日本大百科全書(ニッポニカ) 「化学生態学」の意味・わかりやすい解説
化学生態学
かがくせいたいがく
chemical ecology
地球全体の規模で、大気・水・土壌の三大環境システムにおいて、生物間の関連性や生物と化学物質との相互作用を化学的な立場から解明しようとする学問である。化学生態学が新しい学問分野として確立されたのは比較的近年で、有機塩素系農薬、合成洗剤、重金属化合物などによる環境汚染が問題になってからである。その結果として、これらの人間によってつくられた化学物質の自然界での分布・循環・分解などのサイクルがおもな研究対象となってきた。しかし、生態学とは、本来一つの系に含まれる生物の活動量を積算して、それを通してのエネルギーや物質の流通・循環・収支バランスを調べて、生物と生物ないしは生物と環境の間の関連性を探り、生態系の動向を知ることを目的としている。したがって光合成、海洋系などを含む地球規模でのエネルギーや物質の流れが定量的に取り扱われる。このような解析が化学物質の生態学の基本となる。生物が存在する限り必要不可欠である環境汚染物質による生態系への影響の研究は、生態系の病態診断という化学生態学の一部門である。
[廣田 穰]
『日本化学会編『化学生態学の展望』(1973・学会出版センター)』