回折格子(読み)カイセツコウシ

デジタル大辞泉 「回折格子」の意味・読み・例文・類語

かいせつ‐こうし〔クワイセツカウシ〕【回折格子】

光の回折を利用してスペクトルを得る装置。ガラス板に多数の細いすきまを平行に等間隔に刻んだもの。グレーティング

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精選版 日本国語大辞典 「回折格子」の意味・読み・例文・類語

かいせつ‐こうしクヮイセツカウシ【回折格子】

  1. 〘 名詞 〙 光の回折を利用してスペクトルを得る装置。平面ガラスや凹面金属板に一センチメートル当たり五〇〇~二〇〇〇本の平行線を等間隔に刻んだもの。入射した光の反射または透過光が、回折して互いに干渉しスペクトルとなる。波長の精密測定に用いる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「回折格子」の意味・わかりやすい解説

回折格子
かいせつこうし

多数のスリット(すきま)を平行、等間隔に並べた光学素子で、グレーティングgratingともいう。光を波長に従って分散し、スペクトルを得るのに用いられる。光は各スリットによって回折し、横方向へ曲がって進む波を生ずる。異なるスリットによって回折してきた光波が干渉する結果、与えられた波長の光は特定の方向にのみ強く伝搬する。すなわち、隣り合ったスリットで回折した光波の間に光の波長の整数(m)倍の光路長の差があるとき、強い回折光ができる。このmを回折格子によるスペクトルの次数という。透過型と反射型とがある。反射型にも、反射面が平面である平面格子と、凹球面である凹面格子がある。回折格子をつくるには、普通、平面または凹面に研磨された鏡面に、ダイヤモンドの刃をもった刻線機械(ルーリング・エンジン)で精密に等間隔に刻線する。刃の選び方によって、階段的な切り口の刻線も得られ、スペクトルの強さをある次数に集めて、効率を高めることができる。このようにくふうされたものをブレーズド格子という。また、赤外線用につくられた階段状の切り口をもった格子は、階段格子の目を細かくしたものとも考えられ、エシュレット格子とよばれる。刻線の間隔は、普通、目的の光の波長の程度で、一次または二次のスペクトルを得るのに用いられるが、ときには刻線間隔を広くとり、そのかわり高い次数のスペクトルを得るもの(エシェル格子)も用いられている。

 図Aは透過型回折格子、図Bは反射型回折格子。図Bではm次のスペクトル線の波長と角度の関係は、
  mλ=d(sinβ-sinα)
で与えられる。格子の法線Nと、各スリットの反射面の法線nとの間の角をブレーズド角といい、リトロー方式(回折光が入射光のほうに返ってくる使い方)では、一次のスペクトルがもっとも強く得られる波長は、
  λ=2dsinθ
で与えられる。この波長をブレーズド波長という。

 波長の接近した2本のスペクトル線(波長差Δλ)が分離して観測できる限界を分解能といい、λ/Δλで表される。回折格子の分解能はスリットの総数とスペクトルの次数の積で与えられるが、実際には刻線の不整や光学系の不良によって多少低い値となる。刻線に不整がある場合には、本線の周りに偽のスペクトル線(ゴースト)が現れ、分解能低下の原因となる。

 機械的刻線器を用いず、レーザー光によって得られる干渉縞(かんしょうじま)を焼き付けて回折格子をつくることができる。これはホログラフィックグレーティングとよばれる。この場合、格子線は直線になるとは限らず、曲線になる場合もあり、これを利用して結像の収差を小さくする方法もさまざまにくふうされている。凹面回折格子では、ホログラフィックグレーティング製作技術を用いて1本1本のスリットの形や間隔に補正を加え、収差を小さく抑えることが可能になった。

[尾中龍猛・伊藤雅英]

『(社)応用物理学会・日本光学会・光設計研究グループ監修『回折光学素子入門』(1997・オプトロニクス社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「回折格子」の意味・わかりやすい解説

回折格子 (かいせつこうし)
diffraction grating

良好な仕上面をもつ平面,あるいは凹面の光学素材上に,1方向に平行な多数の細かい等間隔溝をもつ素子は,プリズム同様分光素子として広く実用され回折格子と呼ばれている。オーディオディスクなどを光にかざすと虹色が見えるのも同じ原理に基づいている。回折格子の働きは,図1に示すように平面上に等間隔で並んだ細隙を通過する光の回折と干渉によって説明できる。相隣る細隙の中心間の距離(格子定数)をdとし,格子面に入射角iで平行単色光が入ってθ方向に回折して進むとすれば,相隣る細隙の対応点を通過して同一方向に回折する隣接2光束の間には光路差が生じ,それが波長λの整数倍であるとき干渉光は強め合う。干渉には溝数だけの光束全部が寄与するので,回折光を適当な光学系で結像させると上述の条件,

 d(sini±sinθ)=mλ (mは整数)

を満たす方向に鮮鋭な干渉ピークを生ずる。この式を回折格子の基本式と呼ぶ。iとλが一定の下ではθとmの間の関係から,単色光を入射させたときにも焦点面上にはいくつかのθの方向にピークを生ずる。m=0(回折せず直進する光の方向)に対応するものを0次光,m=±1,±2,……に対するものをそれぞれ一次,二次,……回折光という。白色光の場合にはmパラメーターとする形で連続スペクトルが得られ,0次の白色光の両側にmの違いによって一次,二次,……のスペクトルが現れる。スペクトルの分解能λ/⊿λは刻線総数Nと次数mの積mNで決まる。

