まったく異なる二様の国家類型を意味する。第1の概念は元来英米系の用語で,今日では主として行政学ないし政治学一般の世界で使用されており,立法国家の対概念となっている。第2の概念はフランス,ドイツなど大陸系の用語で,主として行政法学ないし法学一般の世界で使用されており,司法国家の対概念となっている。
(1)絶対君主との抗争に勝利し,議会主権を確立した国々では,議会が文字どおり国権の最高機関であり,内閣は議会の委員会にすぎず,官僚制も政党政治の支配下におかれていた。このような近代的民主制の国家を,政治権力の中枢が立法権ないし立法府にあるという点に着眼して立法国家と呼ぶ。ところが19世紀後半以降,これらの国々でも行政職能が量的に膨張し質的に変化して,官僚の専門能力を再強化せざるをえなくなった。重要事項が行政立法にゆだねられ,実質的な決定が行政裁量となっただけではなく,法案の立案・提案まで議会は行政機関に依存するようになり,行政機関を統轄する内閣ないし大統領の権能が強まった。こうして,立法権に対して行政権が優越化し,議会支配から内閣支配ないし大統領指導へと移行した段階の現代国家のことを行政国家と呼ぶ。
(2)行政権を普通の司法裁判所の管轄下に服させてきたイギリス,アメリカなどを司法国家と呼ぶのに対し,一般私法と異なる特殊な行政法の体系を発達させたフランス,ドイツなどのことを行政国家と呼ぶ。これらの国では,行政権を司法権の干渉から解放するために,行政争訟を行政府内に設けられた特別の行政裁判所の管轄下におくなど,行政権の地位を特別に保障する制度を認めている。議会主権が貫徹した近代民主制を体験したことがなく,行政権の優越が一貫していた日本は,行政学的な意味では明治以来今日まで行政国家であり続けてきたといえる。だが,行政法学的な意味でみれば,明治憲法下の日本は行政国家であったが,新憲法下の日本は司法国家への転換をめざしているともいえる。
執筆者:西尾 勝
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立法府である議会、司法府である裁判所に対して、行政府が相対的な優越性をもつ国家類型。立法国家、司法国家に対比して用いられる概念である。
類型的に理解された19世紀段階の国家の役割は、市民社会の自律的運行の秩序を外在的に保障するものとして、しかも、そこでの国家統治の重心は立法機能にあり、行政機能は必要最小限にとどまるべきであると考えられていた。消極国家、夜警国家、立法国家などと称されるゆえんである。しかし、その後の資本主義社会の諸矛盾、たとえば不況、失業、生活困窮などの社会問題の発生は、市民社会に対する国家の積極的介入を必然的なものとし、20世紀段階の現代国家においては、国家機能、とりわけ行政機能の拡大・強化の現象が顕著となった。現代行政は、国民生活と広範かつ密接に関係し、また、行政計画、委任立法、通達、行政裁量、行政指導等による行政の増大、行政官僚制の発達、および他方における議会の立法機能の弱体化・形骸(けいがい)化などにより、行政府は国家政策の形成・決定において実質上中心的な地位を占めるに至った。このような行政権優位の現象がみられる現代国家を、政治学的・行政学的には行政国家と性格づけることができる。
法律学上の概念としての行政国家とは、私法とは異質の、行政に特殊固有の法の体系としての行政法をもち、行政に係る争訟に通常の司法裁判所の管轄を排除する特別な行政裁判所制度をもっている国家をいう。その具体的形態は、時代により国により異なるところがあるが、ドイツ、フランスなどがその例である。
わが国の現行憲法は、かつての行政裁判所制度を廃止し、行政訴訟事件も通常の司法裁判所に係属することとしたので、戦後日本は、法律学的意味においては、行政国家から司法国家に転換したといえる。しかし、政治学的意味における行政国家化の現象も顕著である。
[三橋良士明]
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…そして,国家が財産権の主体として行動する場合はともかく,公権力の主体として行動する場合は,原則としてそれをめぐる紛争は行政裁判所の管轄とされることによって,行政法の独自の法体系が認識されるようになり,フランスの行政法・行政法学を範としつつも,公権力行政を中心とするドイツ的な行政法・行政法学が19世紀末葉に確立した。このような行政制度をもつ国を,従来,行政国家Verwaltungsstaat(ドイツ語),pays à régime administratif(フランス語)とよんできたが,このような行政制度と結びついた行政法がとくにヨーロッパ大陸の諸国で成立・展開したところから,これらの行政法を大陸型行政法ともよぶ。
