幾何学(読み)きかがく(英語表記)geometry

翻訳|geometry

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

幾何学
きかがく
geometry

人間が知覚できる空間内の物体や諸現象の観察を通してそこから得られた図形の性質を研究する必要性から起った学問。古典的な平面幾何学立体幾何学ばかりでなく,現在では,最も抽象的な思考や想像の産物までが幾何学的に表現されるようになっている。現在ピタゴラスの定理として知られる問題と同様のことを,すでに前 3000年頃のエジプトやバビロニアの人たちが知っていたことは,発見された粘土板にも見出され,当時から,すでにある種の幾何学的知識のあったことが認められる。前 490年頃死んだピタゴラスは,ギリシアの数学者,特にユークリッドに大きな影響を与え,前 300年頃ユークリッドは,幾何学の『原本』を著わし,それ以前の幾何学的知識を集大成した。知識を演繹的に体系化したギリシアの数学は,バビロニアやエジプトのものよりすぐれており,ユークリッドの『原本』は,2000年以上にもわたって,幾何学の聖典として尊ばれた。しかし,ユークリッドの平行線の公理や,その不自然な人為的方法に対する反省から,非ユークリッド幾何学が興ったが,一方では,R.デカルトによる幾何学の代数化すなわち解析幾何学,無限遠点の概念の発見による射影幾何学なども興り,18~19世紀における幾何学の開花時代を迎えた。また,18世紀に現れた微分幾何学によって曲面論が体系化され,19世紀中期には,n 次元のリーマン幾何学へと発展し,やがて E.カルタンらにより接続幾何学として完成された。その発展過程には,A.アインシュタインの相対性理論との関連も見逃すことはできない。他方 19世紀後半には,H.グラスマンによる多次元空間の概念,G.ベラビチスや W.ハミルトンによるベクトル代数の導入などもあり,これらが現代幾何学として大きく前進した。幾何学の基礎に関する徹底的な研究が,19世紀の終りに,D.ヒルベルトによって行われ,これによって幾何学が感覚の世界から分離したものとして構成されるにいたった。ヒルベルトの公理的方法は,単に幾何学の基礎論であるにとどまらず,数学全体の抽象化の直接の動機となった。

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百科事典マイペディアの解説

幾何学【きかがく】

図形や空間の性質を研究する数学の部門。エジプト,バビロニア,ギリシアを通じて発展した初等幾何学はユークリッド幾何学に体系化されたが,近代以後非ユークリッド幾何学解析幾何学射影幾何学微分幾何学リーマン幾何学位相幾何学など多くの分野が生まれている。また平面(2次元空間)図形を扱う幾何学を平面幾何学,3次元空間の図形(空間図形,立体図形)を扱うものを立体幾何学というが,より進んだ幾何学では一般的なn次元または無限次元空間を対象とする。→幾何学原本
→関連項目算数数学マンデルブロー

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世界大百科事典 第2版の解説

きかがく【幾何学 geometry】

一般に,幾何学とは図形に関する数学であると説明されているが,幾何学の対象,内容,方法は時代とともに著しく変遷し,その範囲も非常に拡大され,現在ではこれらをすべて含むように幾何学を定義することはできない。しかしながら,幾何学と名のつく数学では,図形の直観,またはその類似に依存して研究される度合が強い。なお,geometryはギリシア語の〈土地を測る〉を意味するgeōmetriaに由来し,幾何は中国語で量的な問いを意味する疑問詞で,中国からの伝来語である。

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大辞林 第三版の解説

きかがく【幾何学】

図形およびそれの占める空間の性質について研究する数学の一部門。古代オリエントに起こり、初等幾何学はギリシャのユークリッドによって集大成された。現在ではこれをさらに発展させ、解析幾何学・微分幾何学・射影幾何学・位相幾何学など多様な内容・方法をもつに至っている。幾何。 → 非ユークリッド幾何学

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

幾何学
きかがく
geometry

数学は代数学、幾何学および解析学に大別されるが、そのなかでも幾何学はもっとも古くから発達した学問で、図形の研究を目的とする。[立花俊一]

