合成洗剤(読み)ごうせいせんざい(英語表記)synthetic detergent

精選版 日本国語大辞典 「合成洗剤」の意味・読み・例文・類語

ごうせい‐せんざい ガフセイ‥【合成洗剤】

〘名〙 せっけん以外の人造洗剤をいい、合成表面活性剤の大部分が含まれる。高級アルコールを原料とした高級アルコール硫酸エステルや、飽和炭化水素とベンゼンを原料としたソープレスソープなどが多く用いられる。合成洗浄剤

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デジタル大辞泉 「合成洗剤」の意味・読み・例文・類語

ごうせい‐せんざい〔ガフセイ‐〕【合成洗剤】

化学合成された表面活性剤を主体とする、石鹸せっけん以外の洗浄剤。高級アルコール硫酸エステル系と直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩系とに大別される。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「合成洗剤」の意味・わかりやすい解説

合成洗剤
ごうせいせんざい
synthetic detergent

工業的に化学合成された界面活性剤を用いた洗剤の総称。動植物油脂の脂肪酸アルカリ塩であるせっけんに対し、合成界面活性剤が主要成分であるが、洗剤としての作用を高めるために配合されるビルダー(洗浄促進剤)、酵素、香料、蛍光増白剤などを含めた意味で使われる。また漂白剤や溶剤、殺菌剤が配合されている場合もある。合成洗剤の生産量のうち3分の2以上が衣料用洗剤として用いられるが、そのほかに台所用、住居用、毛髪用、消毒・殺菌用などにも用いられ、それぞれ異なった成分が使用される。合成洗剤の分類法には、アルカリ性、中性など水に溶かしたときの水素イオン濃度(pH)による分類、陰イオン系、陽イオン系、両性イオン系、非イオン系のように界面活性剤の水溶液中でのイオン性による分類、ヘビーデューティー洗剤(重質洗剤)、ライトデューティー洗剤(軽質洗剤)のように用途に応じた洗浄力の強さによる分類、粒(粉末)状、液体、タブレット(錠剤)など洗剤の形状による分類などがある。

[篠塚則子・永山升三]

製法

合成洗剤用としてもっとも一般的な陰イオン活性剤LAS(ラス)(linear alkylbenzene sulfonate直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩)は、n-パラフィンまたはn-α-オレフィンを、触媒の存在下、ベンゼンと縮合させて直鎖アルキルベンゼンとし、これをスルホン化後、水酸化ナトリウムで中和してナトリウム塩とする。また、その主成分の化学構造から、ドデシルベンゼンスルホン酸塩ともよばれる。スルホン化剤には三酸化硫黄(いおう)、発煙硫酸、クロロスルホン酸などが用いられるが、ほとんど三酸化硫黄が用いられている。n-α-オレフィンや脂肪酸メチルエステル、高級アルコールなども三酸化硫黄によって、それぞれα-オレフィンスルホン酸(AOS)、α-スルホ脂肪酸メチル(SFE)、高級アルコール硫酸エステル(硫酸アルキル、AS)となり、同様に水酸化ナトリウムで中和して塩として合成洗剤用陰イオン活性剤になる。典型的な非イオン活性剤は、高級アルコールまたはアルキルフェノールに触媒を用いて酸化エチレンを反応させて製造される。アルキルフェノールは、弱いながら内分泌攪乱(かくらん)物質としての作用がありその用途が制限されているので、高級アルコールを原料とするアルキルポリオキシエチレンエーテル(AE)が主流である。

 家庭用合成洗剤の主流は、粒状のもので、陰イオン活性剤がおもに用いられる。少量の非イオン活性剤が配合されることもあるが、これらにアルミノケイ酸塩(天然の沸石と同一成分、ゼオライトとよばれる)、ケイ酸塩、炭酸塩などをビルダーとして加え、乾燥、混練、粉砕、造粒の工程を経て製造される。以前は噴霧乾燥法により中空粒状のものが用いられていたが、かさ比重を大きくしたコンパクト洗剤が主流になっている。

[篠塚則子・永山升三]

