改訂新版 世界大百科事典 「代官頭」の意味・わかりやすい解説
代官頭 (だいかんがしら)
江戸初期の関東領国支配の中心であった有力な大代官の呼称。一般に三河譜代の伊奈忠次(備前守),武田旧臣の大久保長安(石見守),今川旧臣の彦坂元正,長谷川長綱らの有力な地方巧者(じかたこうしや)をいう。彼らは1590年(天正18)関東入国以前から検地や給人知行を担当したが,入国以後は徳川家康の側近グループの一翼となり,幕政に参画しながら代官,手代を指揮して地方行政を実施した。とくに在村の陣屋を中心に個別支配を行うとともに,多くの連署による発給文書から代官頭は関東全域の支配に当たっていたことがわかる。独自の仕法による検地・灌漑・治水による経済基盤の拡充,東海道をはじめとする交通政策の確立,鉱山開発,都市の建設など,幕府財政の基礎固めの多くの事績を残したが,1604年(慶長9)長谷川長綱が病死,06年彦坂元正が失脚,13年大久保長安の死後に一族,家臣が誅罰をうけた事件などにより,関東郡代を世襲した伊奈忠次の系譜以外は慶長年間にすべて消滅した。その広大な支配地は配下の代官,手代に分轄されたが,これは封建官僚化の促進によって,巨大な在地の支配権をもった大代官クラスの後退を示すものであった。
執筆者:村上 直
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