日本大百科全書(ニッポニカ) 「介護難民」の意味・わかりやすい解説
介護難民
かいごなんみん
介護を必要としているにもかかわらず、必要なサービスが受けられない高齢者。厚生労働省の「介護保険事業状況報告」によると、介護サービス受給者数(1か月平均)は2004年(平成16)に317万人であったが、2013年には482万人に増加した。また、同省の「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」によると、2014年の入所申込者は約52万4000人で、そのうち入所の必要性が高い要介護4~5のレベルであるにもかかわらず、入所できていない人の数は約8万7000人に及ぶ。高齢化が急進する状況に対して、社会保障費や介護サービス事業の従事者、病院のベッド数などの不足は深刻な状況に陥りつつある。介護労働安定センターが行った「介護労働実態調査」(平成21~25年度)によると、介護職員の過不足状況について「大いに不足」または「不足」と回答した施設が4分の1を超えている(2013年度)。このように、国の施策が追いついていない状況が常態化しつつあり、今後、介護難民をどのようにして減らしていくかが、大きな社会的課題となっている。
こうした状況のなか、民間の有識者会議である日本創成会議は2015年6月、団塊の世代の人すべてが75歳以上の後期高齢者になる2025年には、全国で43万人あまりが介護難民になるという分析結果を発表した。とくに東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県に多く、その数は全国すべての後期高齢者の約3割にあたる、およそ13万人に上ると予測している。また、日本創成会議は東京圏で医療や介護施設、介護分野における人材不足を補うことはむずかしいとし、空き家を活用して医療や介護拠点整備を進めることや、不足する介護の担い手として介護ロボットの活用や外国人の受け入れを促進することなどを盛り込んだ東京圏高齢化危機回避戦略を発表した。このなかでは、医療・介護施設などに余裕がある地方都市への高齢者の移住促進を強調しており、独自の算定によって選んだ全国41圏域が公表され、東京圏から地方へ高齢者の誘導を促す提言が論議をよんだ。実際に東京圏の高齢者に移り住んでもらおうと、東京都杉並区と静岡県南伊豆(いず)町との間で特別養護老人ホームをつくることで合意を交わした事例もある。
[編集部]