 実際の回折格子にはいろいろのものがあるが,反射型の平面格子,あるいは凹面格子が一般的である。一次スペクトルを使うことが多いため,格子定数は使用波長に近い値となり,紫外・可視域では刻線数が(2000~600本)/mmのものが使われる。光学的仕上げされた金属平面,あるいは凹面上にダイヤモンド刃物などで機械的に刻線する機械切り格子と,フォトレジスト素材上にレーザー光による干渉パターンを固定するホログラフィック格子とがあり,おのおのに特徴をもつ。とくに機械切り格子の製作はルーリングエンジンと呼ばれる高精度加工機が使われ,量産に向かないうえコスト的に問題があるので,直接機械切りされた原型からレプリカを多数作って実用に供する。凹面格子はそれ自体凹面鏡と類似した働きをするため使用時の非点収差が大きいが,格子面上で格子定数が変化する形に製作することによって,収差を軽減することができる。具体的にはコンピューターでプログラム制御されたルーリングエンジン(機械切り格子用)や,格子素材ブランク上に特定条件を満たすレーザー干渉縞を作りうる装置(ホログラフィック格子用)などにより実現できる。格子溝の断面形状をのこぎり歯状にすることによって,回折光強度の大部分を特定の波長と次数に集中させることができ,それをエシェレットechelette格子という。図2はその代表例であり,入射光が溝面で正反射する方向を中心とするある範囲に回折光の大部分が集中する。図2のαをブレーズblaze角,一次光の強度が最大となる波長をブレーズ波長と呼ぶが,後者は溝面に垂直に入射光を入れたとき同方向に戻る一次回折光の波長で定義することが多い。紫外・可視域に対して(数百~数十本)/mmの粗いエシェレット格子を作り,図3のように急斜面側を使うようにしたものをエシェルechelleという。mの大きい高次スペクトルを利用して高分解能を得ようとするものであるが,多光束干渉分光法と同様次数分離のための補助分光系が必要である。遠赤外やサブミリ波領域用の回折格子は格子定数が大きいため製作しやすく,細線を等間隔に張ったワイヤ格子も用いられる。
分光器
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百科事典マイペディア 「回折格子」の意味・わかりやすい解説

回折格子【かいせつこうし】

光を回折させてスペクトルを得るための装置。金属またはガラスの平面に1mmにつき600〜2000本の線を平行に引いた平面格子,凹面鏡に同じく細かく溝を引いた凹面格子の2種があり,プリズムに代わって,精密な分光装置(分光器)に用いられる。可視光線以外に赤外線,紫外線,X線にも使える。分解能は格子線の総数とスペクトルの次数(回折スペクトル)の積で表される。→回折縞分光学
→関連項目格子赤外線ローランド

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化学辞典 第2版 「回折格子」の解説

回折格子
カイセツコウシ
diffraction grating

光の回折現象を利用してスペクトルを得る光学用の素子.光が入射する面に,1 mm に500から1000本くらいの平行等間隔の溝が掘ってあると,回折されてくる光(波長λ)は,入射角i,溝間の距離d回折角(回折光が格子面の法線となす角)θと次の関係がある.

d(sin i - sin θ) = nλ

ここで,nは正の整数で,n = 1,2,3,…に従って一次の分散,二次の分散…という.nの数が多くなるほど回折光は弱くなるので,普通使われるのは三次程度までである.光の分散の度合は

dθ/dλ = n/d cos θ
で表され,分解能は

λ/δλ = nN
である(Nは格子線,すなわち溝の総数).回折格子は金属面にダイヤモンドで溝を切ってつくられるが,合成樹脂でレプリカをとり,これに金属を蒸着したものも同じ効果を示すので,一度溝を切ったものから複製して用いることが多い.回折格子は,平面ばかりでなく,凹面にして集光作用を兼ねたものや,溝の形を特殊なものにしたエシュレット格子,また通過光を利用したものもあり,階段格子はその一例である.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「回折格子」の意味・わかりやすい解説

回折格子
かいせつこうし
diffraction grating

平面鏡または凹面鏡の鏡面に等間隔の多数の平行な溝を刻んだもの。それぞれ平面回折格子,凹面回折格子と呼ばれ,分光器の分散系としてプリズムの代りに用いられる。平面格子はレンズまたは凹面鏡とともに,凹面格子はレンズ系なしで分光器の中に配置される。いずれもそれに光が照射されると,各格子線で反射した光は,等間隔の格子線の周期性により,位相の少しずつ異なる回折波として広がって互いに干渉し,一定の波長の光は一定の方向に強度が大きくなり,プリズムでの光の分散と同じようにスペクトルを生じる。回折格子の場合,ずれる角度は波長に比例しているので波長の読取りが容易であり,近年の分光器はもっぱら回折格子を用いて製作されている。格子の溝数は 1mmあたり 300,600,1200,2400本などで,目的とする波長に応じて適当なものが使われる。

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