日本大百科全書(ニッポニカ) 「仕向地条項」の意味・わかりやすい解説
仕向地条項
しむけちじょうこう
destination clause
液化天然ガス(LNG)の国際売買契約で、購入者から第三者への転売を制限する条項。LNG輸入船が入港する仕向港として、一定の範囲の受入基地を指定するため、こうよばれる。民間企業どうしの契約条項であるが、事実上、購入国から第三国への再販売を禁止する意味をもつ。LNG産出国・企業にとっては、消費国向けの輸出量や価格をコントロールできる利点があるが、需給にあわせた自由な国際取引や価格形成を妨げる欠点がある。ヨーロッパではヨーロッパ委員会が仕向地条項を禁止するなど、仕向地条項の撤廃が世界的潮流となった。日本政府はたびたび仕向地条項の緩和・撤廃を閣議決定し、公正取引委員会は2017年(平成29)に独占禁止法上問題があるとしたが、依然、日本のLNG輸入契約には多くの仕向地条項が残っている。
1980年代の初期LNG開発プロジェクトには、巨額投資や専用船による往復輸送が必要であったため、産出国・企業は長期安定的な需要家を確保する目的で、輸出先企業と20年程度の長期契約を結んだうえ、仕向地条項を盛り込む慣習があった。とくに日本や韓国の電力・ガス会社の中東などからのほとんどの輸入契約には、仕向地条項が入っていた。しかし2010年代以降、東アジアでの需要増、ユーラシア大陸でのパイプライン網整備、北アメリカでのシェールガス開発、原子力発電所事故やロシアによるウクライナ侵攻などによって、北アメリカ、アジア、ヨーロッパといった地域ごとの需給バランスが崩れ、LNGが国際商品であるにもかかわらず地域間価格差が生じた。ヨーロッパでは2000年以降、ヨーロッパ委員会が仕向地条項の撤廃を働きかけ、アメリカもシェールガス輸出に仕向地条項を入れない契約を進めた。日本政府は産出・消費国会議などで撤廃を働きかけているが、エネルギー・金属鉱物資源機構の2021年(令和3)調査では、同年時点で日本のLNG輸入契約数量の53%に仕向地条項が残っていた。
[編集部 2023年11月17日]