改訂新版 世界大百科事典 「別曲」の意味・わかりやすい解説
別曲 (べっきょく)
朝鮮の歌謡。はじめは正楽や雅楽に対して,高麗・李朝初期の歌謡名の末尾に付された曲の呼称であったが,転じてジャンル名となる。〈曲〉とは〈歌〉(ノレ)の意。〈別曲〉は中国の楽府(がふ)や楽章などとは違う,朝鮮固有の俗楽または郷楽をさし,別途に作られた歌という意味を表す。別曲の代表作は《翰林別曲》で,高麗の高宗朝(1214-59)に作られ歌壇に大きな影響を与えた。当時の武人政権のもとで翰林院(詞命をつかさどる官庁)にいた儒臣たちが合作したもので,翰林院における生活断面を八節に分けて歌っており,彼らの享楽的であると同時に風雅な生活感情を表現している。各節の終りには〈……景(光景),幾如何〈いかなるものじゃ〉という誇示的な意味を含む囃子が付いている。全体に雄壮で威風堂々たる情感を十二分に出し,格調高いこの歌は当時の文人の間で広く愛唱され,安軸の《関東別曲》など亜流作も生んだ。李朝になっても儒臣たちはこの歌形による作品を数多く作っている。この特異な歌形は〈別曲体〉〈景幾体〉〈翰林別曲〉などの異名で呼ばれている。
執筆者:金 思 燁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報