日本大百科全書(ニッポニカ) 「凹面格子」の意味・わかりやすい解説
凹面格子
おうめんごうし
正しくは凹面回折格子という。回折格子の一種で、格子が凹面反射鏡の上につくられているもの。ただし、刻線の間隔は、凹面上ではなく弦平面に投影したときに等間隔になっている。分光器の光の分散素子としてプリズムのかわりに用いられるが、レンズや補助の凹面鏡を用いなくても、入射スリット(すきま)の像を自ら結像することができる特徴がある。刻線に垂直で、球面の曲率半径を直径とする円をローランド円という。 のように、入射スリットがこの円上に置かれているときは、スペクトル線はすべてローランド円上に結像する。したがって、スペクトルを得るときは、検出器はこの円上に置かれる。入射角が大きいときは、非点収差(焦点を結ぶ位置が縦と横で異なっている収差。レンズや鏡に斜めに光が入射するときに現れる)によって像が縦方向に長く伸び、そのために像の明るさが一般に低下する。しかし、波長の長い軟X線領域では、鏡面の垂直反射率はきわめて低く、そのかわり屈折率が1より小さいので、入射角を大きくとり、すれすれに入射させて鏡面での全反射を利用する場合もある。このような分光器は斜入射型分光器とよばれる。
目的の波長の単色光を取り出す装置を単色装置(モノクロメーター)といい、これにも凹面格子が大きな役割を果たしている。ローランド円の上に入射スリットとは別に出口スリットを置き、出口スリット上に結像した単一波長の光のみを取り出すことにより、検出する方法が用いられる。凹面格子モノクロメーターには、(1)出口スリットをローランド円上で動かすもの、(2)両スリットの位置は固定されているが、ローランド円に沿って凹面格子を動かすもの、(3)出口スリット上の結像が良好に保たれるように凹面格子に回転と並進運動を同時に行わせるようにくふうしたもの、(4)凹面格子はその中心で回転させるが、両スリットが格子の位置でつくる角を約70度に保つことによって結像性を良好に保つようにくふうしたものなどがある。
[尾中龍猛・伊藤雅英]