二重経済dual economyともいい、広義には、資本主義的市場経済と社会主義的計画経済の混合(資本主義市場経済の部分的計画化、社会主義計画経済への部分的な市場経済導入)を含めるが、狭義かつ一般的には、資本主義の市場経済組織を基本としつつも、民間部門の経済活動が公共部門の経済活動によって補完され、国民経済のなかで財政や公営・国営企業などの公共部門の占める割合が増大している経済状態をいう。第二次世界大戦後の先進資本主義国は、ケインズ政策の導入により混合経済の状態にある。
資本主義経済の成立期以来理想とされてきた自由放任主義では、民間の経済主体の自由な経済活動を保証すれば、自由競争市場における価格の機能によって、資源の効率的利用と国民の経済的厚生が自然に達成されうるものと期待され、政府の役割は国防や司法などに限定し、経済活動への介入は極力回避すべきものとされていた。しかし、20世紀に入り、市場が寡占化され価格の機能が不完全になるとともに、所得配分の不平等や大量の失業、さらに資源利用の非効率化などの問題が深刻化してきた。とくに1929年の大恐慌は、自由放任体制のままでは資本主義がこれらの矛盾を自律的に解決しえないことを示したのである。
こうした事態を背景に、これらの矛盾の解決には、政府の経済活動への積極的介入が必要であるとするケインズ経済学の主張が受け入れられ、アメリカのニューディール政策によってそれが試行された。第二次世界大戦後には、先進資本主義国でケインズ政策が一般的に採用され、国家財政による公共投資など有効需要の創出によって完全雇用を達成し、累進制の租税制度と社会保障制度(社会保険、公的扶助、社会福祉)を通じた所得の再配分によって所得の不平等の是正を実行しようとした結果、国民経済に占める公共部門の比重が増大した。さらに、費用負担をしない者の利用を排除できない公共財(治安、消防等)の提供、大規模固定資本投資を必要とする費用逓減(ていげん)事業の国営・公営化、公害対策等の市場で負担されない費用の公共部門への転嫁など、いわゆる「市場の失敗」による政府支出の拡大によって、「大きな政府」といわれるほどに、政府の財政支出や経済活動における公共部門の比重が膨張した。その結果、第一次オイル・ショック後に、景気の停滞とインフレーションが同時におこるスタグフレーションが発生し、財政危機にみまわれた先進諸国では、1980年代に入り、財政支出の縮小、公的事業の民営化、政府による各種規制の緩和や撤廃などが実施され、「小さな政府」の実現が図られている。
[佐々木秀太]
現在の先進資本主義国は,共産主義国の計画経済に対し,市場機構に頼る市場経済が中心となっている。市場経済においては,家計・企業などがそれぞれの経済的利益を追求して,市場経済全体は計画的ではなく,分権的に運営されることとなる。しかし,経済社会全体がすべて市場経済によっておおわれてしまうことは考えにくい。市場経済は制度的には,契約の履行,社会の安全・治安などが保障されていないと存続しえない。公共部門は最低限これらの市場経済の制度的な環境を維持しなければならない。現実の公共部門は,このような最低限の役割を超えて,多種多様な領域において活動を行っている。社会的間接資本(社会資本)への公共投資,社会保障,各種の規制,経済安定のためのフィスカル・ポリシー,公企業などがそれである。このように市場経済と併存しながら,公共部門が拡大しつつある状況を念頭において,民間部門と公共部門との混合という意味で,〈混合経済〉という用語が使われるようになった。民間部門は分権的な仕方で活動しており,他方,公共部門は集権的な仕方で活動していて,両者の行動原理は基本的に異なっている。市場経済において,どの程度まで公共部門がその活動を拡大しても悪影響が生じないかは問題であるが,現在の先進資本主義経済において公共部門の役割が急速に低下するとは考えにくく,混合経済でありつづけるであろう。
執筆者:貝塚 啓明
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…こうした雇用と購買力の維持,物価安定,国際収支の均衡維持のために政府の積極的な活動は不可欠とされるようになったのである。戦後のこのような経済体制の変化は一言でいえば,資本主義市場経済から混合経済への移行といえるかもしれない。 1950年代は,戦後の耐乏生活と統制経済の時代が過ぎて,大部分のイギリス人にとっては繁栄の時代であり,楽観的ムードの支配した時代であった。…
…現代の多くの企業では,資本の形式上の所有者は経営から切り離された個々の株主であり,これを企業に対する通常の意味での所有者とはみなしがたいのである。第2に,確かに近代社会は私的所有を原則とするが,私的経済主体のみからなる純粋な競争的市場というものは,理念上はともかく現実上はありえず,いかなる資本主義社会にあっても,福祉的理念や国家権力に基づいて国家が経済的活動へ介入する,いわゆる〈混合経済〉であった。混合経済のもとでは,私的個人による私的所有と公共機関による公的所有(社会的所有)が並存しまた拮抗することになる。…
…福祉国家がしばしば半社会主義体制と半資本主義体制ないし半自由主義体制との混合体制とみなされているのはこのためである。福祉国家の経済的側面に注目してこれを混合経済mixed economyと呼んでいる理由も,このことから明らかであろう。
[福祉国家の理念]
福祉国家の基底にある理念もまた,ある特定の哲学に基づいて形成されたものではなく,時代を異にして生まれた幾多の思想や哲学に起源を発し,それらが結合され融合されて今日にいたったものである。…
…資本主義国の多くにみられる単なる経済予測のシステムにとどまるものではなく,〈積極的計画〉である点が,フランス流計画化の特色となった。この国有化と計画化とを主たる政策手段にする公的部門の肥大化により,戦後のフランスは,典型的な混合経済économie mixteの国となり,また官僚による政治経済の全面的コントロール,というディリジスムdirigisme(国家主導主義)の伝統がいっそう強まることになった。(2)高度成長期(1958‐73) 1958年にEEC(ヨーロッパ経済共同体)が成立した。…
※「混合経済」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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