知識(読み)チシキ(英語表記)knowledge

翻訳|knowledge

デジタル大辞泉 「知識」の意味・読み・例文・類語

ち‐しき【知識/×智識】

[名](スル)
知ること。認識・理解すること。また、ある事柄などについて、知っている内容。「日々新しい―を得る」「―をひけらかす」「予備―」
「幸福とは何かと云う事を明細に―して了っている」〈長与竹沢先生と云ふ人
考える働き。知恵。「―が発達する」
(多く「智識」と書く)仏語。
㋐仏法を説いて導く指導者。善知識。
㋑堂塔や仏像などの建立に金品を寄進すること。また、その人や金品。知識物。
㋒対象を外界に実在すると認める心の働き。
knowledge/〈ドイツ〉Wissen》哲学で、確実な根拠に基づく認識。客観的認識。
[類語](1知見がく学識学殖造詣ぞうけい蘊蓄うんちく教養素養理解認識常識良識学問博学博識碩学篤学有識該博博覧強記知る

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精選版 日本国語大辞典 「知識」の意味・読み・例文・類語

ち‐しき【知識・智識】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 知恵と見識。ある事柄に対する明確な意識と判断。また、それを備えた人。
    1. [初出の実例]「川内国志貴評内知識、為七世父母及一切衆生、敬造金剛場陁羅尼経一部」(出典:金剛場陀羅尼経巻一跋(686))
  3. ( ━する ) 理解すること。認識すること。また、その内容や事物。
    1. [初出の実例]「かくのこときは、衆に知識(チシキ)せられたる(〈注〉オホクノヒトニシラレタル)大阿羅漢等なり」(出典:妙一本仮名書き法華経(鎌倉中)一)
  4. 知っている内容。知られていることがら。
    1. [初出の実例]「願くは時々手紙を往復して相思の情を慰め且互に見聞を広め知識を交換せむと」(出典:小学読本(1884)〈若林虎三郎〉四)
  5. 知っている人。見知っている人。親しくしている人。知人。知己。友人。朋友。
    1. [初出の実例]「即おおきに尊び悲びて国内に知識をとなへて我よりはじめて」(出典:観智院本三宝絵(984)中)
    2. 「みだりに知識(チシキ)にもあらぬ人ゑ寿賀の詩文を請求して」(出典:授業編(1783)九)
    3. [その他の文献]〔管子‐入国〕
  6. 仏語。
    1. (イ) 仏道を説いて人を導き、仏縁を結ばせる人。法の上の善友。徳の高い僧。高僧。善知識。
      1. [初出の実例]「勧進之行、恐同心之人、是以殊被宣下、欲知識」(出典:内閣文庫所蔵摂津国古文書‐建久七年(1196)六月三日・太政官符案)
      2. 「ある知識ののたまはく、なま禅大疵のもとひとかや、いとありがたく覚て 稲妻にさとらぬ人の貴さよ〈芭蕉〉」(出典:俳諧・己が光(1692))
    2. (ロ) 仏像や堂塔などの造立に、金品を寄進して助けること。その事業に協力すること。また、その人や、その金品。奉加。勧進。知識物。
      1. [初出の実例]「十月十五日、発菩薩大願盧舎那仏金銅像一躯。〈略〉広及法界。為朕知識」(出典:続日本紀‐天平一五年(743)一〇月辛巳)
      2. 「一人の聖人有て、〈略〉普(あまね)く諸の人を催て、知識と云事を以て其の橋を渡してけり」(出典:今昔物語集(1120頃か)三一)
  7. ( [英語] knowledge [ドイツ語] Wissen の訳語 ) 哲学で、認識活動によって得られ、客観的に確証された成果。広義には、諸事物について経験によって得られた断片的な事実認識もすべて含むが、狭義には、これらの事実認識を統一的に組織づけ、普遍的な妥当性を要求できるように整えられた命題の体系。〔附音挿図英和字彙(1873)〕

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最新 心理学事典 「知識」の解説

ちしき
知識
knowledge

知識は,人間の心的過程のモデルとしてコンピュータを採用した認知心理学においては,記憶中に貯蔵された外界に関する情報であると定義される。しかし知識とは何かについては,古くから哲学者,言語学者,心理学者らによって議論されており,現代心理学においても理論によってそのとらえ方は一様ではない。

