代議政体論(読み)だいぎせいたいろん(英語表記)Consideration on Representative Government

日本大百科全書(ニッポニカ) 「代議政体論」の意味・わかりやすい解説

代議政体論
だいぎせいたいろん
Consideration on Representative Government

イギリスの思想家J・S・ミルの著作。1861年刊。当時のイギリスの政治構造を実証的に分析した最初の包括的研究。ミルは、最良の政治形態は代議制であるとしながらも、さまざまな問題点を指摘し改良案を提起している。まず、代議制における多数決の採用が多数者の暴政に陥る危険性について警告し、少数者の意見が政治に正しく反映できるものとして比例代表制の採用に賛成している。また、選挙権については原則的に男女平等の普通選挙権を主張しているが、知性の優れた人々には複数投票権を与えることを提案している。これは労働者階級の政治的進出に対する警戒心の現れともいえるが、67年に都市労働者にも選挙権が与えられるや、社会主義研究の必要性を説いている点に、彼の過渡期の思想家としての地位がうかがわれる。また、ある法律が制定されるべきことを議決する機能と、それを制定する機能とを区別することを提案し、前者については議会が、後者については高度の政治的教養を有する少数人士よりなる法制委員会のようなものが将来必要になるだろうと述べている。このことは、19世紀後半に入り、夜警国家から福祉行政国家への転換を感じ取っていたものとして注目される。

田中 浩]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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