翻訳|meconium
新生児が出生後1、2日の間に初めて排泄(はいせつ)する暗緑色の便をいう。3日目以後には黄色の移行便とよばれるものに変わっていく。胎便の排泄が24時間以上遅れると、腸の疾患が疑われる。また、胎便はビリルビンを多く含むため、その排泄の遅延が黄疸(おうだん)の原因の一つともなっている。分娩(ぶんべん)時に羊水が胎便で混濁した場合は、児が苦しくて便を子宮体内で排泄したことを意味し、児の悪い状態を示すものである。
[仁志田博司]
なお、胎便のことを「かにばば」とか蟹屎(かにくそ)とよぶのは、蟹守(かにもり)の故事による。『古語拾遺(こごしゅうい)』によれば、豊玉姫(とよたまひめ)が海浜の産屋(うぶや)で皇子を出産したとき、供の天忍人(あめのおしひと)が箒(ほうき)をつくって蟹を掃いたことから掃除などをつかさどるようになり、蟹守とか掃守(かにもり)の姓ができ、のちに掃部(かもん)となったという。この故事から、出産や産児に蟹を付してよぶ語がつくられた。
[新井正夫]
『斎部広成著『古語拾遺』(岩波文庫)』
胎児の腸管内に含まれる物質の総称で,出生後に排出される。緑黒色,均質な外観を示し,粘稠で無臭である。胎便は,胎児の消化管分泌液,粘液,膵液,胆汁,および胎児によって嚥下された胎脂を含む羊水成分などが混じったもので,この特有の色調は胆汁色素に由来する。胎便の約80%は水分で,残りは固形成分(ムコプロテイン,脂肪,コレステロールなど)である。正常な胎便では,タンパク質は腸消化酵素で分解されるためほとんど含まれていない。健康新生児では,90%は出生後24時間以内に,98%は36時間以内に,胎便の排出がみられる。24時間以内に水分の多い多量の胎便が排出されれば消化管閉塞は否定される。胎便の排出は出生後3~4日間,1日に4~5回行われ,その後,移行便へ移行する。
胎便排出の遅延は,先天性巨大結腸症(ヒルシュスプルング病),消化管閉塞,胎便栓症候群,甲状腺機能低下症,および腸管麻痺を伴った敗血症などでみられる。胎便の異常と関係した新生児期の疾患としては,胎便を含んだ羊水を肺に吸引しておこる胎便吸引症候群,直腸肛門部が胎便で栓塞をおこす胎便栓症候群,胎便性イレウスおよび胎便性腹膜炎がある。このなかで胎便性イレウスは,囊胞性繊維症の新生児期にみられる重要な症状であるが,日本ではきわめてまれである。なお,胎便栓症候群と胎便性イレウスとはまったく別の疾患であることに注意する必要がある。
執筆者:瀧田 誠司
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出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
…後産(あとざん)(えな)は生児の分身と考えられ,その始末法によって生児の将来に影響があると信じられていた。カニババは胎便のことで,カニクソ,カニコなどともいう。生後2~3日の間に排出される黒い便であるが,以前はこの間は授乳せず,マクリ,フキなど草木の根を煎じて飲ませるのが一般の慣習であった。…
…これは主として体内の水分が排出されるためであり,生後7日ころまでには生まれたときの体重にもどり,その後は1日30gくらいずつ増加する。生後3日目ころまでに出る便は胎便とよばれ,緑色を帯びた黒色で,無臭,粘稠,均質な便である。生後4~5日ころには黄緑色の移行便に変わり,その後は黄色い乳児便になる。…
※「胎便」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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