【宣言的知識と手続き的知識の区分】 知識は宣言的知識と手続き的知識とに分けることができる。この区分は古くは哲学者ライルRyle,G.(1949)による「事実を知ることknowing that」と「やり方を知ることknowing how」の分け方にも見られる。

 宣言的知識declarative knowledgeは「事実を知ること」に対応し,事実,出来事,概念に関する知識である。また,宣言的知識は言語的に表現可能であり,明示的で,意識的に利用することができる。

 手続き的知識procedural knowledgeは「やり方を知ること」に対応し,熟練を要する認知的・運動的技能に関する知識である。手続き的知識は言語化が難しく,意識的に利用することができない。たとえば,自転車の構造や走るメカニズム(宣言的知識)については説明できるが,自転車の乗り方(手続き的知識)は実際に乗って見せることによってしか示すことができない。手続き的知識は,技能学習skill learningやプライミングの基礎となる知識を含む。技能学習とは自動車の運転の仕方などの運動的技能や,コンピュータのプログラミングのような認知的技能の習得をいう。アンダーソンAnderson,J.R.のACTモデルによれば,技能の習得は,初めは宣言的知識に依存するが,練習を反復することによって,プロダクションルールで表現される手続き的知識の利用に移行する。技能の獲得は認知的cognitive,連合的associative,自立的段階autonomous stageという3段階を経る。認知的段階では,知識がまだ宣言的に表現されており(多くは言語的である),注意の負荷が高い。連合的段階では,練習を重ねることによって言語的媒介が減少し,ルールを学習して,無意識にそれを使い始める。自立的段階では,宣言的知識が手続き的知識に変換され,ルールが自動的に適用される結果,行動は速く,正確に実行されるようになる。

 宣言的知識と手続き的知識の区分は健忘症患者の研究からも影響を受け,スクワイアSquire,L.はこの区分に基づいた記憶システムを提唱し,記憶を宣言的記憶と手続き的記憶に分類した。手続き的記憶には技能,プライミング,条件づけ反応,慣れなどが含まれる。健忘症患者はすでにもっていた手続き的記憶を保持している。

 宣言的記憶declarative memoryのうち,情報を意識的に想起することができるため,エピソード記憶は顕在記憶explicit memoryとよばれる。これに対し,手続き的記憶procedural memoryは,意味記憶・プライミング記憶とともに意識的に想起できない知識に依存するため,潜在記憶implicit memoryとよばれる。

【エピソード記憶と意味記憶の区分】 タルビングTulving,E.(1972)は宣言的記憶をエピソード記憶と意味記憶とに分けることを提唱した。エピソード記憶episodic memoryは個人的に経験した出来事や事象の記憶である。エビングハウスEbbinghaus,H.(1885)によって創始された実験室的記憶実験は,エピソード記憶を測定したものだといえる。その後1970年代にはコンピュータ科学や人工知能研究の影響を受けて人間の知識構造やその運用に関する研究が盛んとなり,外界に関する一般的知識の記憶を意味記憶とした。タルビング(1985)は検索時の意識経験という観点からも,エピソード記憶と意味記憶とを区分した。エピソード記憶は自己認識的autonoeticであり,出来事を経験した際の時間,場所,音,匂い,明るさなどの特定の文脈的情報がともに想起される。意味記憶は認識的noeticではあるが,実際の経験とは切り離されて貯蔵され,その内容をいつどこで学習したのかという情報を伴わない。タルビングはその後,エピソード記憶によって個人的出来事を想起し,過去にさかのぼって追体験する側面を強調し,これを「心的時間旅行mental time travel」とよんだ。

 このように想定されたエピソード記憶と意味記憶との区分を実験的に立証するために,情報を「思い出すremember」または情報を「知っているknow」という2種類の判断が求められる記憶テストが考案された。「思い出す」判断では学習項目の詳細を意識的に想起しており,これはエピソード記憶を測定しているとみなされた。また,「知っている」判断は詳細の記憶はないが,既知感があることを示しており,意味記憶を反映していると考えられた。「思い出す」判断と「知っている」判断とが,さまざまな実験変数によって異なった影響を受けるかどうかが研究され,これらの手続きがどの程度,基盤となる記憶システムを反映しているかが論争の的になった。

