改訂新版 世界大百科事典 「親子成り」の意味・わかりやすい解説
親子成り (おやこなり)
親子関係にない者が一定の手続を経て親子関係に類似した関係をとり結ぶことを一般に親子成りといい,親子成りによって成立する関係を仮の親子関係,親分・子分関係,擬制的親子関係,儀礼的親子関係などと一般的に呼んでいる。また,この関係における親を仮親という。親子成りによって設定されるのは法的な親子関係とは異なるから,養子縁組による養親子関係とは社会的意義が全く異なる。
親子成りが行われる契機には二つあり,第1は出産,命名,成人,結婚など通過儀礼の諸段階に行われるものであり,こうしてとった親に取上親,名付親,元服親,仲人親などがある。第2は拾い親,草鞋親のように通過儀礼の段階にはとくに関係なく,子どもが病気がちでよく育たないとか,新しく村に転入してきた場合に行われるものである。しかしいずれの場合にあっても,親子成りはある人間が新しい社会的状況に直面したときに行われるのが特徴である。この意味で仮親は個人の新しい社会的状況の媒介者,援助者なのである。
親子成りの手続としての儀礼には,仲介者,締結儀礼,披露などの諸側面があり,この点で婚姻儀礼に類似している。親子成りの依頼は日本ではごく一部の例をのぞいて,子の側から行われ,このとき仲介者を立てる例がある。茨城県ではこの仲介者をナカダチニンと呼ぶ。親子成りの締結儀礼では多くの場合オヤの家で親子のサカズキを交わすのが中心である。たとえば成人にあたっての元服,カネツケの祝いがかつて結婚式よりも盛大に行われた対馬では,このとき元服親,カネツケ親をとるが,このときコに盛装をさせオヤの家でオヤコサカズキを交わす。この儀礼への参加者は,オヤ夫婦,コのほかに親類の2組の夫婦,酌取娘が必要で,数日前から料理をつくるなど重要な儀礼であった。オヤコサカズキののちには親類,村人への披露も行われた。親子成りの一般の村人への披露としては赤飯やまんじゅうを配るのが一般的である。
実親以外の者との間にさまざまな形で親子成りを行い,一種の親子関係を設定する社会的意義は次の3点に求められる。第1はこうした親子成りが主としてコの側の社会的劣位状況の克服を目的として行われることである。たとえば仲人親は,個人が結婚を経過したのちの新しい社会生活において直面せざるをえないさまざまな問題を,仲人親の援助を得て克服しようとするものである。この点はまた,子どもが弱いとか,親の厄年に生まれた子にとる拾い親の場合にとくに強調される。第2はこうした社会的劣位状況の克服にあたって実親の力には限界があり,実親以外の人と親子成りをすること,したがって親子成りの関係が家族を越えた関係として設定されることである。第3は親子成りにもとづく関係が何らかの意味における社会的上位者と下位者,すなわち上下関係としてつねに設定されることである。上位者とは政治的・経済的勢力をより多くもつ者,本家,高齢者など社会構造のちがいによって村落によって異なっている。
→親子 →親分・子分 →擬制的親族関係
執筆者:上野 和男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報