後期スコラ学に現れた真理観。真理は多数あっても究極的には一つの真理(根拠)によって成立するというのがギリシア哲学の真理観であるが,これに対しキリスト教とイスラム教では,〈啓示(信仰)の真理〉と〈理性の真理〉とを区別する傾向があった。教父たちは理性は神的光をうけて作用すると考え,スコラ学は自然的認識を神学の準備または弁証として考えたので,その限りでは二つの真理は分離しなかった。しかしやがて人間理性の自然性と自存性が自覚されるに及んで両者の矛盾が意識され,哲学が神学から分かれるようになる。二重真理説はこの過渡的段階に現れたもので,アラビアの哲学者イブン・ルシュド(アベロエス)とその弟子シジェ・ド・ブラバン,後期スコラのドゥンス・スコトゥス,オッカムなどにみられる。その際,理性の能動性と受動性,〈必然的な命題〉と〈偶然的な命題〉について議論が深まったことは西洋哲学史上重要な成果であった。
→真理
執筆者:泉 治典
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