改訂新版 世界大百科事典 「保留剤」の意味・わかりやすい解説
保留剤 (ほりゅうざい)
fixative
香料調合のさいに成分の揮発性を落とし,香調のバランスをくずさぬように助剤として添加するもの。保香剤ともいう。調合香料は10種以上の香料成分で構成するが,各成分の揮発性が異なるため,放置すると揮発性の高いものほど先に蒸発し,香料の調合組成がくずれ,経時的に香調が変化する。このための保留剤としては,沸点が高く,分子量は小さく,したがって蒸気圧の小さいものを用いるが,特定の香料の保留には,それと水素結合を形成するなどの分子間力の強いものが有効である。また各成分に対して溶解性の高いものが選ばれる。調合香料の骨格をなす基礎剤(ベース)に対し,香調を補うために基礎剤と同系統の香り成分である調和剤(ブレンダー)や,別系統の変調剤(モディファイアー)を少量添加することが多いが,保留剤でこれらの効果をもたらすものはさらに好適である。保留剤の例としては,麝香(じやこう),竜涎香(りゆうぜんこう),霊猫香(れいびようこう)などの動物性香料,ヒヤシンス油,セダー油,パチュリ油などの植物性保留剤,バニリン,クマリン,ヘリオトロピン,ニトロムスク,エキサルトンなどの合成香料が用いられる。また安息香酸エチル,フタル酸エチルのように,それ自身ほとんど無臭であるが,保留剤として用いられるものもある。
執筆者:内田 安三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報