歴史

洗剤は紀元前2500年ごろのメソポタミア文明の時代にせっけんが発明されたのが始まりとされる。近世では化学工業の黎明(れいめい)期である19世紀にソーダ産業の進展とともに普及し、今日まで使用されている長い歴史をもつが、硬水中で不溶化したり、希薄水溶液中で酸性せっけんとなって洗浄後のすすぎが困難になったりするなどの欠点がある。合成洗剤は、第一次世界大戦中ドイツで食用油脂の欠乏からせっけんの製造ができなくなり、代用品としてブチルナフタレンスルホン酸塩を使用したのが最初とされている。その後1928年ドイツのベーメ社が高級アルコール硫酸エステル(AS)塩を工業化し、1933年にはアメリカのプロクター・アンド・ギャンブル社が「ドレフト」という家庭用合成洗剤を初めて市販した。日本では37年(昭和12)羊毛および絹用中性洗剤として市販されている。1933年にドイツで発明されたアルキルベンゼンスルホン酸塩は、42年アメリカで合成ガソリン製造の副成物のプロピレンテトラマーを原料としてABSが開発された。第二次世界大戦中欧米諸国では洗剤原料のやし油が不足して、合成洗剤が脚光を浴びるようになった。戦後アメリカは、その豊富な石油資源を利用してABSの大量生産に着手し、ABS洗剤が家庭用洗剤の主流となった。アメリカでは1953年に合成洗剤の使用量がせっけんを上回り、日本では63年に合成洗剤がせっけんを上回った。非イオン活性剤であるアルキルポリオキシエチレンエーテル(AE)は1930年に開発され、それを硫酸エステル塩とした硫酸アルキルポリオキシエチレン塩(AES)も陰イオン活性剤として38年に開発された。そのほか比較的よく用いられる二級アルカンスルホン酸塩(SAS)はn-パラフィンと二酸化硫黄と塩素または酸素との反応により製造する方法が33年に開発されている。前出のAOSやSFEの合成法は、三酸化硫黄の取扱いなどの困難な技術を克服する必要があったため開発が遅れ、67年以降に洗剤の生分解性(ソフト化)の進展に伴って完成した。

[篠塚則子・永山升三]

洗剤の種類

(1)衣料用ヘビーデューティー洗剤 合成洗剤がもっとも大量に使われるのは、木綿、合成繊維などの肌着、日常着、作業服などの汚れを洗濯するためで、このような用途のヘビーデューティー洗剤は一般に水溶液が弱アルカリ性となるようにして汚れを落としやすくしてある。したがって洗剤には界面活性剤のほかに、ビルダー、再汚染防止剤、制泡剤、蛍光増白剤、酵素、粒状化安定剤、香料などの成分が配合されている。洗浄と同時に漂白する目的で漂白剤が配合されていることもある。界面活性剤としては陰イオン、非イオン活性剤が用いられる。LASはアルカリ性下でも安定で、ほかの多くのビルダーや活性剤と混用でき、水溶性も良いので広く用いられる。ほかにAOS、SFE、AS、AESや非イオン活性剤のAEも配合される。ビルダーは界面活性剤の作用を助け、洗浄力を向上させるために添加され、硬水成分のカルシウムを除去するためにアルミノケイ酸塩が配合される。少量だがアクリル酸マレイン酸コポリマーも同じ目的で併用され、これは形状安定化作用もある。また硬水の作用を軽減するとともにpHをアルカリ性に保ち洗浄の条件を整える作用があるケイ酸塩、炭酸塩も用いられる。従来、縮合リン酸塩が同じ目的で使用されてきたが、リンによる河川湖沼・内湾の富栄養化防止のために使用が制限され、国内ではまったく配合されなくなった(後述)。界面活性剤もLASの一部を耐硬水性がより優れたAOS、SFE、AES、AEに置き換えて使用されるようになっている。再汚染防止剤としてはカルボキシメチルセルロースが、制泡剤としてはせっけんが、蛍光増白剤としてはセルロースに対して直接染着性のあるスチルベン誘導体が少量配合される。酵素は汚垢(おこう)成分の分解により洗浄効果を補助するため、タンパク分解酵素や油脂分解酵素が用いられる。

