日本大百科全書(ニッポニカ) 「バニリン」の意味・わかりやすい解説
バニリン
ばにりん
vanillin
芳香族アルデヒドの一つで、4-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒドの別名。メキシコ原産のラン科植物バニラ豆(バニラビーンズ)、安息香、ちょうじ油(丁字油)などに含まれて天然に存在する。メキシコの先住民はバニラ豆の香気を知っていて、これをたばこに詰めたり飲み物として用いたりしていたが、バニラ豆をヨーロッパにもたらしたのはコロンブスである。1857年にゴブリーNicolas-Theodore Gobley(1811―1876)はバニラ豆からこの化合物の結晶を取り出し、1858年にバニリンと命名。バニラ豆に含まれているコニフェリンが発酵により分解してバニリンになり、豆の表面に結晶として析出する。コニフェリンはモミなどの針葉樹にも含まれているので、バニリンの原料として用いられた。現在では、アメリカおよびカナダ産の安価なリグニンを利用して、リグニンスルホン酸を酸化する方法により生産されるバニリンが世界市場の大半を占める。チョコレートに似た甘い芳香をもつ白色結晶。水には溶けにくいが、エタノール(エチルアルコール)、エーテルなどの有機溶媒にはよく溶ける。食品香料としての用途は広く、アイスクリーム(バニラ)などの乳製品、ココアなどに用いられるほか、たばこのフレーバーや香水としても用いられている。
[廣田 穰 2015年3月19日]