リーマン幾何学(読み)りーまんきかがく(英語表記)Riemannian geometry

日本大百科全書(ニッポニカ) 「リーマン幾何学」の意味・わかりやすい解説

リーマン幾何学
りーまんきかがく
Riemannian geometry

リーマン多様体、すなわちリーマン計量が与えられた可微分多様体微分幾何学をいう。可微分多様体の各点における接空間に内積を対応させる可微分写像をリーマン計量という。内積が与えられることにより各接空間はユークリッド空間の構造をもつから、リーマン幾何学ユークリッド幾何学を一次近似にもつ幾何学といえる。内積が与えられたベクトル空間(すなわちユークリッド空間)はもっとも簡単なリーマン多様体であるから、リーマン幾何学はユークリッド幾何学の一般化である。また、空間内の曲面の第一基本形式はリーマン計量であり、曲面上で第一基本形式だけで決まる性質を研究する幾何学はリーマン幾何学の重要な例である。

 可微分多様体上にリーマン計量が与えられれば曲線の長さを測ることができるから、2点を結ぶ(局所)最短線を考えることができる。これを測地線といい、ユークリッド幾何学における直線の一般化である。また、ユークリッド空間における平行移動概念をリーマン多様体に一般化することができ、それに基づいて共変微分とよばれる微分演算が定義される。これはベクトル場の微分がまたベクトル場であるような微分演算である。

 リーマン多様体Mの点Pにおいて平面(接空間の二次元部分空間)πが与えられたとき、Pを通りπに接する測地線全体によって張られる曲面のガウス曲率を、MのPにおける断面曲率という。断面曲率が一定であるようなリーマン多様体を定曲率空間という。単連結で完備な定曲率空間はユークリッド空間、球面、双曲空間の3種類である。球面および双曲空間におけるリーマン幾何学が非ユークリッド幾何学にほかならない。

 リーマン計量を変えない(すなわち2点間の距離を変えない)変換を等長変換という。等長変換の全体はリー群をつくり等長変換群といわれる。定曲率空間は最大の等長変換群をもつリーマン多様体である。各点を中心とする点対称変換が等長変換であるようなリーマン多様体を対称空間という。定曲率空間は対称空間であるが、それ以外にも多くの対称空間が存在する。対称空間には等長変換群が推移的に作用しているから等質空間である。一つの方向を含み互いに直交するすべての断面に関する断面曲率の平均をリッチ曲率といい、リッチ曲率が一定であるようなリーマン多様体をアインシュタイン空間という。対称空間は完全に分類されているが、アインシュタイン空間については、いまだわからない性質が多い。

[荻上紘一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リーマン幾何学」の意味・わかりやすい解説

リーマン幾何学
リーマンきかがく
Riemannian geometry

C.ガウスは,空間内の曲線と曲面の性質に微分積分学を応用して,今日の微分幾何学の基礎を築いたが,特に,曲面の等長変換で変らない性質に着眼して,これを研究した。これは今日曲面上の幾何学と呼ばれている。この曲面上の幾何学は,実は2次元の曲率をもった空間の幾何学であることに着目して,ガウスの弟子 G.リーマンは,1854年ゲッティンゲン大学講師就任講演「幾何学の基礎をなす仮定について」において,これを,n 次元の曲率をもった空間の幾何学へ拡張した。これがリーマン幾何学である。 A.アインシュタインがこれを彼の一般相対性理論の建設に利用して以来,人々の注目をひき,今日でも盛んに研究されている。

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