(2)衣料用ライトデューティー洗剤 羊毛、絹などの動物性繊維製品や繊細な糸・織構造をした衣料の洗浄は、pHが中性付近の穏和な条件で、洗濯機の機械力を避け、手洗いするのが好ましい。この用途のために開発された洗剤では、LAS、AESのような陰イオン活性剤、AEのような非イオン活性剤が主成分である。ビルダー類や蛍光増白剤を配合することはまれで、軽い汚れの洗浄に適し、香料などが添加されている。

(3)シャンプー剤 毛髪と頭皮の洗浄を目的としたシャンプーでは、適度の洗浄性、起泡性と毛髪の風合い(触感)を保つことと、目や皮膚への刺激性がないことが必要で、界面活性剤の選択に工夫がされている。また香粧品として調香にも配慮される。シャンプー用界面活性剤としては陰イオン活性剤のAESと非イオン活性剤の脂肪酸ジエタノールアミドが一般的に用いられるほか、アシルアミノ酸塩(アミノ酸と脂肪酸の縮合物)や両性活性剤などとくに刺激性の少ないものが使用されている。ふけを抑えるために硫化セレン、ZPT(zinc 2-pyridinethiol-N-oxide)やピロクトン・オラミンなどの薬効成分が配合されたものもある。香料、色素のほかコンディショニング剤として陽イオン変性セルロース、ラノリン誘導体、コラーゲン誘導体が配合される。透明な液状を保つため微量の有機キレート剤(エチレンジアミンテトラアセテート)も用いられる。

(4)住居用洗剤 住居専用の洗剤には、界面活性剤の作用によって汚れを除去する万能型洗剤と、浴室用、トイレット用、ガラス用、家具用などの専用洗剤がある。万能型は界面活性剤としてLASや非イオン活性剤を数%含有し、ビルダーを加えて弱アルカリ性にしてある。トイレット用には次亜塩素酸ナトリウムを含む強アルカリのものや、強酸性の塩酸を含む化学作用を主効果としたものもあり取扱いに注意を必要とする。

(5)台所用洗剤 食器、調理用具、野菜などの汚れ落としに用いられる洗剤には、LAS、AES、SASなどの陰イオン活性剤とAEや脂肪酸ジエタノールアミドなどの非イオン活性剤、N-アルキルベタインなどの両性活性剤が用いられる。台所用洗剤として液状で使いやすくするために、エタノール(エチルアルコール)、尿素、トルエンスルホン酸塩などを添加して、安定な濃厚溶液としている。添加剤としてはこのほかに、ポリ酢酸ビニルエマルションなどの乳濁剤、手荒れ防止剤のほか、食品添加用の香料、着色剤などを加える。

(6)逆性せっけん 陽イオン活性剤は一般的な洗浄力はないが、消毒用として有効である。このため、病院などでの手術や病室の衛生管理に使用される。陰イオン活性剤に対してイオンが逆であるため、このような名称でよばれる。

(7)工業用洗剤 洗剤を業務用に用いるおもな工業は、繊維工業、紙パルプ工業、食品工業などで、そのほか金属表面や車両洗浄などそれぞれの用途に適した配合をしたものがある。工業用洗剤には、鉱物油による汚れをよく落とし、低泡性で耐硬水性に優れた非イオン活性剤がよく用いられる。

[篠塚則子・永山升三]

合成洗剤と環境問題

せっけんがABS洗剤を主とする合成洗剤に置き換わり、その後使用量が急速に伸びた結果、排水として放流された河川や下水処理場で発泡して水質汚濁問題が起きるようになった。これはABS洗剤の生分解性が悪いことによる。そこでイギリスやドイツでは、1965年ごろまでにはABSにかわって生分解性の比較的よいLASが合成洗剤の主流となった。生分解性のよい界面活性剤を用いた洗剤をソフト洗剤というが、アメリカでもヨーロッパとほぼ同時期にソフト化が進められた。

 欧米に比較してせっけんから合成洗剤への転換が遅れた日本でも、1968年(昭和43)には生分解度80%以上を目標に、72年にはLASやAS、AOSを用いて97.5%を達成した。合成洗剤の生分解性の悪さに基づく水質汚濁の問題は、主要成分のソフト化が行われて一段落したが、ついで湖や内海の富栄養化が環境問題としてクローズアップされ、その一原因として合成洗剤に配合されているリン酸塩が取り上げられた。富栄養化とは、地表水がリン、窒素などの水生生物の栄養素を多く含むようになり、その結果、湖などの生物生産が増加することで、たとえば赤潮の発生、藻類の大量発生などの原因がこの富栄養化と考えられている。