 神経心理学的データによれば,健忘症amnesia患者は新しい情報の記憶能力が損なわれているが,記憶障害は通常エピソード記憶に発生する。しかし,意味記憶からの検索は可能なことが多いため,二つの記憶区分の根拠に加えられている。

 意味記憶semantic memoryは,タルビング(1972)によって次のように定義された。「意味記憶は言語を使用するために,なくてはならない記憶である。それは心的辞典mental thesaurusであり,単語や他の言語的シンボル,それらの意味や指示対象,関係,規則,公式,およびこれらのシンボル,概念,関係の操作に関するアルゴリズムについて人びとがもっている体系化された知識である」。すなわち心的辞典とは,長期記憶における単語の表象である心的辞書mental lexicon(心内にあることばの辞書)より広い情報をもつ心的な百科事典である。意味記憶は外界に関する一般的知識であり,それらが学習された特定の時間的・空間的情報を含まない。意味記憶研究では,知識がどのように構造化され,またそれらがどのように利用されるのかが検討された。

【意味記憶のモデル】 意味記憶のモデルとして代表的なものに階層的ネットワークモデル,特徴比較モデル,活性化拡散モデルがある。

1.階層的ネットワークモデルhierarchical network model コリンズCollins,A.M.とキリアンQuillian,M.R.(1969)は,知識が階層的な意味ネットワークとして表現されると提案した。図1に示すように,意味ネットワークは上位概念から下位概念へと相互に連合した階層構造として表現される。個々の概念はノードnode(接点)に対応し,概念間はリンクによって結合される。リンクにはノード間の結合関係を示すラベルが付けられており,概念間の包含関係,概念のもつ属性などを意味する。この構造では,各概念(たとえば「カナリア」)はより上位の一般的概念(「鳥」)の下に位置づけられている。また,各概念はそれを特徴づける属性(「黄色い」「さえずる」など)とも結合されている。ある一群の概念に共通した属性は個々の概念にではなく,最も上位の概念においてのみ貯蔵されており,これを認知的節約cognitive economyの原則とよぶ。コリンズとキリアンは文の真偽判断課題sentence verification taskの反応時間を測度として,モデルの検証を試みた。モデルの仮定によれば,検索しなければならない概念や属性間のレベル差が増すほど,反応時間は増加する。たとえば,「カナリアは動物である」は「カナリアは鳥である」よりも反応時間が長くなることが予測され,実験結果はこれに一致した。しかし,このモデルでは説明できない結果も示された。第1に,「カナリア」も「ダチョウ」もともに「鳥」というカテゴリーの事例であるが,「ダチョウは鳥である」のような非典型的な事例に関する文では,階層レベル差が等しくても判断時間がより長くなるという現象(典型性効果typicality effect)を説明できない。第2に,「哺乳類」は「動物」の下位概念であるが,「コリー犬は哺乳類である」への判断時間の方が「コリー犬は動物である」に対してよりも長くなるという結果が得られ,これは階層構造による予測に一致しない。

2.特徴比較モデルfeature comparison model スミスSmith,E.E.ら(1974)は,概念が意味特徴semantic featureの集合として意味記憶に表現されると提唱した。概念を構成する特徴は,定義的特徴defining featureと典型的特徴characteristic featureとに区別される。定義的特徴はその概念の中核的意味を成し,必要かつ十分な特徴である。典型的特徴はその概念を特色づける特徴ではあるが,定義にとっては必ずしも必要でない。文の真偽判断は,2段階の比較過程でなされる。第1段階では,二つの概念間の類似度を判断するために,定義的・典型的特徴のすべてが比較される。もし両者の類似度がきわめて高ければ「真」との判断が,類似性がきわめて低ければ「偽」との判断が直ちになされ,反応時間は短くなる。もし類似度が中程度であれば,第2段階へと進み,ここでは定義的特徴のみを比較して判断が行なわれ,その結果,反応時間は長くなる。このような2段階の比較過程を仮定することによって,特徴比較モデルでは,階層的ネットワークモデルでは説明できなかった典型性効果の説明が可能である。

