日本大百科全書(ニッポニカ) 「動物性鞭毛虫類」の意味・わかりやすい解説
動物性鞭毛虫類
どうぶつせいべんもうちゅうるい
原生動物の肉質鞭毛虫門鞭毛虫亜門の一綱Zoomastigophoreaを構成する単細胞生物群。無色鞭毛虫類ともいう。色素体を欠き、すべて従属栄養で、1個から多数の鞭毛をもつが、アメーバ期のある種もある。一般に鞭毛とその付属器官がよく発達し、三連微小管で構成され鞭毛基部にある基底小体(キネトソーム)、基底小体に近接し、棒状、楕円(だえん)形などさまざまな形態に分化したゴルジ装置の一種である副基体、細胞体と鞭毛との間に形成された波動膜、基底小体から発し波動膜に沿って後方に走る繊維状のコスタ、微小管を素材とする背骨状の軸桿(かん)などをもつものがある。とくにこれら付属器官と核とが一組となった装置を核鞭毛系といい、これがいくつか組み合わさって一個体を形成している種もある。基底小体に近接するミトコンドリアの膨隆部で核とは異なるk‐DNAを含有したものがキネトプラストで、これはキネトプラスト目Kinetoplastidaに特有の構造である。
本綱は8目に分類されるが、ボドBodo、トリマスティクスTrimastix、テトラミツスTetramitusなど比較的少数の自由生活種以外は寄生性である。とくにリーシュマニア症の病原体リーシュマニアLeishmaniaと、睡眠病やシャーガス病をおこさせるトリパノソーマTrypanosomaは鞭毛虫性熱帯病の代表で、泌尿生殖系に炎症をおこすトリコモナスTrichomonasとともに医学上重要である。そのほか、実験動物、家畜、ペットなどに病害を与える近似種も多い。きわめて多数の鞭毛と副基体からなる鞭毛系のみられる超鞭毛目Hypermastigidaは、ゴキブリとシロアリの消化管に寄生または共生し、とくにトリコニンファTrichonymphaは有名である。
[石井圭一]