 とくに琵琶(びわ)湖南部の富栄養化現象は著しく、1979年(昭和54)滋賀県は「滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例」を公布し、リンを含む合成洗剤の使用と販売を禁止した。環境中に存在するリンのうち、合成洗剤由来のリンは1~2割程度と推定されるが、80年には環境庁(現環境省)が「富栄養化防止に関する総合対策」を発表し、これを契機に日本では合成洗剤の無リン化が進行し、トリポリリン酸塩のかわりに、ゼオライトを用いた洗剤が普及して、家庭用合成洗剤は無リン化された。

 洗剤が身体に及ぼす影響の一つに、接触による皮膚疾患がある。主婦湿疹(しっしん)とよばれる非炎症性(使用を中止すれば自然に治癒する)の手指の荒れがよく知られている。経口急毒性は、通常の合成洗剤はせっけんとほぼ同様である。50%致死量が体重1キログラム当たり4~10グラムであり、食塩よりも毒性が低く、実際上無毒性に分類される。活性剤のなかでは陽イオン活性剤は毒性が強く、非イオン活性剤は毒性がもっとも弱い。合成洗剤の使用に際しては、必要以上に多量に使わないように、水で希釈して(通常0.2%溶液)用いるよう注意し、なるべくゴム手袋などを着用して、手指などを保護するのが望ましい。また、誤飲を避けるため、保管にも気をつけなければならない。

[篠塚則子・永山升三]

『荻野圭三著『合成洗剤の知識』(1974・幸書房)』『今木喬・大木幸介・富山新一著『洗剤の科学』(1988・ドメス出版)』『北原文雄著『界面活性剤の話』(1997・東京化学同人)』『藤井徹也著『洗剤――その科学と実際』(1995・幸書房)』『荻野圭三著『表面の世界』(1998・裳華房)』

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改訂新版 世界大百科事典 「合成洗剤」の意味・わかりやすい解説

合成洗剤 (ごうせいせんざい)
synthetic detergent

合成洗浄剤ともいう。洗剤とはおもに繊維等の固体の表面に付着した異物や汚れを除去するために使用される薬剤で,とくに湿潤,浸透,乳化,分散,可溶化等の界面活性の複合作用としての洗浄力によって,その汚れを系外に取り去る作用をするものである。洗剤としては,一般に脂肪酸セッケンが古くから主要な役割を果たしてきたが,合成洗剤とは石油化学等の工業原料を用いて合成された,同様の機能をもつ一群の物質群である。合成洗剤は上述のように,その界面活性機能を利用したものであるから,当然界面活性剤の主要な一群である。なお界面活性剤は,乳化,消泡,発泡,表面張力の低下等の特性をいかして,とくに洗浄力を必要としない分野にも多様に利用されていることに留意されたい。また合成洗剤に類似した使途を有するため,混同されがちな化学薬品として,漂白剤,とくに食器用汚れ落し,トイレの清浄剤等がある。これらは若干の合成洗剤を配合してあるが,おもな機能は,過塩素酸塩のような漂白剤等を用いた化学反応によって清浄作用を行うものである。それゆえ,一般に合成洗剤と総称することもあるが,厳密には洗剤とは区別されるものと考えるべきである。合成洗剤は,その使途対象によってその性質を調節されるが,固体表面の性質,汚れの種類,使用方法により,衣料用,台所用,住居用,毛髪用,工業用等に分類されている。また洗剤の性質によって,ライトデューティ洗剤とヘビーデューティ洗剤とに分類されている。

