人間知性論(読み)にんげんちせいろん(その他表記)An Essay Concerning Human Understanding

改訂新版 世界大百科事典 「人間知性論」の意味・わかりやすい解説

人間知性論 (にんげんちせいろん)
An Essay Concerning Human Understanding

17世紀のイギリスを代表する思想家ロック主著。1689年刊。従来《人間悟性論》と訳されてきたが,〈悟性〉がカント的な意味で〈感性〉および〈理性〉との範疇(はんちゆう)的な区別を想起させること,ロックがunderstandingに相当するラテン語としてintellectusを予定していたことを根拠に,最近では《人間知性論》と訳されることが多い。知識の起源を〈経験〉に求めつつ人間の認識メカニズムを内観した本書は,経験論を定式化した作品として,またカント的批判哲学先駆として哲学史上に重要な位置を占めている。しかし,本書の直接的意図が,自然科学の認識論的基礎づけにあったか,道徳啓示宗教とのための予備学を確立することにあったかについては,思想史家の評価はなお一致していない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「人間知性論」の意味・わかりやすい解説

人間知性論
にんげんちせいろん
An Essay Concerning Human Understanding

イギリスの哲学者ロックの哲学的主著。1690年刊。全四巻。知識の起源、確実性、範囲を自覚的に主題としたことによって近代認識論の源泉となる。第一巻では知識の生得性を否定。第二巻では、知識の構成要素である観念の源泉を経験に求め、イギリス経験論の出発点をつくった。ここからデカルトの先天的方法とスコラの実体概念が批判された。第三巻では、ことばの分析を通して、実在的本質と唯名的本質が区別され、種の本質は唯名的本質にすぎぬとしてスコラの実体的形相を批判する。第四巻では、知識を観念の一致・不一致に求め、直覚的・論証的知識のみが絶対確実性をもつが、その範囲は狭く、物体に関する知識は蓋然(がいぜん)的にとどまるとした。道徳論では快楽説をとるが、論証的道徳の構想も抱いていた。

[小池英光]

『大槻春彦訳『人間知性論』全二冊(岩波文庫)』

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世界大百科事典(旧版)内の人間知性論の言及

【社会科学】より

…イギリスのロック,ヒュームに始まる経験論,フランスのサン・シモン,コントに始まる実証主義,これらの流れの中に社会科学の源流があった。 ロックの《人間知性論》は,人間の悟性的能力がすべて経験によって習得されたものであって,なんら生得的な能力によるものではないということを論証することを主題としたが,このことはまた,人間の社会生活における道徳的・実践的原理がなんらかのア・プリオリな超越的根拠から出てきたものでなく,人びとが経験を通じてお互いの利益になるように取り決めたものだという,《統治二論》の主題たる近代民主主義のテーゼとつながる。モンテスキューの《法の精神》は,この同じ問題を法思想・法制度の面から根拠づけた。…

※「人間知性論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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