場合が多く,チアワセ(乳合せ),アイチチなどとよんでいる。…

【乳汁分泌不全症】より

…分娩がすみ,新生児に母乳を与える段階になっても,乳汁分泌量が不十分な状態をいう。正常な1回哺乳量は,生後1週間くらいで30~60ml,2週間で60~90ml,3週間で90~120mlとされている。…

※「母乳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

世界の電気自動車市場

米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...

世界の電気自動車市場の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android