中性洗剤とも呼ばれ,おもにアルカリ性をきらう被洗浄物に対して用いられる。絹,毛,ナイロン等の衣料の洗濯用,食器具類,野菜・果実の洗浄用といった台所用洗剤,シャンプー等の毛髪用洗剤がそれにあたる。また自動車等,建築用材料,家具類等の洗剤としても近年広く利用されている。(1)台所用洗剤 洗浄時に野菜,果実の外観,味,においを損ぜず,残留性が少ないこと,またとくに使用時の手荒れなどが少ない安全性を考慮したものでなければならない。このため洗剤成分としては,直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(略称LAS),アルキル硫酸エステルナトリウム(AS),アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES),α-オレフィンスルホン酸ナトリウム(AOS),アルキルスルホン酸ナトリウム(SAS)等の陰イオン界面活性剤,ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル(APE,POE・P),脂肪酸アルカノールアミド(DA)等の非イオン界面活性剤,そのほか両性界面活性剤等が用いられる。現在の台所用洗剤の主流はアルキル鎖長の平均がC12のLAS,AESで,AESの酸化エチレン付加数が2~3のものである。商品としてはこれらの界面活性剤を混合することにより洗浄力を上昇させ,またその濃厚液を安定化させるためにエチルアルコール,尿素,トルエンスルホン酸塩等の溶解補助剤hydrotropeを加え,さらに粘度調節用の増粘剤,乳濁剤,香料,着色剤,手荒れ防止剤等を加えている。なお自動皿洗機用には,さらにビルダー,殺菌漂白剤を加える。(2)シャンプー用洗剤 洗浄力がすぐれているために,おもに陰イオン界面活性剤を用いる。とくにAS,ドデシルスルホン酸ナトリウム(SDS)が泡立ち,きめのよさから好まれる。またナトリウム塩をトリエタノールアミン塩にするとか,酸化エチレンを付加してAESとすること等によって改良している。(3)衣料用中性洗剤 おもに羊毛,絹のようにヘビーデューティ洗剤(弱アルカリ性)では繊維が毛羽立ちや収縮等でいたむようなものを対象にして用いられる。界面活性剤成分は台所用と同様LAS,AS,AESのような陰イオン界面活性剤,非イオン界面活性剤,APE,両性界面活性剤が用いられるが,とくにASが多用されている。(4)工業用洗剤 一般家庭用と異なり,鉱物油の汚染に対する強い洗浄性をもち,低発泡性,耐硬水性の非イオン界面活性剤が多く用いられている。その用途は繊維工業,紙パルプ工業,食品工業のほか,金属洗浄,自動車等の車両洗浄用等で,それぞれの使途に適した調製がなされている。

木綿,レーヨン,ビニロン,テトロン等の一般の衣服,肌着等の洗濯に使用されるもので,洗浄力を向上するために弱アルカリ性に調製されている。界面活性剤成分としてはLAS,AOS,AS,AES,SAS等の陰イオン界面活性剤,APE等の非イオン界面活性剤が用いられるが,商品としては,これにビルダー,再汚染防止剤,制泡剤,漂白剤,蛍光増白剤,ケーシング防止剤,酵素,香料等を調合している。ビルダーは界面活性剤の洗浄性能を向上させる役割を果たすもので,トリポリリン酸STPP等の縮合リン酸塩,ゼオライト等を主とし,さらにアルカリビルダーとしてケイ酸ナトリウム,炭酸ナトリウム,また有機キレート剤等を用いている。ビルダーは洗浄浴中でアルカリ緩衝作用をもち,汚れによる溶液の酸性化,アルカリ性化を防ぎ,カルシウムやマグネシウムのような硬水成分の悪影響を防止し,汚れの分散を助けるものとされている。かつてはSTPPを30%程度配合した例もあるが,洗剤使用量の増大とともに,排水の環境への影響(湖沼・河水等の富栄養化)が問題となり,低リンまたは無リン化への努力がなされ,またとくに日本では環境に適合したビルダーとしておもにゼオライトを微粉化した洗剤用ビルダーが用いられるようになった。ヘビーデューティ洗剤はまた,形状から粒状洗剤と液体洗剤に分けられる。前者はとくに電気洗濯機に適するもので,界面活性剤,ビルダー,性能向上剤からなるスラリーを噴霧乾燥し,フリーフロー性,溶解性等をもたせたものである。液体洗剤の場合も粒状洗剤と同様であるが,一般にビルダー配合量を少なくし,むしろ陰イオン界面活性剤に非イオン界面活性剤を配合するなどのくふうをして洗浄力を高めている特徴がある。液体洗剤の場合はまたとくに低温での固化,ゲル化を防ぐための溶解補助剤を配合する。