 典型的な事例は非典型的な事例に比べて上位概念との間で特徴の類似性が高いため,第1段階のみで判断可能となり,反応が速いのである。しかし,特徴比較モデルの問題点は,定義的特徴と典型的特徴との区別にある。たとえば,「正三角形」のような人工概念であれば,定義的特徴が存在し,それがなければ三角形とはいえなくなるが,「家具」「鳥」のような自然発生的な概念には,そのカテゴリーの成員(事物や事象)のすべてがもっている定義的特徴を見いだすことができない。

3.活性化拡散モデルspreading activation model コリンズとロフタスLoftus,E.F.(1975)は階層的ネットワークモデルの問題を解決するために,活性化拡散モデルを開発した。まず,構造に関しては階層構造を柔軟性がないとして放棄し,代わりに意味的関連性に基づいたネットワークを仮定した。図2に示すように,概念間のリンクの長さは両者の意味的関連性の強度を表わし,短いほど関連性が強いことを示す。処理過程に関しては,ある概念を見たり,聞いたりして処理すると,該当するノードが活性化され,これに結合した他の概念へと活性化が拡散すると仮定した。リンクを通じて拡散する活性化は,概念間の距離,活性化するリンクの数,時間経過に比例して減衰する。たとえば,「カナリア」と「鳥」の方が,「ダチョウ」と「鳥」よりも意味的関連性が高く,リンクはより短いため,活性化が速く拡散することから,典型性効果を予測することができる。

 活性化拡散モデルによって予測できる現象の一つに意味的プライミング効果semantic priming effectがある。メイヤーMeyer,D.E.とシュベインベルトSchvaneveldt,R.W.(1971)は二つの文字列を継時的に提示し,それが単語であるか,非単語であるかを判断させる語彙判断課題lexical decision taskを行なった。その結果,第1刺激と第2刺激が意味的関連のある単語である場合(たとえば,「パン」と「バター」)は,そうでない場合(「看護師」と「バター」)に比べて,第2刺激の判断時間が短くなることが示された。モデルによれば,第1刺激が活性化されると,これに関連した単語にも活性化が拡散すると予測され,このことが第2刺激への処理を速めたと解釈できる。

【表象representation】 知識が記憶中に貯蔵される際には,対象の実体を離れ,一般化,抽象化の過程を経て,内的に表現される。表象とは,対象がなくともその対象を表現する表記法や記号の集合であり,事物や事象,概念やカテゴリー,あるいはそれらの特徴を特定する。表象には二つの側面がある。一つは表象が情報を伝える表現形式である。もう一つの側面は特定の表象が伝える内容または意味であり,同一の内容であっても,複数の形式によって伝えることが可能である。

1.表象の形式による区分 表象はその表現形式によって命題表象,アナログ表象,コネクショニスト・モデルに分けることができる。命題表象propositional representationは,言語に類似しており,情報が入力された際の感覚的刺激とはかかわりなく,抽象的である。これに対して,アナログ表象analogical representationは,イメージ的であり,視覚,聴覚など特定の感覚モダリティに対応しており,具体的である。イメージのもつ空間的特性は心的回転,イメージ走査などの実験により示されている。コネクショニスト・モデルconnectionist modelは,人間の認知過程のモデルとして脳の神経回路網を採用し,神経細胞に対応する単純なユニット間の結合によるネットワークを仮定する。また,概念はネットワーク上で特定のユニットによってではなく,ユニット間の活性化のパターンによって表現されるとする。

 命題propositionとは真偽を問うことのできる知識の最小単位であり,単一の,単純な観念ideaを表わす。この場合の観念とは,具体的事物から概念,文章の意味,思考内容までを含む広い範囲の心的表象を意味する。命題は一つの述部predicateと一つまたは複数の項argumentから構成される。項は基本的には個々の単語が示す概念に対応し,時にはほかの命題に対応することもある。述部は項の間の関係を示し,動詞,形容詞,結合関係,時と場所などが入る。命題の表記法はさまざまであるが,一般的な述語論理式predicate calculusでは,最初に述部を書き,次に括弧内に項を並べる。たとえば,「モーツァルトは公爵に美しい協奏曲を贈った」という文は,「贈る(モーツァルト,協奏曲,公爵),美しい(協奏曲)」という二つの命題リストで表わすことができる。「公爵はモーツァルトに美しい協奏曲を贈られた」という文も,命題リストでは等しくなり,言語,文法形式や語彙による違いにかかわりなく,同じ意味内容を抽出することができる。命題のもう一つの表記法はネットワークによる表現である。アンダーソン(1980)によれば,各命題は楕円で示され,ラベルの付いた矢印で述部や項に結合する。命題,述部,項はネットワークのノードとよばれ,ノード間を結合する矢印はリンクとよばれる。リンクに付いたラベルはノード間の結合の種類を示し,関係,行為者,対象,受け手などが含まれる。図3は「モーツァルトは公爵に美しい協奏曲を贈った」という文を命題ネットワークによって表現したものである。

