改訂新版 世界大百科事典 「厳島の本地」の意味・わかりやすい解説
厳島の本地 (いつくしまのほんじ)
御伽草子。本地物。天竺東城(とうしよう)国東善王の王子,善哉王は13歳のとき,宝物の扇にかかれた女房を見て恋い焦がれ,西城(さいしよう)国へ飛び,天日王の姫足引の宮と契り,3年3ヵ月の後に伴い帰る。東善王の后たちは宮を呪い殺そうと,衰相を癒すためとの口実を設け,薬草を採らせに王子を鬼満国へやり,留守中に宮を殺害させるが,3月15日死体から若君が誕生する。若君は首なき母の乳房を含み,虎狼野干に守られて育つ。12歳のとき,母の足引の宮を夢に見,苦しみを訴えられ,祈り返しの術のことを告げられる。王子は善哉王と対面がかない,聖の力を得て祈ると197日経て宮は蘇生する。王と宮と王子とは飛ぶ車で西城国へ移るが,王が妹の宮に心を移すので,恨んだ宮は伊予国に落ち着き,衆生済度のため宮殿をつくる。宮の本地は大日,後に飛んで来た王の本地は客人(まろうど)の御前,王子の本地は地蔵で,推古天皇の時代のことである。山中誕生の主題,99人の悪后の設定など,全体の構想は《熊野の本地》と酷似しているが,筋はさらに複雑になり,部分的には《阿弥陀の本地》と一致する。佐伯鞍職や烏のことは,《源平盛衰記》巻十三に見えており,貞和2年(1346)写の残欠絵巻(1軸)以下,多くの伝本を有する。
執筆者:徳江 元正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報