洗剤としてのセッケンの使用はすでに有史以前から行われている。合成洗剤としては,ブチルナフタリンのスルホン化物が1910年代に第1次大戦による油脂不足に悩まされたドイツでセッケンの代用として用いられたものが最初で,次いでAS(1928),ABS(1938,ABS洗剤)が登場した。とくにプロピレンオリゴマーとベンゼンから得た分岐アルキルベンゼンをスルホン化して製造される分岐ABSは原料の供給,洗浄力の強さから第2次大戦後合成洗剤の主流になったが,微生物による分解されやすさ(生分解性)に乏しく排水中に残留し汚染の因となった。このため生分解性のある直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩LASが登場した。生分解性のある洗剤をソフト洗剤,ないものをハード洗剤と呼んでいる。一方,APE(1930),SAS(1930)も開発され,近年にはα-オレフィンスルホン酸塩等の生分解性に富む洗剤が合成,多用されるようになった。日本では合成洗剤の2/3はヘビーデューティ洗剤を主とする粒状洗剤,1/3は液体洗剤である。なお医用等の特殊な用途に陽イオン界面活性剤等も用いられるが,その量はきわめて少ない。
執筆者:

合成洗剤の消費量は1950年代の後半から急増し,現在洗剤の王座を占めている。しかし,合成洗剤は以前から環境汚染の面で,また健康上,問題があるとの指摘がなされてきた。

 洗濯用合成洗剤は汚れを落とす成分であるLASや高級アルコール系等の界面活性剤を含むが,従来のものはこれ以外に助剤としてトリポリリン酸塩が添加されているものが多かった。トリポリリン酸塩は植物プランクトンの栄養源となるリンを含むので,これが海や湖に入ってくると富栄養化をひき起こし,植物プランクトンが増え,水質汚濁を起こす原因の一つになる。水質改善の対策の一つに合成洗剤の規制が考えられているのはこのためである。植物プランクトンの増殖にはリン以外に窒素や鉄,マンガン,ビタミン等多くの物質が関与しているが,このなかで,多くの場合,リンの削減が水質改善のうえで最も効果の大きいことがわかっている。リンの処理については下水の三次処理も考えられているが,この方法でもリンを完全に取り除くことは不可能であり,また処理によってできた汚泥の処分もたいへんであるうえに,処理に多額の経費がかかる。これよりも発生源対策として合成洗剤の規制を行うほうが経費や効率の面でも有効である。79年10月,滋賀県で〈琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例〉が成立(1980年7月施行),その後霞ヶ浦をかかえる茨城県でも同様の条例が成立し,リンを含む合成洗剤の規制が行われている。

 近年はトリポリリン酸塩のかわりに助剤としてゼオライトが添加されている無リン合成洗剤に切り替えられているが,合成洗剤の主成分であるLAS・高級アルコール系等の界面活性剤そのものも環境上問題がある。かつてのハード型ABSより分解性がよくなったとはいえ,天然油脂からつくられたセッケンと比べて,なお生分解性の低いものが多く,河川等の発泡の問題も完全に解決されたとはいえない。そのうえ,合成洗剤は微生物,動物プランクトン,イトミミズ,水生昆虫など水生生物に対しては致死作用が強い。魚の場合はえら組織を破壊して窒息死させる。このほか,アワビ,ウニ,魚類,両生類等の受精卵において発生阻害・成長阻害,奇形率の増大等がみられる。さらに合成洗剤は下水処理場における下水の処理効率を悪くすることもわかっている。

 健康上の問題に関しても人体に対する安全性について疑問を出している研究者もいる。一方,セッケンは洗濯のしかたさえくふうすれば洗浄力のうえでも合成洗剤に劣るものではなく,健康や環境のうえでも問題が少ない。このため,合成洗剤からセッケンへ切り替えていこうとする運動が消費者を中心に続けられているが,一時期ほど成果が上がっていないのが実情である。
執筆者:

