日本大百科全書(ニッポニカ) 「双曲幾何学」の意味・わかりやすい解説
双曲幾何学
そうきょくきかがく
ユークリッド幾何学の公理系のなかの平行線公理を「平面上で直線外の1点を通ってこの直線と交わらない直線が少なくとも2本存在する」で置き換えて得られる幾何学を、双曲幾何学またはロバチェフスキーの幾何学という。この幾何学は1820年代にN・ロバチェフスキーとJ・ボヤイによって提唱された。
射影幾何学は射影平面P2とそれに作用する射影変換群によって決まる古典幾何学(クラインの幾何学)であるが、P2の二次曲線
-x02+x12+x22=0
を不変にする部分群がP2の部分集合
H={(x0,x1,x2)
∈P2|-x02+x12+x22<0}
に作用することによって決まる古典幾何学が双曲幾何学である。このとき二次曲線
-x02+x12+x22=0
を絶対形といい、Hを双曲的平面という。Hの二直線は絶対形の上で交わるとき平行であるといわれる。直線l外の1点を通ってlに平行な直線が2本存在し、lに交わらない直線は無数に存在する。
現代的な見地では双曲幾何学は負の定曲率空間上のリーマン幾何学にほかならない。単位円板{(x,y)∈R2|x2+y2<1}にリーマン計量
を与えて得られるリーマン幾何学や、上半平面{(x,y)∈R2|y>0}にリーマン計量
を与えて得られるリーマン幾何学がそのモデルである(ポアンカレ・モデル)。これらのモデルでは直線すなわち測地線は円周およびx軸に直交する円または直線である。一般にn次元の双曲幾何学が二次元の場合とまったく同様に考えられる。
[荻上紘一]