2.表象の内容による区分 長期記憶における情報の表象を記憶表象memory representationという。記憶表象の形成は外界に関する知識によって影響を受ける。文や複数の文から成る文章など,有意味な材料の記憶においては,逐語的な単語や句などの表層的側面ではなく,全体の意味や要旨が想起される。キンチュKintsch,W.は文章理解のモデルにおいて記憶表象が表層形式surface form,テキストベースtextbase,状況モデルsituation modelという三つのレベルで形成されるとした。表層形式は,文の形式や逐語的な言い回しを保存する。テキストベースは各文の意味のみを抽出した命題表象である。状況モデルは,一つまたは複数の文(文章)自体の表象というよりは,それが記述している事象,行動,人物などの状況に関する表象である。状況モデルの構成は,文または文章から得られた情報に加えて,すでにもっている知識が用いられる。キンチュは3レベルの記憶表象の強度を文の再認実験で検証し,表層形式,テキストベース,状況モデルの順に保持時間が長くなることを示した。

 長期記憶における単語の表象を語彙的表象lexical representation,または心的辞書mental lexiconという。語彙的表象は意味のほかに正書法,音韻,統語など,単語に関するすべての情報を含む。単語の理解や産出のためには,語彙的表象をどのように検索してこれらの情報を得るかが問題となる。多くのモデルでは,意味,統語,音韻の3レベルの表象を仮定する。たとえば,言語産出は単語の根底にある概念を音声に変換する過程で,語の内容の意味表象を文法的な制約に従って形式的側面としての音韻表象に変換する過程である。 →記憶 →スキーマ →ニューラルネットワークモデル →認知 →認知心理学 →プライミング効果
〔川﨑 惠里子〕

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改訂新版 世界大百科事典 「知識」の意味・わかりやすい解説

知識 (ちしき)
knowledge
Wissen[ドイツ]
savoir[フランス]

知識とは,さしあたっていえば,人間のいとなみのうち,ものを知る活動一般の,とりわけ獲得された成果の側面をいう語にほかならない。〈しる〉ことは,元来〈領(し)る〉こと,すなわち支配しみずからのものとすることに通じ,漢字の〈知〉もまた,ものごとのありようを〈矢〉のように端的に〈口〉でもって言いあらわすことを意味するという。一方,〈識〉は,〈識別〉すると熟して使われることからも見て取れるように,あるものをそれ以外の他のものどもから判明に区別して見分けることを意味する。知識とは,したがって,より正確には,ものごとを〈見分け〉〈わきまえ〉(わき=分き)て〈しる〉こと,またとりわけ,そのようにして知られ,ないしは領られた内容を意味するものということができよう。

知識は,以上のことからして,当然,個人的な思いなしあるいは臆見(ドクサdoxa)とは区別される。思いなしあるいは臆見は,ものごとのありようを正確に見分け,識別して,領り,支配する域には達していないと考えられるからである。臆見が知識にまで高められるためには,それがものごとのありように即してだれにも認められる確実で公共的なものにまで洗い上げられなければならない。このような洗い上げのプロセスを幾世代にもわたる人々の協働によって自覚的に行うところに獲得されるのが科学的知識といわれるものにほかならない。〈知は力なり〉〈自然は従うことによって征服される〉といったF.ベーコンのことばに象徴されるように,近代科学の登場このかた,知ることのもつ領る,支配するという側面は,とりわけ強く人々の耳目をひきつけてきた。