1995年の生産量は102万tで,家庭用が90%,業務用が10%となっている。業務用は少量多品種的な性格が強いので中小企業,家庭用は大量生産品で大手企業が生産している。花王石鹼(現,花王),ライオン,P & Gサンホームの上位3社で80%のシェアを占めている。需要は,電気洗濯機の普及につれて急成長をとげてきた。合成洗剤は,セッケンに比べると,洗浄力がすぐれているうえに,硬水にも使えるし,また水すすぎが簡単であるなどのメリットがあるため,急速に浸透し,1963年には粉セッケンの消費量を抜くに至った。その後も洗濯用だけでなく,台所や住居用,シャンプーやリンス等にも使われるようになり,生産量は,1959年から74年の間に年率平均21%の増加をみた。1973年秋の第1次石油危機以降,需要は伸び悩んでいるが,日本の1人当りのセッケン・洗剤消費量は欧米の約半分なので,今後の堅調な拡大も考えられる。

 なお,前述の合成洗剤をめぐる有害論議のなかで,メーカー各社は滋賀県の〈琵琶湖富栄養化防止条例〉の成立前後から合成洗剤の無リン化を急速に進め,現在ではほとんどが無リン洗剤になった。これに伴いトリポリリン酸ソーダとアルキルベンゼンの需要が減少,高級アルコール需要が増大し,原料メーカーに影響を及ぼしている。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「合成洗剤」の意味・わかりやすい解説

合成洗剤【ごうせいせんざい】

セッケンは天然油脂を原料とするが,石油などの油脂以外の原料を用いて合成される洗剤を合成洗剤という。硬水でも不溶性沈殿を生成せず,溶解性が大で,洗浄力がすぐれ,繊維をいためない利点があり,セッケンに代わって広く用いられるようになった。アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS洗剤),アルキル硫酸エステル塩,アルキルアミン塩,アルキル第四アンモニウム塩,ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどがあり,その性質によって中性洗剤と弱アルカリ性洗剤とに分類される。前者はアルカリ性をきらう絹・毛・ナイロンなどの繊維衣料の洗濯,食器・野菜・果物の洗浄,毛髪用シャンプーなどに,後者は木綿・レーヨン・ビニロンなど一般繊維衣料の洗濯などに用いられる。ABS洗剤はアルキル基が廃水中で分解されずに残留するため,その使用量の増加に伴い,環境汚染,人体に対する安全性が問題となり,1965年6月以降,家庭用洗剤は生物分解性の高いLAS洗剤に切り替えられた。なお,合成洗剤に多量に配合されているリン酸塩による湖や内海の富栄養化も問題となり,現在では家庭用合成洗剤のほとんどが無リン洗剤になった。→界面活性剤
→関連項目花王[株]化学工業洗剤洗濯洗濯セッケン(石鹸)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「合成洗剤」の意味・わかりやすい解説

合成洗剤
ごうせいせんざい
synthetic detergent

ソープレスソープともいい,石鹸以外の界面活性剤で洗浄の目的に使われるもの。第2次世界大戦後,アメリカで石油化学工業が勃興するとともにアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム ABSを主成分とする合成洗剤が異常な速度で発展,合成繊維,合成樹脂とともに戦後の最大成長化学品といわれた。合成洗剤の種類を主成分別にみると,ABS系洗剤 (鉱油系洗剤) ,高級アルコール系洗剤,非イオン系洗剤などに分れる。 ABSは皮膚炎や肝臓障害を起すとされ,また,大量に家庭で使用されるようになった結果,都市近辺の河川・湖沼が汚染され,浄水場の浄水能力をこえて,上下水道まで汚染される危険が出たので使用されなくなった。さらに他の合成洗剤類も洗浄効果を高めるために添加されるリン酸分などの含有物から,これを栄養分とするプランクトンの異常発生などによる河川・湖沼の汚濁・汚染が,恒常的に社会問題化した。

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化学辞典 第2版 「合成洗剤」の解説

合成洗剤
ゴウセイセンザイ
synthetic detergent

一般には,せっけん以外の洗浄剤を合成洗剤といい,溶剤に溶けて固体の表面に付着しているほかの物質を洗い去るはたらきをする.普通,石油系炭化水素,石炭タール,油脂などからつくられるアニオン界面活性剤,あるいはカチオン界面活性剤を主成分とするものなどが代表的である.一般に,合成洗剤はせっけんに比べて,硬水でも使用でき,低温でも洗浄力が高い利点がある.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

栄養・生化学辞典 「合成洗剤」の解説

合成洗剤

 セッケン以外の化学的に合成された界面活性剤,洗剤.

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