国家の機能は,外敵からの防御,国内の治安維持など,必要最小限の公共事業にあるとする国家観。ドイツの国家社会主義者F.ラサールが,ブルジョア的私有財産の番人,夜中のガードマンになぞらえて自由主義国家を批判したことに由来する。福祉国家,行政国家に対置される概念である。夜警国家は,自由放任主義のもとに成立する国家観であり,その前提には〈教養と財産〉のある自律した市民の存在があった。政治はこれら市民の同質性にもとづく定見と良識のもとになされるものとされた。したがって,市民の安全と社会の秩序を維持するための最小限のこととして,社会での約束事=法律の制定が重要となった。ここで国家に求められることは,制定された法律を執行することではなく,いかなる法律を制定するかにあった。すなわち,国家機関のなかで立法部が中心的地位を占めていたのである。このことから〈立法国家〉ともいわれる。
→国家
執筆者:田中 浩
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17世紀中葉から19世紀中葉にかけての資本主義国家の国家観。個人が自由にその経済活動を行えるように、国家の機能は、外敵の防御、国内の治安維持、必要最小限の公共事業にとどめるべし、という国家観。この国家観では、経済的には自由放任主義、財政的には「安価な政府」つまり「最良の政治(政府)は最小の政治(政府)」がよしとされる。夜警国家ということばは、ドイツの国家社会主義者ラッサールが、自由主義国家をブルジョア的私有財産の番人・夜警として批判したことに由来する。19世紀末以降、各国において社会・労働問題が顕在化すると、これらの問題を解決するために国家は積極的に社会・労働・経済政策に取り組むべしという福祉国家・社会国家・行政国家の考えが登場した。
[田中 浩]
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…しかし国民主権が確立されることによって,国民的自覚(そのイデオロギー的表現が国民主義にほかならない)を備えた国民国家が成立することになったのである。
[夜警国家]
近代国民国家は,まず市民社会を基盤として成立するが,この時期の近代国家の特徴は,夜警国家であり,立法国家であることに求められよう。夜警国家は,自由放任主義の下で国家の機能を最小限にとどめようとするものであった。…
…すなわち市民社会の内部では市民は自己の所有物について絶対的処分権をもち自由に商品として取引交換することができ,そこに生じうる損害は自己に故意または過失ある場合にのみ損害賠償責任を負う。そして国家はこの場合,市民社会の外にあって,市民社会の自律的な交換秩序の外的な保障者としてのみ存在する(いわゆる夜警国家)。ところが19世紀以降,このような〈市民社会秩序〉は現実には市民相互の間での実質的不平等と貧富の差の拡大をもたらし,また労働者等の経済的弱者の実質的不自由の増大を生ぜしめるに至った。…
…福祉国家とは,このような理念に基づき,国民全体の福祉向上のために,政府がより積極的な役割を果たしている体制を備えている国家をいうのである。このため福祉国家は,すべての財貨・サービスが市場を通じて自由に交換され,生産能力に応じて分配されて政府の役割を最小限度に制約している自由放任型の夜警国家と異なっているばかりでなく,財貨・サービスの生産や分配に積極的に政府が介入しているが,市民的自由を大幅に制限している全体主義的な独裁型の警察国家ともその本質を異にしている。政治的・社会的自由と民主主義は福祉国家の不可欠の要素である。…
※「夜警国家」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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