土地測量術から発達した幾何学

古代エジプトではナイル川が定期的に氾濫(はんらん)し、奥地の肥えた土を下流に運んでそこを肥沃(ひよく)にする一方、耕地の境界を破壊した。洪水のあとの土地を再配分するために土地測量術が発達したが、これが幾何学の始まりといわれている。幾何学を意味するギリシア語のgemetraがge(土地)とmetron(測量具)とからなっているのはこのためである。エジプトで生まれた幾何学は海を渡ってギリシアに輸入され、抽象的な思考に秀でていたギリシア人の手によって、しだいに理論的体系をもつ学問に成長していった。ピタゴラス(前500ころ)、ユークリッド(前300ころ)、アルキメデス(前250ころ)、アポロニウス(前230ころ)らが活躍したが、なかでも、それまでの幾何学の知識を集大成して一つの論理体系にまとめあげたのがユークリッドであった。13巻からなるユークリッドの『幾何学原本』(『ストイケイア』)は、定義と五つの公理をもとに厳密な推論を積み上げる方法をとっている。『原本』から発達した幾何学は今日ユークリッド幾何学とよばれ、現在でももっとも応用の広い数学の部門であり、またその厳密な論証の進め方は以後の数学の模範となった。[立花俊一]

中世以降の幾何学

その後、幾何学の暗黒時代を迎えるが、ルネサンス期イタリアで開花した造形美術は幾何学と深くかかわっている。遠近関係を配慮した絵画の描出法である遠近法、すなわち透視画法がそうである。フランスのデザルグやパスカルは、この透視画法の考え方を発展させて、射影と切断で不変な性質を研究する幾何学、すなわち射影幾何学を創始した。これは、19世紀前半のポンスレやメビウスの総合的な研究によって、当時の幾何学界を風靡(ふうび)することになる。なお、製図などに用いられる画法幾何学はフランス人モンジュが始めたもので、19世紀末には現在の形をなすに至る。他方、代数学を使って図形を研究する道が開けてきた。それは、16世紀における座標の導入である。点を座標で表し、点と点の関係を実数の関数関係に置き直して図形を研究する解析幾何学は、デカルト、フェルマーに始まる。解析幾何学の方法論は、17世紀になってニュートン、ライプニッツの微積分の発見を促しただけでなく、逆に微積分を図形の研究手段として利用することを可能にし、微分幾何学へとつながる。とくに、ガウスは曲面上の微分幾何学で本質的な貢献をし、この仕事がリーマンによるn次元多様体の概念を生み出した。多様体の幾何学は、のちにリーマン幾何学とよばれる分野を含む広大な幾何学に発展していく。[立花俊一]

『原本』の第五公理への疑い

一方、ユークリッドの『原本』の第五公理、いわゆる平行線公理「1直線外の1点を通ってちょうど1本の平行線が、存在する」が、他の四つの公理から本当に独立であろうかという疑いを多くの人が抱いていた。これは、1830年前後の非ユークリッド幾何学の発見・創始という意外な結末にたどり着いた。つまり、第五公理を「1直線外の1点を通って少なくとも2本の平行線が存在する」に置き換えても、矛盾のない幾何学の体系ができることを示したのである。それはロバチェフスキーとボヤイによりそれぞれ独立に発見され、現在、双曲幾何学とよばれている。古来、幾何学は一つと信じられていたのに、非ユークリッド幾何学や射影幾何学が出現したことは、幾何学に対する反省を大きく促すことになった。クラインはエルランゲン目録(1872)において、幾何学が多数存在しうる理由を明らかにした。彼は、集合(空間)とその変換の群が与えられたときに、部分集合(図形)の性質のうち群の作用で不変なものを研究することこそが幾何学であると認識した。たとえば、計量のある平面と等長変換群を与えられたときの幾何学が、ユークリッド幾何学にほかならない。すると、出発点の変換群をその部分群に置き換えるとまた別の幾何学が得られることになる。したがって、部分群をさまざまに変えることに対応して多数の幾何学が得られることにもなる。射影空間内に一つ図形(直線や二次曲線)を固定し、射影変換のうちでその図形を不変にするものがつくる群を考えると、ユークリッド幾何学や非ユークリッド幾何学を統一的に論ずることができる。以上述べてきた幾何学は、その源をユークリッドの『原本』やアポロニウスによる円錐(えんすい)曲線論などのギリシア数学に求めることができる。[立花俊一]

ユークリッド幾何学とは別の流れ

これらとはまったく別の幾何学の流れが18世紀のオイラーから発する。オイラーが解いた一筆書きの問題や閉多面体に関するオイラーの公式は、図形の連続的変形によって変わらない性質を研究したものである。19世紀、ポアンカレはこのような研究が解析学にとっても重要であることを認めて、これを基礎づけた。これは位相幾何学(トポロジー)とよばれるようになった。位相幾何学は、複雑な図形を基本的な図形から積み木のように構成されたものとして研究したり、対象の間の関係を群や環などの代数的な量に移し換えて調べたりする学問であり、数学の他分野への応用も広い。[立花俊一]
『矢野健太郎著『幾何学の歴史』(1973・日本放送出版協会) ▽寺阪英孝著『非ユークリッド幾何の世界』(1977・講談社)』

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