翻訳|flagellum
原生動物の鞭毛虫類,藻類や菌類の遊走子や配偶子,後生動物の精子や鞭毛上皮などの真核細胞と一部の細菌にみられる運動性の細胞器官。複数形はflagella。
真核細胞の鞭毛の基本的な構成は繊毛と同じ9+2構造である(繊毛)。精子の場合には種類によってきわめて変異に富み,基本的な9+2構造のものから,その外側に細胞質微小管をもつもの,哺乳類精子のように9本の太い周辺束繊維をもつもの,あるいは中心対の位置に1本の太い繊維をもつもの,6+0や3+0のものなどがある。また両生類の精子のように波動膜を有するものもみられる。鞭毛はふつう細胞1個当り1本か2本で,長さは繊毛より長く数十μmから場合によっては数mmにも達する。直径は0.2μmほどであるが,周辺束繊維をもつ哺乳類精子などではもっと太い。鞭毛の基部は細胞表面下の基粒体に接続している。
真核細胞の鞭毛運動は,ちょうど鞭を振るったときのように,正弦曲線状の屈曲の波が根もとから先端へと次々に伝わっていくようなものであり,ここから鞭毛の名がでている。ウニ精子などでは鞭毛はほぼ一平面内で波打っており,その面は繊毛運動の場合のように中心対微小管を結ぶ線に垂直な面と一致する。しかしより複雑な三次元的な運動を示すものもある。鞭毛も疲労したりあるいはある条件下に置かれると一方向にのみ強く打つようになり,繊毛の運動に類似してくる。また緑藻類のクラミドモナスChlamydomonasのように,ふだんは2本の鞭毛を繊毛のように動かして前進運動をし,ある刺激を受けると鞭毛タイプの運動に切り換えて後退運動をするものもある。また波が根もとから先端への一方向のみでなく,先端から根本にも伝わりうる鞭毛をもつものも知られている。海綿動物の襟細胞のように鞭毛室に固定しているものでは,鞭毛運動によって水流がおこり摂食や呼吸に役だっている。鞭毛運動の基本的しくみについては,最初微小管が次々に収縮することによると考えられたが,現在ではチューブリンよりなるダブレット微小管に並んでついているダイニンdynein(ATPアーゼ活性をもつタンパク質)の腕が,隣のダブレット微小管に周期的に付着し,ATPのエネルギーを使って位置的なずれを起こすとする滑り説が定着している。局所的滑りが屈曲に変わるしくみはまだよくわかっていない。
大腸菌やサルモネラ菌などには,フラジェリンと呼ばれるタンパク質からなる鞭毛が菌体に付着している。細菌の鞭毛は直径15~20nmほどで左巻きまたは右巻きのらせん状をしており,フックと呼ばれる構造によって細胞表面下のモーター装置に結合している。ふつう多数の鞭毛が束になって運動するが,真核細胞の鞭毛とは異なり,その動力源は根もとのモーター装置にあって,これによって鞭毛が回転する。
執筆者:毛利 秀雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ある種の細菌、鞭毛虫類、精子などにみられる、細長い突起状をした運動性の細胞小器官をいう。細菌の鞭毛は、単一タンパク質フラジェリンよりなる繊維部、菌体に埋まっている基部、これらの間に位置するフック、の三つの部分からなる。鞭毛繊維の数は細菌の種類や培養条件などによって異なる。菌体の全表面から多数の鞭毛繊維の生える場合(周毛性)と、菌体の後端または前端のみに生える場合(極毛性)とがある。真核細胞の鞭毛は、鞭毛膜に軸糸と原形質を包んだ形のものである。その基本構造は繊毛のそれと同一である。軸糸は9+(プラス)2本の微小管よりなることが多いが、ある種の昆虫の精子尾部鞭毛のように9+3本、9+9+0本などの場合もある。また哺乳(ほにゅう)類精子の尾部鞭毛や渦鞭毛虫類のケラチウムの鞭毛のように、微小管のほかに付属の繊維構造をもつ場合もある。多くの植物性鞭毛虫類の鞭毛は、その側面にマスティゴネームという繊細な繊維状突起を生やしている。
[馬場昭次]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
※「鞭毛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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