しかし,もちろん,このことは,科学的知識のもつ権能への手ばなしの賛美がまかり通ってきたことを意味するものではない。むしろ,反対に,ものごとのありようを正確に〈見分け〉〈わきまえ〉て知り,またそのための方法をくり返し洗練するいとなみと同時に,近代科学の進展にともなって,知ることそのもののあり方やそれが人間のいとなみ全体の中で占める位置についての反省がさまざまな角度からなされてきたというのが実情なのである。ベーコンやデカルト以来の近代哲学において,とりわけ認識論が重んじられたことは,このような事態のあらわれにほかならない。近代哲学の展開の中で,われわれは,たとえばヒュームが,因果関係についてのわれわれの知識を蓋然的な信念や習慣にまで還元することによって,知識の専横に歯どめをかけ,あるいは,ニュートンの名に代表される近代科学の知識の存立場面を詳細に分析したカントが,〈信仰に場所をあけるために知識を制限せざるをえなかった〉といって,いわば知識の存立場面の彼方に,道徳や宗教的信仰の成立場面を指示するのを見る。これらの人々において,われわれは,正確に識別されたものごとへの支配力を獲得した知識を,にもかかわらず万能のものとはせず,それをたえずむしろ識別のより上位に位置して識別そのものをときに生み出し統御もする柔軟な信仰や信念や知恵の働きとつきあわせて従属させようとするすぐれた〈わきまえ〉を見るのである。

たとえば数や論理法則などの理念的な対象(これらについての知識は,ときに〈ア・プリオリ〉なものとして,経験にもとづく〈ア・ポステリオリ〉な知識と区別されることがある)まで含めた識別された対象にかかわる知識は,人間の生のいとなみ全体の中に置いてみると,けっして万能なものではなく,すでにみたように,識別的知識を超えてそれを導き統御する柔軟な信念,信仰,知恵などの働きに従属することによってはじめて生きるものである。この高次の働きが,ときにまた知ないし知識の名で呼ばれることから,事態はやや錯綜した観を呈することになる。すでにプラトンが,間接的な識別知としての〈ディアノイアdianoia〉の上位に,問答法ないし弁証法によって到達されるべき一種の直覚知を置き,それ以来,感覚的臆見,間接的識別知,直覚知という三分法は,西欧の思考の歴史において広く行われてきた。フィヒテの〈知識学〉やヘーゲルの〈絶対知〉にいう知ないし知識は,この伝統をふまえて,識別知と識別以前ないし識別を超えた直覚知にいわばあいわたる微妙な位置を占めている。この高次の知は,たとえばベルグソンになると,動物の本能にも比せられる〈直観〉として,直覚的性格をふたたびあらわにするが,それが近代実証科学の目覚ましい成果に幻惑され,識別的知識と安易に短絡されると,人間をかつての神に代わって自然を支配すべきものの位置におく悪しき意味での人間中心主義ないし主体主義の哲学を生むことになる。

人文科学,文化科学,精神科学などと,時と所に応じてさまざまな名で呼ばれる一連の科学が,自然科学とちがって,知識をその重要な一環として含む人間の文化によって形成されたものをその対象とするということは,これらの科学ないし学が,いわば知識の知識という側面を少なくとも重要な一環として含むことをいうにほかならない。ここから,これらの学の方法的特殊性も生じてくることになるが,ここで重要なのは,それらが知識の知識という性格をもつことが,おのずからそれらが知識批判の性格をもつことに通じることである。現代では,いわゆる未開社会を含めた多様な社会の文化やまた無意識ないし深層心理のメカニズムへのとらわれのない視野の拡大に応じて,〈学〉的知識そのもののあり方を,むしろ〈知〉一般の地平にたちかえることによってきびしく問い直す動きが見られはじめている。
直観 →認識論
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「知識」の意味・わかりやすい解説

知識
ちしき
knowledge 英語
connaissance フランス語
Wissen ドイツ語

客観的で確定的な認識内容をいう。日本では専門的知識をもった人や作家が知識人とよばれるが、そのよび方の当否は別として、ここでは高度の専門的知識と一般人のもつ常識とが区別されているようにみえる。その際一般的に、常識はあいまいで浮動的であり、知識は明晰(めいせき)で確定的と考えられているが、しかし知識と常識との間に一線を画すことはむずかしい。常識の純化によって生じた知識もあるし、逆に科学的知識で、しかもかなり高度のものが常識化される場合も多いからである。

