日本大百科全書(ニッポニカ) 「剣攷」の意味・わかりやすい解説
剣攷
けんこう
近世の剣術書。心形刀(しんぎょうとう)流(甲州派)6代常静子(じょうせいし)、肥前平戸(ひらど)藩10代藩主松浦静山(まつらせいざん)(1760―1841)の著。全2冊。第1冊は心形刀流の目録、丸橋刀(まるばしとう)以下25本の刀法・口伝(くでん)について、技法・心法の両面から解説したもので、師説・口伝の正しい意味を把握することに努めている。第2冊は静山が随時に書きためた論説のうち、題名にふさわしいものを取り集めたもので、静山の博識と分析の緻密(ちみつ)さには驚かされる。その編述年代は明記されていないが、文中に「丁丑五月、林子(大学頭(だいがくのかみ)林衡)茅堂(ぼうどう)を訪はれ、酣談(かんだん)に及びしとき、云々」とあり、1817年(文化14)5月以後の成立であることがわかる。なお、剣学についての随想、小論を一書にまとめた『剣談』1冊がある。このなかで静山は、たとえば剣術は手業(てわざ)ではなく、要所は足にあり、足協(かな)う者にはかならず勝味(かちみ)があること、刀を振り回すより、むしろ身の曲尺相(かねあい)が肝要であり、突く太刀(たち)は一見豪快に見えるが実は死刀で、引く太刀こそが、変に応じ刺払四切に転ずる生刀であることなど、数々の剣術修行の眼目を指摘し、一般の通説の誤謬(ごびゅう)を正している。
[渡邉一郎]
『『日本武道大系 第1巻』(1982・同朋舎出版)』