改訂新版 世界大百科事典 「人間知性論」の意味・わかりやすい解説
人間知性論 (にんげんちせいろん)
An Essay Concerning Human Understanding
17世紀のイギリスを代表する思想家ロックの主著。1689年刊。従来《人間悟性論》と訳されてきたが,〈悟性〉がカント的な意味で〈感性〉および〈理性〉との範疇(はんちゆう)的な区別を想起させること,ロックがunderstandingに相当するラテン語としてintellectusを予定していたことを根拠に,最近では《人間知性論》と訳されることが多い。知識の起源を〈経験〉に求めつつ人間の認識メカニズムを内観した本書は,経験論を定式化した作品として,またカント的批判哲学の先駆として哲学史上に重要な位置を占めている。しかし,本書の直接的意図が,自然科学の認識論的基礎づけにあったか,道徳と啓示宗教とのための予備学を確立することにあったかについては,思想史家の評価はなお一致していない。
執筆者:加藤 節
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報