[英米]
これに対し,イギリスやイギリス法の伝統を継受したアメリカでは,いわゆる行政制度が成立しなかったため,長い間,大陸型行政法の意味における行政法の成立・展開には,むしろ不信の念が支配していた。…
…そして,国家が財産権の主体として行動する場合はともかく,公権力の主体として行動する場合は,原則としてそれをめぐる紛争は行政裁判所の管轄とされることによって,行政法の独自の法体系が認識されるようになり,フランスの行政法・行政法学を範としつつも,公権力行政を中心とするドイツ的な行政法・行政法学が19世紀末葉に確立した。このような行政制度をもつ国を,従来,行政国家Verwaltungsstaat(ドイツ語),pays à régime administratif(フランス語)とよんできたが,このような行政制度と結びついた行政法がとくにヨーロッパ大陸の諸国で成立・展開したところから,これらの行政法を大陸型行政法ともよぶ。
[英米]
これに対し,イギリスやイギリス法の伝統を継受したアメリカでは,いわゆる行政制度が成立しなかったため,長い間,大陸型行政法の意味における行政法の成立・展開には,むしろ不信の念が支配していた。…
…イギリスでは,このような変化が,〈議会政治から内閣政治へ,そして内閣政治から首相政治へ〉と表現されるが,一般的にはこの種の変化を指して行政権の優越化と呼んでいる。これが行政国家である。近代民主制から現代民主制への移行は静かな漸進的な過程であったが,現代国家は市民革命後の近代国家とは質的に異なるのである。…
…そして,国家が財産権の主体として行動する場合はともかく,公権力の主体として行動する場合は,原則としてそれをめぐる紛争は行政裁判所の管轄とされることによって,行政法の独自の法体系が認識されるようになり,フランスの行政法・行政法学を範としつつも,公権力行政を中心とするドイツ的な行政法・行政法学が19世紀末葉に確立した。このような行政制度をもつ国を,従来,行政国家Verwaltungsstaat(ドイツ語),pays à régime administratif(フランス語)とよんできたが,このような行政制度と結びついた行政法がとくにヨーロッパ大陸の諸国で成立・展開したところから,これらの行政法を大陸型行政法ともよぶ。
[英米]
これに対し,イギリスやイギリス法の伝統を継受したアメリカでは,いわゆる行政制度が成立しなかったため,長い間,大陸型行政法の意味における行政法の成立・展開には,むしろ不信の念が支配していた。…
…それゆえ,近代憲法のもとでの権力分立は,議会による立法権の掌握と,議会制定法による行政・司法両権の拘束を核心とする,多かれ少なかれ議会優位型の形態をとっていた(立法国家)が,その後,現代においては,さまざまの変容をこうむるようになっている。行政権についていえば,一方で,君主ではなく,国民意思による権威づけを与えられた行政府首長が重要な役割を演ずることによって,議会による民意の独占が破られ,他方で,そもそも民意のとどき難い官僚制部門が強大化し(行政国家),裁判所に関しては違憲審査制の役割が大きくなり,少なくとも裁判過程の法創造性が強まる(裁判国家)。そのうえ,国家すなわち政治権力だけでなく,さまざまの社会的権力が,〈権力〉分立の問題のなかに登場してくることになる。…
…こうして,あらゆる現代国家は,単なる政治体制の相違をこえて,福祉国家に移行する必然的な傾向をもっているのである。
[行政国家]
夜警国家から福祉国家への転換は,国家機能の著しい増大を伴うものであった。たとえば,労働者の発言権の増大とともに,失業や貧困も国家によって救済されるべきであるとする要求が強まり,失業救済や社会保障も国家の重要な任務となるにいたった。…
※「行政国家」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
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