大規模な組織をもち,財の大量供給を行う企業。現代においては,大企業はたんに相対的に規模が大きいというだけでなく,寡占企業や企業集団の形成というイメージを離れては論ずることはできない。実際,大企業は強い資金力と市場支配力をもち,消費のあり方や環境保全をある程度左右することができ,産業社会において強い影響力をもっている。こうした大企業の経営的特徴としては,つぎの諸点があげられる。(1)〈所有と経営の分離〉がなされ,組織的な運営が支配的であり,その運営においては専門的経営者とテクノストラクチャーtechnostructureが重要な役割を果たしている。(2)大規模な固定投資を行い,それが参入障壁となるから多かれ少なかれ価格を管理し,市場において一定のシェアを維持している。(3)多くの機能を外部化して企業系列を形成するとともに,多部門展開を行ったり,異業種企業が人的・資本的に密接な関連をもつ企業集団を形成する。しかも今日では,大企業の国際化が進み,多国籍企業も登場している。
大企業は大量生産工業の展開とともに生成・発展してきた。株式会社制度と株式市場の発展が大企業の成長を容易にした。そして,重化学工業化が進展する過程で大企業は飛躍的に成長し,企業規模はますます巨大化してきた。大企業は鉱業や工業においてまず成立し,ついで流通・サービス業にも登場するにいたった。こうした大企業の発展は製品1単位当りの生産・流通コストを押し下げ,一般大衆の生活水準の向上に寄与してきた。しかし1970年代に入ると,先進諸国において寡占の弊害,公害問題,欠陥商品問題などがいっせいにクローズアップされ,大企業批判が噴出した。感情的な大企業性悪説は別として,大企業の社会的責任が問われるようになった。それだけ,大企業の社会的影響力が大きくなったのである。これに対して大企業の側にも,パブリック・アフェアーズを的確に処理しようとする努力がようやく始まっている。環境問題への配慮など社会的責任を果たさなければ利潤をあげることが困難になっているということが認識されだしたのである。ところで,それまでの重化学工業化が成熟段階に達するに及んで,先進工業諸国において素材産業など一部の大企業分野は構造不況産業となり,経営の悪化が進んでいる。他方,研究開発集約型の産業が比較優位産業となり,研究開発の重要性がますます強まっている。しかし歴史の古い大企業においては,総じて組織が硬直化しているため,問題解決が容易ではないし,創造的な活動を展開することが困難になっている。大企業のみが革新の担い手であるとするJ.A.シュンペーターおよびJ.K.ガルブレースの仮説は,いまや妥当ではなくなりつつある。産業構造の転換とともに,大企業部門においても企業間格差が拡大し,没落する大企業が出はじめている。
なお大企業のなかでも,とくに資本金,売上高,従業員数,付加価値額などの規模が大きく,生産技術,マーケティングなどの面で優れた経営資源を有し,当該産業において排他的な市場支配力をもつものを,ビッグ・ビジネスbig business(巨大企業)という。ビッグ・ビジネスは19世紀後半にアメリカで最初に生まれ,発展してきたが,その過程で少数者の手に経済的・社会的権力が集中して種々の弊害も発生したため,シャーマン法(1890制定,アメリカ)を嚆矢(こうし)として,各国で独占禁止に関する法律が制定された。ビッグ・ビジネスのほうもこうした動きに対し,コングロマリット化や多国籍化で対応している。現代の代表的ビッグ・ビジネスとしてはIBM社やゼネラル・モーターズ社などがあげられる。
執筆者:清成 忠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
巨額の資本をもち、多数の従業員を雇用する大規模企業のこと。そのほとんどは株式会社である。大企業の問題性は、単にその量的な巨大性にあるのではなく、それが量的規模に比例する以上に特別な経済的・社会的影響力をもつことにある。このような問題は第二次世界大戦後に強く指摘されるようになった。それは、内容的には経済競争上の問題と社会的責任の問題に大別されるが、これらは表裏の関係にある。
大企業が競争上優位にたつことは、規模の経済論として古くから論じられてきた。巨大な資本力は、高度な技術と最新の大規模生産設備の採用を可能にし、これらによる大規模生産は、生産性を向上させ、単位生産コストを引き下げて、強い競争力の源泉になるというのがこの説である。かくて企業は大企業化を目ざして激烈に競争し、競争に生き残った大企業は、寡占から独占へと向かう傾向を生む。このような段階に至ると、競争は制限ないし排除され、進歩の原動力として機能しなくなる。こうした事情を背景にして、一方では規模の優位性を発揮させつつ、他方では競争の利点を持続させることを意図した大企業寡占論が生まれる。そこでは、独占は排除されるが、寡占は是認される。しかし、この論議は、大企業による競争の実質的支配、とくにその中心手段となる管理価格の作用に目が及んでいない。このような批判のなかから、有効競争を確保するための他律的規制と、自らの経済力の社会性・公共性・公益性を自覚する自律的行動が説かれるようになる。前者の典型が強力な公正取引行政であり、後者が社会的責任論である。
しかし、1970年代以降、これらとは別の要因が大企業の行動に揺さぶりをかけるようになった。それは、市場の多様化、物離れ、サービス化による大規模生産の優位の後退、ベンチャー・ビジネスによる技術開発力の優位の証明などである。
[森本三男]
…大企業と区別して中企業と小企業とを一括する用語。小企業に含まれる零細企業については,それを含めることを明確にするため中小零細企業といった表現が使われることがあるし,また場合によっては中小企業から除外して考えることもある。…
※「大企業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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