 知識はまた知恵から区別されることがある。科学的知識に代表されるようないわゆる理論的知識は、いくら集積されても、人生いかに生きるかの解答を与えない。解答を与えるのは知識ではなく、知恵であるとされる。しかしこの見方においても、知識と知恵の区別はそれほど明確ではない。いわゆる「生活の知恵」を得るには常識をも含めた多くの知識が必要であろうし、倫理的に生きようとする人間も、独善的にならないためには、哲人の書いた書物などから多くの知識を学ぶ必要があろう。ちなみに仏教では「知識」はむしろ知恵のことであり、仏道に通じた知恵ある人物も「知識」とよばれる。

 西洋では、知識はしばしば信仰から区別される。その場合、知識はギリシア的な理性的知識を原型とし、信仰はヘブライ的な宗教的信仰を原型とするが、しかし西洋思想はこの両者が互いに入り組んで成り立っているのであるから、ここでも知識と信仰の領域を明確に区別することは困難である。たとえばキリスト教の教義や神学は、信仰に根ざしているが、それ自身はまた知識とみられるからである。

 かりに一つの定義として、およそ世界内において人間に知られるいっさいを知識とよぶならば、そのなかには常識も知恵も宗教の教えも含まれるであろう。迷信的な占いや予言でも、人間に知られたものとしては知識である。しかし、もし人間にとって世界内に現象する事柄の知識がすべてではなく、人間がよりよく生きるためには別のものが、たとえそれがなんであれ、世界と世界の知識を超えたものが、必要であると考えるなら、そこで初めて世界内の知識の意義と限界が明らかになり、それとともに知識とは異なった知恵なり信仰の所産が、知識に対立するものとして、改めて確認されることになろう。

[宇都宮芳明]

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図書館情報学用語辞典 第5版 「知識」の解説

知識

経験や教育によって得られ,判断の際の基盤となるもの.哲学における認識論とは異なり,図書館情報学では,メディアを通じて蓄積,伝達される,組織や社会が共有する知識を議論の対象としてきたが,情報学では,科学的知識,ポラニー(Michael Polanyi 1891-1976)の暗黙知,ポパー(Sir Karl Raimund Popper 1902-1994)の客観的知識などを取り込もうとしている.情報との関連に関して,一般化や形式化の進んだ情報,構造が複雑な情報を知識とみなしたり,流れるのが情報で蓄積されるのが知識とするなどの考え方がある.一方では,知識と情報を同一視したり,認知機構の内部か外部かで区別する場合もある.情報処理の領域では,コンピュータに知識を扱わせようとする知識工学があり,情報検索に影響を与えた.

出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報

普及版 字通 「知識」の読み・字形・画数・意味

【知識】ちしき

智識。〔漢学師承記、六、紀〕少(わか)くして奇穎。書を讀み、目を(よぎ)ればれず。夜、室のに坐するに、二目爍爍(しやくしやく)として電光の如し。~知漸く開くに比(およ)び、光ち斂(をさ)まれり。

字通「知」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「知識」の意味・わかりやすい解説

知識
ちしき
knowledge

広義には「知る」といわれる人間のすべての活動と,特にその内容をいい,狭義には原因の把握に基づく確実な認識をいう。ある特定の主体についてのこのような知識がさらに概念的に規定され,論理的,体系的に組織されたものが学問である。知識の正しさへの反省,批判,真理性の規準への探究は哲学の中心問題の一つであり,存在と認識との関係などをめぐって観念論,実在論など多くの議論がある。社会学の分野では,知識社会学が知識を社会的機能の面からとらえる試みがなされている。

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世界大百科事典(旧版)内の知識の言及

【科学】より

…元来は英語(もしくはフランス語)のscienceの訳語として19世紀末に日本で造られた単語であり,その後中国にも輸入された。scienceとは本来ラテン語のscientiaつまり〈知識〉全般を指す言葉から生まれたものと解される。ヨーロッパ語としてはフランス語に取り入れられたのが早く,17世紀初期に英語としても定着した。…

【善知識】より

…知識というのは知合い,友だちの意味。善友ともいう。…

【論理学】より

…論理についての科学。われわれは論理をごくおおまかに,人間の思考の筋道,あるいは思考の成果としての知識の構造と特徴づけることができる。
[思考・知識]
 われわれがものを〈考える〉とき,われわれは思考に先立ち存立する世界を対象とし,そこにはかくかくの事態がなりたつという判断をくだす。…

※「知識」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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