改訂新版 世界大百科事典 「二重経済」の意味・わかりやすい解説
二重経済 (にじゅうけいざい)
dual economy
非西欧経済が近代部門と非近代部門という二つの異質な部分から構成されていることを示すために用いられる言葉。二重経済論を最初に提唱したのはブーケJulius H.Boekeである。彼は,輸入された西欧資本主義が農業社会に浸透しながらも,後者の制度を破壊せずにいるところに二重経済を見いだした。その後,二重経済論は,シンガーH.SingerやヒギンズB.Higginsなどの技術的二重構造論と,ルイスW.A.Lewisなどの経済的二重構造論に分かれた。技術的二重構造論では,近代部門は西欧技術を,そして在来部門は農業や中小企業の伝統技術を用いるが,両者の間には労働資本比率,労働生産性,賃金などで大きな格差が存在するものとされる。他方,経済的二重構造論では,資本主義的な近代部門に対して,労働力供給のプールとなる伝統部門が存在するものとされる。この種の二重構造論では農村人口の生産への貢献は小さいが,賃金の上での格差は必ずしも存在しない。
なおdual economyの訳語として〈二重構造〉という語が使われることもあるが,一般には,二重構造は,日本経済における近代的大企業と中小零細企業が併存する構造的特質を表す言葉として用いられる。また混合経済mixed economyの意味に二重経済を用いることもまれにある。
執筆者:安場 保吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報